第28話 エピローグ

 老人は再び、携帯を確認していた。顔には冷や汗が垂れている。先ほどまでカウンターで作業をしていたバーテンダーはいつの間にか姿を消していた。そして、殺し屋の方に向き直ると、酒を注文したにもかかわらず口をつけていなかった。


「もし、連絡している相手が、前に止まっていた車の運転手か、店の前の大男だったら、返信は来ませんよ。」


 そう言ったのは、殺し屋の男だった。さっきまでの少し学の無いようなしゃべり方ではなく、声音はずっと低かった。


「やはり、お前は……」


 と老人は言う。


「あなたを見つけるのに苦労しました。顔を見たことがなかったので……ドン・フェリーニ。最初は忘れていたようだが、途中から気づいていましたよね?」


 とベンは言った。それに対して、フェリーニという老人は黙っている。


「あなたが、裁判に引きずり出されれば、チャンスはあると思っていました……あなたのことはずっと観察していて、ここにいつも通っていることは分かっていました。問題はでしたよ。」


 そう言いながらベンはカウンターに置いてある新聞を指でトントンと叩いた。フェリーニはまだ、黙り続けている。それに構わず、ベンは話し続ける。


「あの日、ブライアンと俺があなたに裏切られてからこの時をずっと待っていた。一つ聞きたかった。なぜ、俺たちを切り捨てた?」


 すると、フェリーニは手をポケットに入れながらようやく口を開いた。


「それは簡単なことだよ。君たちが使いにくかったからさ! それ以外あるかね?」


それに対してベンは何も言わず、ただフェリーニの目を睨んだ。そして、フェリーニはそんなベンの様子を観察しながら続ける。


「だから……お前も……」


と少し小声で話すと


「お前もあの時に死ぬべきだったんだ!」


 と急に声を張り上げ、ポケットから銃を取り出し、銃口をベンに向けようとする。


 だが、それより早くベンのよれたコートから銃が飛び出してきた。そう、彼のように。フェリーニの勝利を確信した表情が崩れる。そして、一発の銃声が静かな店内に響き渡った。


 そのまま、フェリーニは床に崩れ落ちて動かなくなった。そんなフェリーニを見下ろしながら、ベンは言った。


「殺し屋は忘れた頃にやってくるのさ」


 そして、カウンターに置かれているグラスを手に取ると、酒を喉に流し込んで、その場から立ち去った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る