第7話 簡単な仕事

 俺がブライアンに呼び出されたのは、市街地からあまり離れていない住宅街だった。ブライアンは歩きながら、事の経緯を説明する。


「最近うちの組織が管理してる店で、おいたが過ぎることをした奴がいてな。”デイヴ・フィッシャー”っていってな。なあに、不良のクソガキだよ。だから、今日は少し大人の世界の厳しさを分かってもらうことにする」


 そんなことを言っていると、ブライアンはとあるアパートの前で止まった。「ここだな」というと、そのアパートに入っていくので、それに付いていく。そして、彼は入り口の正面にあったエレベーターに乗り、俺が乗ると三階を押した。エレベーターに二人で乗っている間、ブライアンは話を再開する。


「今回は一応、ニケとルネも来ることになってる。相手が自暴自棄になって、変なことをされても困るからな。奴の部屋の前で待っているはずだ」


 話し終えるちょうどその時、エレベーターは三階に止まり扉が開いた。目標の部屋はそのフロアの隅にある。だが、不思議なことに、ニケとルネは部屋の前にはいなかった。

 

「あいつら、先に始めやがったな!」


 とブライアンが少々呆れながら言った。そして、ブライアンは俺に扉を開けるように言いいながら、銃をポケットから取り出す。扉が開かない場合は考えないのかと思いつつ、ドアノブをひねる。すると鍵はかかっておらず、簡単に扉は開いた。慎重に扉を開いていくが、何か大きな違和感があった。扉に何かがもたれているのだ。そして、ブライアンの方を見ると、サングラスをしていてもわかるほど驚愕の表情が現れていた。


 「ニケだ……」

 

 とブライアンが言うので、扉の裏側を覗くと、そこには頭部を銃で撃ち抜かれた男の死体がもたれかかっていた。


「今日は銃を出しておけ。危険だと思ったらすぐに撃て」


 とブライアンは囁くように言った。俺はズボンに挟んでいた銃を取り出すが、すでにグリップを握る手には汗がにじみ出ている。


 「そのままゆっくり、ドアを開けろ」とブライアンは言うと、内部を確認しながら最低限入れる幅に扉が開くと中に入っていった。そして、廊下のクリアリングを簡単に済ませると、扉にもたれかかっている死体をどけて、廊下に寝かせた。そのタイミングでこちらに入っていいと指示を出したので、俺は中に入っていった。


 俺とブライアンが廊下の左右の部屋を確認しながら進むと、キッチン接続型のダイニングに出た。右側にはキッチンがあり、左にはさらに廊下が続く扉があった。そして正面はベランダにつながっている。


 ダイニングの中央にはテーブルと椅子があった。食事中に二人が乗り込んだのか、テーブルにはトマトベースのスパゲッティが二人分、皿に盛りつけられたままになっている。そして、そのテーブルの向こう側にもう一体の死体があった。


「こいつはルネだ。ひどい有様だ」


 ルネの喉元には何か鋭利な刃物で切られたような傷が残っていた。動脈を切られたためか、喉元から出た血が鮮紅色の池を作りだしている。ブライアンは少しの間、眉間に指を当てながら黙っていたが、


「先に始めて、返り討ちにあったんだな。もう外に逃げたかもしれんが、死体の状況を見るに、ついさっき殺られたばかりだろう」

 

 そして、こちらの方に振り返ると、


「ベン、お前はベランダを確認して、そのあと周りに奴が逃げていないか見てくれ。俺はこの先の部屋を確認する。」

 

 と言って、左側の廊下の方を指さした。


「くれぐれも注意しろよ。失うものがない奴が一番危険だ」


「わかった」と返事をして、俺はまずベランダに向かった。



 ・・・



 ブライアンは慎重に廊下の扉を開いた。すると、廊下には左右に4つの部屋があった。まず、手前の左右の部屋を確認する。一つは物置、もう一つはリビングとして使われているようだが、特に人が隠れられる場所はなかった。


 そして、奥の部屋にとりかかる。まず、左の部屋から確認することにした。扉をゆっくり開けると、そこは寝室になっていた。ベッドが置いてあり、入り口の正面には窓が、そしてその横には箪笥が並んでいて、隅にはスタンドミラーがある。


 誰もいないのか確認しようと、部屋に入ろうとした瞬間だった。金切声が聞こえて振り返ると、女が右側の部屋から飛び出してきて、ナイフを振り上げて襲い掛かってきた。


 咄嗟に左腕でガードするが、ナイフが浅く突き刺さる。おもわず、うめき声を漏らしてしまう。女はナイフを引き抜き、もう一度、振りかぶった。だが、それより早く、ブライアンは銃のグリップで女の頭部を殴りつけた。


 女はそのまま気絶して寝室の床にうつぶせに倒れた。


「クソッ!」


 と言いながら、刺された左腕を右手で押さえた。倒れた女と近くに落ちているナイフを見ていると、大きな違和感を感じ始める。ニケは銃でやられていたのだ。そして、テーブルの料理は二人分用意されていた。違和感が確信に変わろうとしたとき、ギィと何か開く音が後ろからした。


 振り向くと同時に銃声が部屋の中に響き渡った。




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