第19話 一つの結末

 ブライアンのその発言で、場の空気が完全に変わってしまった。ロッソもすでに真剣な表情をしていて、さっきまでの冗談を飛ばしていた男と同一人物には思えないくらいだった。しばらく沈黙が続いた後、ロッソは語りだした。


「前回、下の連中が問題を起こして、組織に歯向かったろ? その時に、それを裏で指示したのは俺じゃないか、って噂が流れたんだ。確かに反乱のメンバーの中におれが面倒を見てたやつが混じってた。だけどな、神に誓って言う! あの時俺は裏切ってはいなかった」


 ロッソは徐々に怒りが混じっているのか、声が大きくなっていた。そして、こちらに訴えかけるような表情をしていた。


「その時は何とかボスに釈明して、疑いを晴らした。でも、次に何かトラブルが起こったとき、どうなるかはわからない。とても不安になったんだ。何もしていないのに、俺や家族が危険な目に遭うんじゃないかって……」


 と言いながら今度は徐々に涙声になっていった。瞳に涙が少し浮かんでいるのが分かる。ロッソは壁側の写真の方を見つめた。写真には、ロッソと妻と思われる女性、そして子供が写っていた。だが、今この家には彼しかいない。


「怖かったんだ。この地位になっても、いくら成り上がっても、全てを失う時が来るんだと……だから、より安全な立場になろうと、別の組織に情報を売って、ボスの座を狙ったんだ」


 そのロッソの話を聞いて、ブライアンの方を見る。ブライアンは俯いたまま、何も言わなかった。


「ブライアン、本当にすまなかった。ボスに話はつけてくれたんだろ? 俺の家族に手出しさせないように……本当にありがとう。こんな俺のために」


 そう言うと、ようやくブライアンも口を開いた。


「いいや、俺は大したことはできなかった」


 と、悲しげに言う。それを聞いて、「そんなことはない」とブライアンを励ますように、涙を潜めて彼は優しげに言った。


「お前のおかげさ。本当にありがとう」


 そして、


「もう、今日はお開きにしよう! 本当に今日は二人に会えてよかった!」


 と言って精一杯の笑顔を作ると、ブライアンに手を差し出した。そして、「じゃあな!」と言うと、ブライアンは俯いたまま「ああ」と言い、握手に応じる。次にこちらにも「今日はありがとう」と言って、握手をしてきた。俺はその時何も言えなかった。


 そして、ロッソは奥の階段に向かい、そのまま二階に上がっていった。そこで、俺はブライアンに言った。


「もしかして、俺のせいでこうなったのか?」


「いや、お前のせいじゃない。それに、例の話を上に伝えたのは俺だ」


 この前の刑事が言っていた裏切り者はロッソだったのだ。そしてブライアンは続ける。


「いいか、俺がお前に言いたいのは、この世界を選んだ時点で、未来は幸せなものにはならないってことなんだ。常に死の恐怖が体を蝕む。次の日に急に命を落としても不思議じゃないところに俺たちはいるんだ。ロッソは幹部にまでなりながら、そうした恐怖を味わっていた。そして負けたんだ……」


 そうブライアンが言った後、しばらく俺は何も言えなかった。


 しばらく沈黙が続く。だが、その沈黙を一発の銃声が破った。どうやら、二階から聞こえてきたようだ。その音は今まで聞いたどの銃声よりも頭の中に印象強く残った。ブライアンが「行こう」と言って玄関に向かって歩き続けた。


 歩いているブライアンの背中は大きな悲しみを背負っているようだった。ブライアンも裏切者がかつての相棒だとは想像もしていなかったのだろう。今、一番つらいのはブライアンだ。そこで俺は決意を固めて、彼が運転席のドアを開けようとしているときに、玄関の入り口から話しかけた。


「確かにこれは俺の未来の一つの答えかもしれない……でも、俺は答えを探し続けるよ」


 すると、ブライアンは「そうか」と言い、車に乗り込んだ。




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