Chapter Two. Chance -変化はいずれやってくる-

第6話 ケイトとの出会い

 あれから、ブライアンと仕事をいくつかこなしたが、いまだに自分が本番で銃を使うようなことは無く、銃を使うのはいつも訓練の時だけだった。どうやら、少し難しい案件はブライアンが一人でこなしているようだ。上からの指示がブライアンで止められていて、自分に入ってくることはない。そのことをブライアンに言うと、適当にしらを切られる日々が続いていた。


 特にお金に困るようなことはなかったが、若者である自分には、もっと刺激のあることがしたかった。仕事の相手が毎回、ギャング崩れやちょっかいを出してくる不良では何か物足りなかった。


 だが、そんな日々に新しい刺激がやってきた。ある日、偶然立ち寄ったカフェで、俺はウェイトレスの女性に一目ぼれをしたのだ。金髪のロングに、碧眼の白人女性だった。そしてその長い髪を後ろで結んでいた。


 さすがに、その日は作戦を練ろうと考え、しばらくしたらカフェを出ようと決めていた。だが、彼女に見とれながらコーヒーを飲んでいると、気管にコーヒーが入ってむせてしまった。しかも、その拍子にコーヒーがカップから少しこぼれて、ジーンズにかかってしまった。


 すると、彼女はそのことにすぐに気づき、近くの手拭を水で濡らすと、それをこちらに持ってきた。


「ありがとう」


 と言って、手拭を受け取る。


「いいえ」と彼女は笑顔で答えた。たしかにこんな情けないところを見たら、誰でも少し笑えてしまうだろう。今日は戦略的撤退だと決めて、カップに残ったコーヒーをグイッと飲み干すと、会計に向かう。


 だが、結局会計も彼女が担当したので、コーヒーのシミのついたジーンズを彼女に見られて恥ずかしかった。



・・・



 その後、何度もその店に通った。たまに彼女のいないハズレの日もあったが、彼女に話しかけられるチャンスを狙って、通い続けるうちに週に4~5回は通うようになっていた。そして、チャンスはやってきた。ブライアンも言うようにチャンスは2度は来ないのだ!


 その日は、ひどい雨で客は自分以外にもう一人、老人が本を読んでいるだけだった。だが、その老人も、雨が少し弱まったときに会計を済ませて、店を出た。その直後にまた大降りになったのはまた別の話だ。


 店長らしき人は厨房の方に行き、ホールには彼女と自分だけになった。そして、少し離れたカウンターで作業している彼女に声をかける。すると彼女はこちらのテーブルにやってきた。


 そして、彼女が要件を聞こうとするより早く質問をする。


「君はここでバイトとして働いているのかい?」


「ええ、そうよ」


 と彼女は笑顔を交えて答える。


「学生なのかい?」


「いいえ、違うわ」


「じゃあ、どうしてここでバイトを?」

 

 彼女は答えていいのか少し戸惑った後に


「実は女優志望なの。それでレッスンのためにお金が必要で……」


「それは大変だね。君の夢を応援するよ」


「そういうあなたは何をしているの? 最近まで見ない顔だったけど」


 と言われて、殺し屋だと名乗るわけにもいかず、


「隣町で少し別の仕事をしていたんだけど、親父が体調崩して……この間、この街に戻ってきたのさ。そして、親父の仕事を引き継いでね、水道工事から何やら色々やってるんだ」

 

 と架空の自分、ベン・タイラーを登場させた。


「あなたも大変ね」


「そんなことはないよ。今の仕事も充実してる」

 

 と虚偽の発言を繰り返す。


「ごめん、名乗るのが遅れたね。僕はベン、ベン・タイラー」


「私はケイト」



・・・



 そんなこんなでいろいろ話を続けていたが、そろそろ、ブライアンに呼び出される時間が差し掛かっていた。そこで、イチかバチかの賭けに出た。


 「今度、一緒に食事しない?」


 すると、彼女はすこし迷ったそぶりを見せながら、


「ええ、いいわよ」

 

 と答えた。


「初めて話す男の誘いには乗ってくれないかと思ったよ」


「あなたのことは印象に残ってたもの! コーヒーをむせてこぼして、ジーンズを汚すような人そうそういないわ! かわいい人だって思ってた」


「かわいい? 僕が!」

 

 と笑いながら返答する。


「そしたら、今週の金曜日の夜はどう?」と彼女に質問する。彼女はスケジュール帳を服のポケットから取り出して確認すると、「ええ、いいわよ」と答えた。


 「わかった」と返事をして、「店が決まったら、伝えるから連絡先を教えてくれないか?」と彼女に聞いた。


 すると、彼女はカウンターの裏から、メモ用紙を一枚とってくると、そこに電話番号を書いて、こちらに渡してきた。

 

「これが電話番号」


「ありがとう。明日の夕方までには連絡するよ。それじゃあ、今日は失礼するよ。そろそろ仕事に行かなくちゃ」

 

 と言って席を立った。そして、彼女に会計をしてもらう。外を見るといつの間にか雨は止んでいた。店を出るときに彼女に、「じゃあ、また」と手を振って別れの挨拶すると、彼女もそれに応えて笑顔を交えて手を振ってくれた。


 






 



 

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