第3話 車内の会話

 ファットが現れるのを待つしばらくの間、お互いに一言も発しない気まずい時間が流れたが、その沈黙を破ったのはブライアンだった。


「お前、新人だろ? それで俺に教育係をしろってことだな?」


「はい。あなたはこの界隈では生きる伝説だと聞いています。あなたと一緒に仕事ができてうれしいです」


 と若干媚びた返事をするが、ブライアンは表情一つ変えず、店の前から目を離さなかった。そして急にまた質問を投げかけてくる。


「お前、今までに何人殺してきた?」


「確か……ええと……二、三人です」


 と曖昧な返事をすると、すぐに、


「別に数を盛ったりしなくていい。正確に答えろ」


 と若干苛立ちながら言い返された。数を盛ったことを見破られて、少し冷や汗が流れる。ごまかしは聞かないと感じてこう答える。


「一人です」


「だろうな。どうせ、それでその町の警察から逃げるためにこの町に来たんだろう。そういう奴は今まで山ほど見てきた……」


 とブライアンはつまらなさそうに言う。そして続ける。


「たった一人を殺して、偶然警察に捕まらなかった。だから、自分に殺しの才能があると勘違いしてるんじゃないのか?」


「いいえ」と返事をしようとするが、また、ブライアンが口を開いたので遮られる。


「俺たちの仕事はな、運で成功させるんじゃない。知識とテクニックで成功させるんだ……いや、成功させ続けなきゃいけない。運で仕事をする奴は、2,3回やってれば、どこかでヘマをして組織に損失を出すんだ」


 ブライアンは徐々に語気を強める。


「だから、お前には訓練と経験で実力をつけてもらう。今のままでは、アマチュアと変わらん。お前はプロになるんだ。 分かったか?」


 ブライアンはいつの間にか外ではなくこちらの目を見て話していた。今まで、教師に何か言われてもまともに返事をしない俺だったが、大きな声で迫られて、


「はい、わかりました」


 とつい口から返事が出ていた。ブライアンの言葉からはプロとして重みのようなものひしひしを感じる。彼と会話していると、自分がこの世界でプロとして生きていくという意識を否が応でも実感させられるのだった。


 そんな会話から、さらに何分か車の中で待機していると、


「いたぞ、豚野郎のファットだ!」


 とブライアンは言った。急いで目標を確認しようと目を凝らすが、見つけられなかった。そんなことをしていると、ブライアンはエンジンを切り、運転席のドアから外に出た。それに続くように、自分もドアを開けて外に出る。車が両方向の車線から来ていないのを確認して、彼に続いて道路を渡ると、店の前でブライアンはこちらを振り返って立ち止まった。


「今日のお前はほとんど何もしなくていい。緊急時まで銃は出すなよ。かえってややこしい事態になる」


「わかりました」


 と頷きながら返答すると、ブライアンは店の中に入っていった。それに続いて俺も店に入る。


 最初の仕事が今始まる、と緊張感や不安を感じているのか少し腕が震えていた。









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