Last Chapter. Good Luck -何事にも終わりは必ずやってくる-

第21話 呼び出し

「私たちそろそろ結婚しない?」


 そう言われたのは、ケイトの映画への出演が決まったお祝いをしている時だった。あまりにも急に言われたので、飲んでいたワインが気管に入ってむせこんだ。だが、いつかは言われるのではないか、と心のどこかで思っていた。


「私は今まで、自分の夢を目指して走ってきた。だから、結婚が足枷になるのが嫌だった。でも、もう夢はかないそうだし、身を固めてもいいと思ってる。今の監督が次はメインで使ってくれるそうよ」


 と言って、こちらの反応を伺ってくる。だが、彼女と目を合わせることはできなかった。彼女がそういう話を持ち出してきたときに、一番に頭に浮かんだのはロッソのことだった。ケイトと結婚すれば、俺の仕事はきっと隠せないだろう。それに彼女が理解を示してくれても、彼女を危険に巻き込むことになるのだ。今のままでもいけないことは分かっていた。だが、俺はどうすることもできずにズルズルと現状の関係を続けようとしていたのだ。


「ケイト、俺もそう言ってくれて、うれしく思う。俺だってそうしたい。だけど、できないんだ……」


「どうして?」


「理由は言えない。でも、無理なんだ……」


 そういうと、ケイトは少し不機嫌そうな顔をしたが、俺の思いつめた表情を見ると、機嫌を直して優しく訊ねてきた。


「私に今までずっと何か大きな隠し事してない? ずっと、私もそのことが気になってた。よく心ここにあらずってときがあったし、心配していたの。私はあなたが何を隠していても、見捨てたりはしないわよ? ここまで言ってもその理由は言えない?」


 と言ってきた。ケイトにこんな心配をかけていたのだと知って、自分の愚かさを後悔した。なぜ、ここまで現状の維持にこだわったのだろう。彼女にはきちんと話すか別れるかきちんとけじめをつけておくべきだった。それを彼女の優しさに甘えてここまで引き伸ばしにしていた。


 ここで、勢いに任せてしゃべってもよかった。だが、その場の空気で決断することは後々また後悔を生むと感じ、こう言った。


「少し考えさせてくれ……」


 ケイトは何も言わなかったが、ただ優しげに微笑んで「わかったわ」と言った。




 ・・・



 次の日、ブライアンに呼び出されて、街でも有数の高級ホテルに呼び出された。エントランスのソファで待ってると、ブライアンがホテルの駐車場のエレベーターから現れた。


 彼は、「こっちだ」と言うと、今度は客室用の別のエレベーターに向かう。エレベーターに乗ると、彼は10階のボタンを押し、俺が乗るとボタンを押してドアを閉めた。そして話し始める。


「今日、お前はボスに会う。覚悟しておけ! 油断できない相手だ」


 俺は少しビビったが首を縦に振った。10階の扉が開くと、そこには黒人の大男がいた。


「やあ、ブライアン。前回の抗争の時以来だなぁ」


 とねっとりとした話し方で言う。


「ああ、マディソン。久しぶりだ」


 とブライアンが答える。マディソンには前回、組織間抗争があったときの作戦会議で出会っていた。その時も思ったが、ブライアンは身長が高い方なのに、マディソンの体ががっしりしているせいで、すこし小さく見える。


「ボスはこっちにいる」


 とマディソンは俺たちを奥の部屋まで案内した。


「ブライアンとベンが来ました」


 とマディソンがノックの後に声をかけると、中から「入れ」と男性の声がした。それを聞いて、マディソンはドアノブを回して、扉を開けた。


 扉を開けると、中は薄暗かった。明かりは入り口の近くに2つスタンドライトがあるのみで、部屋の明かりは点いていなかった。そして、入り口から大型の長テーブルが奥に向けて伸びていた。そして、奥は明かりが届いていないが、よく見てみると、上座の中央に誰か座っていて、その周りに男たちが何人か立っていた。すると、表情は分からないが座っている男が話し始めた。


「ブライアン、お前に頼みたい仕事がある」


 そう、その男が俺の所属している組織のボスだった。


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