第20話最悪の展開

 デパートへ着くなり花道は一気にテンションが上がったようだ。


「わーどれから行こうか!」


 目をキラキラと輝かせて俺の方を向いてくる。別にこんなところなんて来慣れてると思うのだが、なんでこんなに嬉しそうなんだ?

 俺は少し悩むような素振りを見せ。


「じゃあとりあえず服とか見る?」


 なんて聞いてみる。花道はうんうんと納得のいった様子で俺の手を引き、一番近くの服屋へ小走りで行く。

 連れてこられた服屋はお洒落な雰囲気を醸し出していて、とても今の格好の俺が来ていいような場所じゃなかった。花道は適当にその辺にある服を一着手に持つ。


「ねぇ、これ菊池くんに似合うんじゃない?」


 そういって俺の体に地味っぽい灰色のシャツを重ねてきた。こんなに色鮮やかな店なのに、よりにもよってこの店1番地味であろうシャツを持ってくるあたり、コイツが俺のことどう思っているか分かった。

 しかし反応に困る。俺は少し苦い笑みを浮かべ。


「確かにそうだね」


 とだけ返す。正直柄もシンプルで何も書かれてないし、ほんと、なんでこんな服が

この店に置いてあるんだ? 一番地味なはずなのに、逆に一番目立ってるまである。

 俺は近くに掛かってある薄い青色のシャツを手に取ると。


「これなんか花道さんに似合うんじゃない?」


 と言ってみる。花道は俺の持っている青いシャツを手に取りしっかりと凝視した後。


「じゃあこれ買ってくる」


 なんて言って、レジの方へと向かっていった。決断が早すぎる。まだ試着すらしていないのに、なんでもうレジに並んでるんだ。てかあの一着で終わらせるのか?

 まあいいか。俺は適当について行くだけだし……。俺は外に出ると花道が会計するのを待っていた。

 

「じゃあ次行こっか!」


 やけにテンションの高い花道は、ルンルンと鼻歌を歌いながらデパートの案内板を注視している。

 そして次に行きたい場所が決まったのかピッとゲームセンターと書かれた場所を指差した。


「菊池くん。次はここ行かない?」


 ギラッと強い眼光を俺に向けてくる。


「うん、じゃあ4回にあるから中央のエスカレーターから行こ」


 そうして俺たちはエスカレータに乗る。目についたからそんな提案をしたのだが、一階から四階に行くならエレベーターを使うべきだと、三階に着きそうな地点で思った。そしてブーンとゆっくりエスカレータに乗っている時に、あ! と言って花道が下の方を指差した。


「あそこにいるのって美希ちゃんじゃない?」


 そんなことを言われ、俺も花道が指差す方を見る。目を向けた先にいたのは、黒いロングヘアーにカチューシャをつけた人物だった。あのカチューシャ、どこかで見覚えあるぞ。俺は頭の中で思考を巡らせて、あの少女のことを思い出そうとする。確か最近会った……クラスで夕日の中……。

 そこでピーンときた。あの少女は俺が初日にぶつかってしまったプリント少女だ。

 クラスが一緒のはずなのに、どうしてか目立たないから忘れててしまった。というか、小高のせいでその記憶が消し飛んでしまった。俺はエスカレーターから、二階にいるプリント少女を見ている。少女は小走りで目の前にいる金髪の女の後を追いかけていた。

 何をしているのだろう? ただプリント少女がたくさんの荷物を持ったまま、金髪の女を追いかけているということしかわからない。

 なんだか面白い絵面だな。パシリにされてるのか? なんて考えるが、どうでもいいか……。もうすぐ四階に着く。今は目の前のことに集中するか。俺たちは四階に着くとゲームセンターに向かう。


「じゃあまず何からやる?」


 ニコッと笑顔で聞いてくるので、俺はキョロキョロと周りを見渡す。


「じゃあとりあえず……クレーンゲームとか?」


「あ、いいね! やっぱゲーセンと言ったらクレーンゲームだよね」


 楽しそうに花道はクレーンゲームが並べられているところに行く。そしてじっと品定めをするように中の景品を見ている。全てのクレーンゲームの景品を見終えた花道は。


「よし、あれにしよう」


 と言い、お目当のクレーンゲームの前まで行ってしまった。花道が向かった先にあったのは、よくわからないひよこのぬいぐるみが入ったクレーンゲームだった。


「これすごく可愛くない!?」


 ぐいっと俺に顔を近づけてそう聞いてくる。正直あまり可愛いとは思わない。女子と男子というのはやはり感性がずれてしまうものなのだろうか……? でもここで正直に答えるのはあまりいい選択ではない気がしたので、俺は嘘をついて。


「うん、可愛いと思うよ」


 と言った。


「よし、何としても取ろう!」


 花道は腕をまくると財布から五百円取り出してチャリンとクレーンゲームに入れた。五百円入れればクレーンを6回動かせるのでワンプレイ分お得だ。でもこのひよこ、他のぬいぐるみよりもひと回り大きい。

 とても六百円じゃ取れる気がしない。そんなことを思っていると、案の定花道はぬいぐるみを取ることができなかった。

 

「あー惜しい! 次の五百円でとるから菊池くんしっかりと見てて!」


 チャリン! と勢いよく五百円を投入して、花道は再チャレンジする。しかし結果は変わらず、変わったのはぬいぐるみの体勢だけだ。しかし花道はめげずにもう一回、もう一回と何度も挑戦をする。

 しかし一向に取れる気配はなく、花道は少し涙目になり。


「どうしよう菊池くん。お金なくなっちゃった」


 なんて言ってきた。もしかしてこの子はバカなのだろうか? 成績は悪くないが、学力じゃない面がバカなのかもしれない。というかバカだ。俺は財布から百円だけ取り出すと、ゲーム機の中に入れる。


「これって普通にとるのは無理なんじゃない?」


「じゃあどうするの?」


「アームをタグに引っ掛けるとか?」


「でもそんなの無理じゃない?」


「そう? 大きいしできそうじゃない?」


 そんな会話を交わし、俺はタグの部分を狙ってアームを動かす。俺はクレーンゲームなんてやったことないが、テレビでそういうのを見たことがある。しかしあれは幾度も経験を重ねた人間にしかできない神業。と、普通の人間は考えるだろう。

 しかし俺は今、実際にできると思った。できると思えばなんだってできる。世の中っていうのは案外思い通りに行くものだ。少なくとも俺はそう。だからこのぬいぐるみも撮ることができる。

 じっと俺はアームをにらみつける。スーッとアームが下に落ちていき、見事タグに引っかかりでかいひよこのぬいぐるみを取ることができた。

 これには花道も驚いたのか、一瞬硬直していた。そしてハッと我に帰ると。


「す、すごいね菊池くん! 実はクレーンゲームのプロだったりして」


 なんて褒められる。俺は屈んでぬいぐるみを取る。


「あのこれあげるよ。僕は別にこのキャラクター知らないから」


 そういって花道にぬいぐるみを渡す。花道は遠慮しているのか手を前に出し。


「そんなの悪いからいいよ。この子も菊池くんの方が好きだから一回で取れたんだよ」


 なんて意味不明なことを言ってくる。なんでコイツ素直に受け取らないんだ!?こんな馬鹿でかいひよこ邪魔でしかないから早く受け取って欲しいんだが……。


「いや本当に遠慮とかしなくていいから! 花道さんが欲しそうだったから取っただけで、僕はいらないから」


「いやいや、人のものただじゃ受け取れないよ」


 どうしてか俺たちは、あんな必死になって取ろうとしていたぬいぐるみを押し付けあっていた。そんなことをしていると、なんだかデジャブを感じた。そういえばあのカチューシャの少女の時も似たようなことが起こったな。

 なんて考えたら、またあの時のように笑いがこみ上げてきた。それにつられたのか、花道も笑っていた。


「あの……本当に花道さんが受け取ってよ。僕の家に置いてあっても多分捨てることになると思うしさ……」


「そ、そう。じゃあやっぱ貰おうかな」


 そうしてぬいぐるみは無事花道の手に渡った。花道は嬉しそうにぬいぐるみをぎゅっと抱きしめると。


「ねぇ、最後にプリクラ撮らない?」


 と聞いてきた。女子とプリクラ。本当にデートみたいだな。まあデートか。


「うん、いいよ」


 俺はコクっと頷くと、体をプリクラ機がある方へ向ける。一歩ずつゆっくりと。

 もう花道は金を使い切ってしまったらしいし、この後どうするのかな?

 なんてことを考えながらプリ機の方へと歩いていくと、ニュルッと見知った顔がプリ機の中から出てきた。その顔を見た瞬間、思わず「げ!」という声が漏れてしまった。その声が相手の耳にも届いたのか、その相手はこちらを向いて。


「あーーーーーー!!!」


 と大きな声を出した。そしてその後に。


「めぐみどうしたー?」


 なんて声が聞こえてくる。最悪だ。よりにもよって、誰よりも一番会いたくなかった小高めぐみと出くわしてしまった。俺は考えるよりも先に、走って逃げ出した。



























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る