第25話

元から負けるつもりは無かったが、尚更負ける訳にはいかなくなった私は行動に移す。

急所は狙わない、ただ隙の出来た場所に全力より少し加減した一撃を叩き込んで意識を持っていく。

それにより彼の身体が吹き飛び、訓練場の壁に激突する。


「ふむ…もう少し加減の仕方を学ばねばいかんな」


意識は刈り取ったはずだが、あそこまで吹き飛ぶとは思っていなかった。

情報を話してもらう為にも死んでしまっては困る。


「レイジだったか。


お前が勝者だが今後はやり過ぎるなよ?」


「お気遣いありがとうございます。


次はこうならない様にしておきますので」


まさか力加減の仕方を学ばねばならんとは思っていなかった。

これも対人戦の経験がとぼしい事が理由だな。


「…まぁいい、それで決闘に買ったお前さんは何を望む?


やらかしたとはいえウチのギルド員だ、あんまり酷い内容は勘弁してくれよ」


「私が彼に望むのは情報です。


彼にいくつか質問させて頂きたい」


私の仕事がかかっているかもしれない情報だ。

早く聞きたいが私が彼の意識を刈り取ってしまったものだから目が覚めるまで待つ事にする。

ただ、それだと時間が空いてしまうな。


「お前にこっぴどくやられたからな、いつ目が覚めるか解らん。


どこかで暇を潰して待ってろ」


「それならこの訓練場を少し貸して頂きたい。


出来るならば誰か対戦をして欲しい所ですが…」


さっき掴んだあの感覚を忘れない内に他の人と対戦しておきたい。

だが、さっきの勝負を見ていた為か誰もが私と目を合わせようとしない。


「お前さんは強すぎたんだよ、ギルドマスターしてる俺も勝てる気がしねぇわ」


「勝てないなら勝てるまで修練をすればいいのでは?


言ってる意味が解らないのですが…」


私はそう思うからこそ100年を修練に費やし、努力を重ねた。

私の力は毎日の積み重ねを重ね続けた結果の上にある。

努力は嘘をつかない、だが活かしきれないという事は残念ながら存在する。


私の前世が特にそうだった。

病気や障害の特性により、学んだ事を活かしづらい日々が続いたが、それでも諦めなかった。

他の人に出来ている事が自分にだけ出来ない道理はない。


生物の法則を無視する事は不可能だ。

人によって個性があるのも解っている。

自分の持っている物を使って出来る範囲でしか出来ないのも解っている。


だからどうしようもない個性以外に道を求めた。

それ以外はスタートは皆同じなのだ。

天才とやらはスタートダッシュが出来るかもしれないが、歩く道は皆同じ。


する事や出来る事は一緒なのだから、努力を重ねれば誰でも出来るはずである。

それこそ長い時間をかければ天才と同じ景色を見る事も出来るし、追いつく事も、更には追い越す事も可能であると私は信じている。


「解りました。


対人戦は諦めて素振りでもしますので、訓練場の一部を貸して頂きたい」


「解った、その位なら好きにしろ」

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