第24話 最後の仕事

 パレード当日、組織のビルの前にバンを停め、ブライアンは今回の作戦に必要な物資を受け取りに行っている。その間、俺はバンの中で買収した警官から買い取った下水道の巡回予定表を暗記していた。


 しばらくすると、ブライアンと一緒に新入りとみられる男が二人ほど、箱が積まれたカートを押しながらやってきた。ブライアンはバンのトランクのドアを開けると、その新入りたちは箱をトランクに載せ始めた。そして、詰め終えると、箱を指さしながら、


「これがダイビング用のスーツで、これが酸素ボンベ、これが工具セットで……」


 と男は説明した。そして、最後にアタッシュケースを指さすと、


「これがドカーンです」


と言いながら、大げさに両手を叩いた。それを聞いてブライアンは「ありがとう」と言うと、男たちは「では!」と言ってビルに戻っていった。ブライアンが運転席のドアを開けて座ると、俺に声をかけてきた。


「暗記できたか?」


「なんとか」


「それじゃ行くぞ」


 そう言って、ギアを変更すると、車は発進した。



 ・・・



 侵入することにしていた下水道の入り口に着くと、ブライアンと俺はダイビングスーツに着替え酸素ボンベを背負った。そして、頭にゴーグルを着ける。場所は町はずれの山の中で、市が把握できていない場所だった。だから、俺たちが誰かに見られる心配はなかった。ブライアンは着替え終わると、チェーンカッターで下水道の扉にかけてあったチェーンを切断し、扉を開ける。


 俺が着替え終わると、ブライアンはトランクから先ほどのアタッシュケースを取り出すと、それを開けた。中には、映画でよく見るような爆弾の装置が2つあった。


「俺とお前で一つずつ持っていく。お前の持っていくのは予備だ。時限装置も付いているが、今回は遠隔装置で行う。遠隔装置はマディソンの部下が持ってる。俺らじゃいつ爆破すればいいかわからんしな。」


 そう言って、腰に巻く防水加工のかばんに1つずつ詰めると、片方を俺に渡してきた。ブライアンは簡単に持ち物をチェックすると俺に向けて話す。


「一応、銃は持っていくが、絶対に警官を撃つなよ。警官を殺せば、味方はいなくなると思え!」


 少し驚きながらも「わかった」と返事をすると、ブライアンは下水道の入り口に向けて歩き始めた。



 ・・・



 俺とブライアンは下水道の水に潜り、水底にある水道管から、目標に向かって進行していった。ブライアンは進行上にある、鉄格子を切断用のバーナーで焼き切っていく。


 水道工事をしていると嘘を言っていたが、本当にこうして下水道に潜る羽目になるとは思っていなかった。下水道の水はドロッとしていて鼻が曲がりそうな悪臭だった。そんな汚い水を少しずつ突き進んでいく。水道管の中は狭く、先がよく見えないので自分が本当に進んでいるのか不安になる。このまま、水道管の中から永遠に出られないのではないかとつい考えてしまう。


 そんなことを考えながら、先へ先へと進んでいくと、ようやく目標のマンホールの近くの通路に出た。水の中から顔を出す。そこは真っ暗で明かりが無ければ、何も見えなかった。防水加工の腕時計を見て時間を確認する。この腕時計は針に塗料が塗ってあり、暗闇で光るようになっていた。目標のマンホールは一番手前の曲がり角を左に曲がって、その後、二番目を右に曲がった場所にある。


 そのまま、地図を思い出しながら、音をたてないように静かに泳ぐ。壁伝いに進み、左に曲がって少し待つ。すると、巡回予定表の通り奥から警官らしき人影が、懐中電灯を片手にこちらに進んできた。そして、手前で左に曲がっていく。警官が十分に離れたと確認できると、そこからさらに進む。その頃には、目が慣れてきて少しだけ下水道の通路の輪郭が分かるようになってきていた。


 二番目の角を右に曲がると、奥をのぞき込む。警官が通路の奥に向かって歩いているのが見える。しばらく、周囲を懐中電灯で照らして異常がないか確認すると、左に曲がって消えた。次に警官が来るのは5分後だ。ブライアンはマンホールにつながる梯子の近くまで静かに泳ぐと、酸素ボンベを俺に預けて、通路に音をたてないように上った。そして、長い梯子を登っていく。その梯子は鉄製だったが地下の湿気に長い間さらされたせいか、錆びついていた。


 ブライアンは長い梯子を登りきると、マンホールの裏に爆弾をセットし、スイッチを入れる。そして、今まさに下りようとした時だった。梯子の踏ざんの部分が取れて、下に落ちたのだ。そして、踏ざんが地面に落ちると、その音が下水道内に響き渡る。ブライアンは何とか両手で梯子にぶら下がっていた。そして、足を別の踏ざんにのせる。


 その音を聞いてか、左右から足音が聞こえてくる。これはまずいと思い、俺は通路に落ちている踏ざんのパーツを取ると、ブライアンの酸素ボンベを水底に沈めて、水の中に潜った。すると、下水道の両端の通路を人が通り過ぎるのが、懐中電灯の明かりから分かった。


 少し離れた場所で、水から顔を出すと、二,三人の警官が集まって、「何だ?」と話しあっていた。このままでは、ブライアンが梯子から降りられないうえ、いずれ見つかってしまうだろう。


3人程度なら殺れるか? と銃を取り出そうと考えたが、この任務の初めにブライアンに言われたことが頭に浮かび思い止まった。それに、ここで大きな銃声が聞こえれば、下水道内の警官が一気に押し寄せるだろう。


何かこの状況を打破する手立てはないかと考えた時だった。右手に持ったままの踏ざんを見て、俺はどうにでもなれと賭けに出ることにした。先ほど拾った踏ざんを遠くの壁に向かって、思いっきり投げつけた。


 すると踏ざんは壁に当たったのか金属がぶつかるような音の後に、水に落ちる音が下水道内に響いた。「今度は何だ」と、警官たちがそちらに向かって確認しに行く。そして、何も異常が見つけられないとわかると、「この下水道は古いからな! 部品か壁でも剥がれて音を立てたんだろう」とまた、元のポジションに戻っていった。



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