第23話 別れと作戦会議

 次の日、俺はケイトの出演する映画のスタジオに来ていた。近くのスタッフの人に「ケイト・ミラーさんにこれを渡しておいてください」とピンクのカーネーションの花束を渡す。そのスタッフはケイトを呼ぼうとしたが、俺はそれを止めて、「もう帰りますから」と言った。

 奥の方を見ると、ケイトがスタジオの隅で、何度もセリフの練習をしている。彼女曰く、セリフは数行しかないらしい。だが、彼女はその数行に全身全霊で取り組んでいる。そんな彼女を邪魔する気にはとてもなれなかった。


 そんなケイトを見つめながら、その場を後にした。彼女はきっとこの後成功するだろう……



 ・・・



 俺は午後にブライアンと打ち合わせをすることになっていた。彼の家に行くと、誰もいなかったので、事前にもらっていた鍵で中に入る。


 しばらくすると、家の前に車が停まる音が聞こえ、扉を開けてブライアンが入ってきた。


「遅くなってすまない」


 と言うブライアンは筒状に丸められた紙などが入っている紙袋を手に提げていた。それを机に置くと、「アイスコーヒーなら、すぐに出せる」と冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出し、キッチンの棚からコップを二つ取り出した。俺は準備をしているブライアンに声をかける。


「暗殺って、いったいどうやってやるんだ? ボスは『見せしめに大衆の前が好ましい。』って無茶な注文まで付けてきたけど。やっぱり、狙撃かな?」


「いや、狙撃は位置から追跡されて、すぐに捕まるさ。だから、この街ならではの方法でやろうと思う」


 とアイスコーヒーを注ぎながら答える。


「そこに、筒状に巻いてある紙があるだろ? 広げてみろ」


 そう言われて、紙袋から筒状に巻かれた紙を取り出した。それを広げると、そこには、何かの地図が書かれていた。ブライアンはコップを俺に手渡して言う。


「それは、この街の地下を通っている下水道の地図だ。100年ほど前から、何度も拡張が繰り返されて迷路みたいになってる。市でもすべてを正確に把握できない程にな」


「もしかして、下水道から市長の近くまで行って、銃撃するのか?」


 とブライアンに冗談めかして聞く。


「そんなわけあるか! 今度、市長の就任の凱旋パレードがある。そのときにここのマンホールの辺りをあいつは通るはずなんだ。だから、そこの下側に爆弾を設置する」


「そんなことができるのか?」


 とブライアンに言うと、彼は紙袋から8つ折りにした紙を取り出した。


「確かに下水道にも、警察が巡回に来る。設置は市長が通る直前にしなければならない。だから、これがある」


 と言って取り出した紙を広げた。それは、今見ている下水道の地図と似ているが、より何かが追加で書き込まれていた。


「今、見ていたのは下水道の通路の地図なんだ。この地図には、人が通ることはない水道管まで書き込まれている。だから、この水道管の中を通っていけば、市長の近くにまで行けるのさ。ちなみに一部の管は市の連中も把握していない。それに目標の近くは水が2メートルほど深くなっているしな」


「ブライアンもしや……」


 とブライアンの方を向いて、驚きの表情を見せると、ブライアンはニヤリと笑って、訊ねてきた。


「お前、ダイビングは好きか?」

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