第32話

「我がアルテミス聖国は過激などではありません!


そして私達はその国の貴族に名を連ねる者です、今の言葉を取り消しなさい!」


なるほど、アルテミス聖国とやらの貴族が相手か。

しかも身分を悪用するタイプの貴族とは。


「あの名高きアルテミス聖国の貴族様でしたか。


でしたら配下の者には充分な教育をしておいた方がよろしいかと。

忠誠心が高いのは良いがすぐに手が出るとあっては貴方の家名に泥を塗ってしまう」


「くぅっ…!


この人は配下ではありません!

私達の希望の光なのです!

この方こそ、この世界が呼び寄せた『勇者』なのですから!


他の紛い物とは違うのです!」


希望の光、勇者、紛い物…話の筋が見えて来たな。全ては私が聞いた通りの事らしい。

向こうが知っているモノと私が知っている話とでは少しだけ違うみたいだが、如何したものか?


情報が不足している現在、どんな些細な情報だろうとあって困る事は無い。

そして、目の前のこの御令嬢は頭に血が昇って口が軽くなっているようだ。

焚き付けたのは私だが、冷静になって口を閉ざしてしまう前に情報を聞けるだけ聞いてしまうとしよう。


聞けたのは以下の通りだ。

・目の前の御令嬢の出身であるアルテミス聖国を含め、5か国が勇者召喚を行った。

・そのどれもが自国の召喚された者が正真正銘の勇者であると主張している。

・歴史上勇者は一人だけの為、嘘をついている国があるのは明白である。

・彼女は自国の召喚者が勇者であると断言している。


随分と軽い口で私は助かったが、アルテミス聖国とやらの情報管理能力はどうなっているのだろうか?

貴族だという彼女は情報の大切さをいまいち理解していないようだが、爵位を与えられている身分の者が誰とも知らない人間に自国の情報をこうもあっさり喋るとは教育がなっていないのかもしれない。


いずれ拠点を何処かに持たないといけない場合にはアルテミス聖国は候補から除外する事にしよう。

他の国も勇者召喚をしたと言っていたが、勇者召喚の儀式とやらはもっと国同士で話し合ってするものではないのか?


勇者召喚の方法は万が一の事を考えて複数の国に伝わっていると考えれば納得がいくが、情報漏洩を防ぐ為にももっと少ない数に絞れると思う。

この世界は戦争が頻発でもしているのか後で住人に聞いてみる事にしよう。

それよりも…


「ずっと気になっていたのですが…名高きアルテミス聖国の貴族様は名前を名乗らずに他人に暴言を吐くのですね。

私のイメージする貴族とはかけ離れているようだ。

気高く美しい貴族のマナーは学んでおられませんか?


私の名はレイジ。貴族様の様な気高い人に名乗る程の者ではないと思い、必要ないと思っていたのですがマナーも知らない貴族様がいるとは思いませんでしたのでこうして先に名乗らせて頂きました。


さて、貴方様方のお名前は?」

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