第26話 ハイウェイでの襲撃
複数の銃弾を浴びた衝撃で少し車がぐらついた。ブライアンはアクセルを踏み、距離を離そうとするが、向こうの方が馬力が強いらしくすぐに追いついてきた。よく見ると、先頭の銃撃をしているジープの後ろにもう一台ジープが走っている。そして、そのジープからも男たちが顔を出し、銃撃してきた。
ブライアンは銃弾が当たりにくいように蛇行運転をする。すると、銃弾がすぐ横を走っていたセダンに命中して、道路脇にクラッシュした。2台の黒いジープは一定の距離を保ちながら、ブライアンのバンを追跡してくる。
「このままではまずいな」
とブライアンが焦りながら言う。
「後ろの奴らは誰なんだ!」
「マディソン達だろう。手前の車の後部座席から銃撃している男を見たことがある」
とサイドミラーを見ながら答える。
「後部座席の下に武器がある。それを使え!」
とブライアンは俺に言った。車体に銃弾が当たる音がひっきりなしに鳴るなか、俺は座席の隙間から後部座席に移った。足場にしゃがんで、よく見ると、座席の両端に手が入れられる部分があった。手を入れて持ち上げるとそこはケースのようになっていて、アサルトライフルとマガジンが置いてあった。
アサルトライフルにマガジンをセットすると、左側の窓を開け、後ろに向かって銃弾を放った。だが、蛇行運転をしているため銃弾を後ろのシープに命中させることは困難だった。そして数発が命中しても、防弾仕様なのかフロントガラスには傷一つ入らなかった。
「ブライアン! これじゃ、倒せない! ほかに武器はないのか!」
すると、ブライアンは大声で、
「予備の爆弾が残っていただろ! あれには時限装置が付いていたはずだ!」
と叫んだ。後部座席から顔を少しだし、後部座席の後ろのトランクを確認する。爆弾はバックドアの近くにあった。手を伸ばせば届くが、手を伸ばしている間にリアガラスが割れ、奴らの銃弾を浴びれば、俺は死んでしまうだろう。すでにリアガラスは複数の銃弾を浴びて今にも粉々に砕けてしまいそうだった。
だが、待っていても事態は悪化するばかりだ。勇気を出して、後部座席から体を乗り出し、手を伸ばして爆弾の入っているケースを掴もうとした。すると、リアガラスにまた銃弾が命中して、円状のひびが入る。「あと少し、あと少しだ……」と指が触れたタイミングで、2発の銃弾がバックドアを貫通して、室内に飛んできた。そして、銃弾はフロントガラスに当たりひびが入る。その銃弾に驚いた拍子にケースに腕が届いた。ケースを引き寄せ、両手で持ち上げる。
と同時にまた数発の銃弾が命中し、リアガラスが粉々に砕ける。だが銃弾が車内に飛んでくる前に、ブライアンは前方の左車線を走っているトラックを追い越し、その前に入った。トラックがそれに対して、クラクションを鳴らす。トラックを壁にしているうちに、再び俺は後部座席に体を隠した。
「時間は5秒に設定しておけ! 今からトラックの車線から出て横に出る。その瞬間に投げろ!」
そうブライアン言われて、爆弾を取り出すと、電源を入れ、5秒でセットする。
「それじゃ、いくぞ! 3……2……今だ!」
と言うと、ブライアンはハンドルを右に切った。それに合わせて、タイマーを起動し、左の窓から後ろに放り投げる。爆弾は道路の上を転がり、2台のうち前を走っているジープが上を通ろうとしたその瞬間、爆発した。巻き込まれたジープは宙に飛び、一回転して屋根から道路の上に落ちた。
「よし!」
と俺がガッツポーズをとったとき、ブライアンはハンドルを右に切った。どうやら、高速の出口に着いたらしい。高速から降りると、一台のジープもそれに合わせて高速の出口にハンドルを切った。
「このまま、街中に入って奴らを撒く」
とブライアンは言った。街中に入ると、ブライアンは角を何度も曲がって彼らを撒こうとした。だが、彼らとの距離はなかなか離せなかった。そんなことをしていると、危機的状況に陥った。ある通りの角を曲がると、工事中で約1キロほど直進する道路となっていたのだ。ブライアンは「クソッ!」と言うと、加速しながら、その道を進んでいく。後ろを見ると、奴らは依然こちらを追ってきていた。そして、奴らのジープのサンルーフが開き、一人の男が屋根から顔を出した。マディソンだ。そして、マディソンはロケットランチャーをこちらに向けている。
「ブライアン! ロケットランチャーだ!」
と言うと、ブライアンは黙ったまま、前方を見つめる。彼が何を見ているのかと俺も前方を見ると、前の交差点の信号が黄色に変わっていた。こんなところで止まれば、ロケットランチャーの餌食になる。
「どうするんだ……ブライアン!」
と言った時だった。ブライアンはアクセルを踏み、スピードを上げた。急にアクセルを踏むので、後ろに体が押さえつけられる。前の信号はすでに、赤に変わり、両側の車が迫ってくる。だが、ブライアンはそのままその交差点に向かってスピードを上げていった。後ろを見ると、ロケットランチャーから弾が発射されるのが見えた。絶体絶命かと思い、「ブライアン!」と思わず叫んでしまう。
だが、ブライアンは加速したまま、交差点に進入する。そして、左から迫るトラックをギリギリでかわした。ロケットランチャーの弾はそのトラックの貨物部分に命中し、爆発した。
これで助かったと思った瞬間だった。右から来た車がブライアンのバンの後部に接触した。その影響でハンドルのコントロールを失ったのか、バンは車線上から外れて近くの電灯に正面から激突した。かなりのスピードが出ていたため、その衝撃は凄まじいものだった。
俺はフロントガラスに思いっきり投げ出されるようなことはなかったが、助手席の背中に思いっきり頭をぶつけていた。体を起こして、頭を手で触れると少し血が出ている。他にも全身強く打ったようでいろんなところが痛かった。意識も少し朦朧としていたが、ブライアンの安否が気になり、運転席を覗き込む。
エアバッグが正常に作動していてとりあえず安心した。だがよく見ると、ブライアンは左側の頭部を運転席のガラスに強く打ち付けていた。頭部が当たっている部分を中心にガラスにヒビが入っている。そして、頭部からは大量の血が垂れて、首元からさらに下へと流れている。おもわず、彼の体を揺さぶりながら、声をかける。
「ブライアン! 大丈夫か、ブライアン!」
すると、ブライアンは薄く目を開け、掠れた声でつぶやいた。
「ベン……行け……行くんだ……」
「置いていくなんてできない! しっかりしろ!」
とブライアンの体をさらに強くゆすった。だが、頭部の血はさらに流れ続ける。ブライアンは焦点の合わない目でこちらを見ながら、
「ベン……行くんだ……」
と言うと、目と口を開いたまま、動かなくなった。口に手を当てると息をしていなかった。深い絶望が急に心を突き刺す。めまいのような感覚を覚え、全身から力が抜けていくのが分かった。先ほどまでのブライアンとの楽しい会話が遥か昔のように感じられた。あまりの悔しさに両手のこぶしを強く握る。あまりに強く握ったためか、爪が食い込み手のひらから血が流れ出た。
悲しみに暮れていると、後ろから車の停車音がする。そちらの方を振り返ると、黒いジープが停車して、中からマディソンとその部下たちがアサルトライフルを片手に出てきた。
・・・
マディソンは一緒に出てきた二人の部下に
「車から離れた奴はいなかったか?」
と質問した。二人とも、「はい、見えませんでした」と答える。すると、マディソンは車に銃口を向ける。それに合わせて部下たちも銃口を向けた。
「撃ちまくれ!」
とマディソンが手で合図をすると、3つの銃口から大量の銃弾がブライアンのバンに向かって放たれる。車の車体には大量の穴が空き、窓ガラスは粉々に砕け散った。約10秒ほど銃弾を撃ち込むとマディソンは止めの合図を出し、部下に車を確認させに行く。
部下は車を覗き込みながら、周りを一周して確認する。確認を終えると、少し戸惑ったように言った。
「ブライアンの死体しかありません!」
「なんだと!」
とマディソンも車の方に向かう。ジープの運転手が「もう行かないと警察が来るぞ!」とマディソンに訴えるが、彼はそれを無視した。
彼が、車の周りを確認すると、とあるものを見つけて、「クソッ!」と叫んだ。
「あいつらは本当に地下が好きらしい」
彼が見つけたのは車の脇にあるマンホールだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます