Chapter One. Beginning -チャンスは2度はやってこない-

第2話 相棒の名はブライアン

 夕日が西に沈み、街が闇に覆われる時間に、俺は中心街を歩いていた。今日、この近くで新しい仕事のパートナーと会う約束があるのだ。太陽が沈んだからか、一層肌寒く感じる。広場まで来ると、家に帰ろうとする者、今から夜の街に繰り出そうとする者など、様々な人と通りすがった。


 この人混みを見ていると、パートナーを時間内に見つけられるのか不安になり、聞かされた彼の特徴を頭の中で思い出しながら、もらった写真をポケットから取り出して見直すことにする。


 その写真には、サングラスをかけた黒人のナイスミドルが映っていた。髪は白髪交じりの短髪で口髭を生やしている。聞いた話だと、身長は2メートル近くあるらしい。もしわからなかった場合のために、と彼が普段使っているという黒いバンのナンバーが写真の裏に記されていた。


 それを見ながら歩いていると、広場の出口に着いた。そこは道路になっていて、道路沿いにはあちらこちらに車が路上駐車されている。黒い車が無いか探していると、左手のそう遠くない場所に黒いバンが駐車されていた。そして、その車のドアのところにもたれている長身の黒人男性が見える。


 その男性の元に早足で向かいながら、車のナンバーが確認出来る距離になると少し遅く歩いて、車のナンバーを確認する。そして、ナンバーが写真の裏に記されたものと一致していることを確認すると、車にもたれている男性に声をかけた。


「あなたがブライアンさん?」


 すると、「ああ、そうだ」と返答があった。


「ベン・タイラーです。マルコムさんに言われてきました。よろしくお願いします」


 と、言ってから手を差し出す。彼もそれに応じると


「さっそく、仕事だ。これからある場所に向かう。隣に乗れ」


 と右側の席を指さしながら言った。「はい!」と答えると、俺は回り込んで助手席のドアから車に乗り込む。ブライアンは運転席に座ると、キーを差し込んでエンジンをかけ、車を走らせた。


 運転しながら、ブライアンは


「今日の仕事だが、お前は特に手を出すこともないだろう。俺が大体やる。邪魔はするな」


 と言ってきた。「でも……」と言い返そうとするが、ブライアンは反応せず、黙って運転を続けた。



・・・



 15分ほど車に乗っていると、ブライアンはとあるディスコの反対側に車を停めた。外から見ても分かるくらいその店は大きかった。ディスコの前には開店を待つ客たちが列をなしている。大げさに大きな声をあげる若者やら悪趣味な宝石を身に付けている成金じみたおやじやらが嫌に目立つ。



「ここで、奴が来るまで待つ」


「奴って誰ですか?」


 と俺が質問すると、ブライアンは座席の横の封筒を俺の方に放り投げた。手を入れて取り出すと中身は写真と調査資料と思しきファイルだった。写真に写っている男は小太りした中年の白人男性で、その裏に”ファット”と名前が書かれていた。この写真の男の呼び名だろう。


「そいつは、組織に無断で商売してるヤクの売人だよ。前回忠告したのに、また少し場所を変えて、売ってやがったのさ。奴が毎週金曜日に、ここで売っているのは調べがついてる。問題は、今日ここに来るかだ」


「で、今回はそいつを掃除するんですね?」


 と言ったが、ブライアンは何も言わなかった。そんなやりとりをしていると、店が営業時間になったのか並んでいた人々が少しずつ店内に吸い込まれるように入っていく。その中に目標がいないのかブライアンはただじっと待ち続けた。







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