第21話イケメン

 タタタタッとかなり全速力で小高から逃げ出す。しかし何も考えずに逃げ出してしまったせいで、俺の走った先は行き止まりになっていた。最悪だ。でも別に追ってきたりは……。


「ねぇめぐみ、どうしたの?」


「いやまあちょっと、知り合いがいたから声かけようかなって……」


「ふーん……どんな人?」


「えーと……本性を隠すのが上手い人?」


「はは、何それ!」


 そんな会話が聞こえてくる。最悪だ。しかも小高の周りには他にも数人の女子がいた。その中には俺の知っている顔もいた。つまりは同じ高校。ここで花道とデートしていることがバレたら本当にまずい。

 色々と良くない噂とか流されそうだし……。とりあえずなんとしてでもバレるのだけは阻止しなくてはならない。


「どこに言ったんだろー?」


 やばい、この行き止まりに小高たちがくる。仕方ない。学校じゃなければ、別に俺の素顔がバレても大した影響はない。小高にはもうバレてるし、この変装を解除すればこの窮地を切り抜けられるか……。

 すっとメガネと帽子を外し、俺はニコッと笑みを浮かべる。


「確かこの辺に……あ!」


「なになに? いたの?」


 ぞろぞろと三、四人ぐらいの女子が、俺の眼の前に現れた。


「え、え、まって、めぐみの知り合いってこの人? めっちゃイケメンじゃない?」


「え、本当にイケメン。ちょっと紹介してよ!」


 女子たちはキャーキャーと盛り上がっている。改めて俺の顔はすごいんだと実感する。普段は話しかけるどころか見向きすらしてこないこの女子たちが、今の俺の顔を見ただけでこの盛り上がりよう……。こんな反応をされたのは久しぶりだ。

 でもあまり嬉しくはないな……。懐かしいこの反応も、俺にとっては不快でしかない。そんな俺の気など知らずに、女子たちはさらに盛り上がる。


「あの……連絡先教えてもらっていいですか?」


 そしてついに、一人の女子が俺にそんなことを聞いてきた。


「あ、千秋ずるーい。私も彼の連絡先欲しいのに」


 なんで俺が教えるみたいになってんだよ。俺は少し軽蔑の眼差しを向けると、


「ごめん無理」


 女子の言葉を一蹴いっしゅうする。

 そして小高の方に顔を向け。


「おい小高。お前なんで追いかけてくんだよ? どっかいけよ」


 冷たくそう言い放つと、小高は俺の言い方に腹を立てたのか、腰に手を当てて戦闘態勢に入った。


「はぁ? 別に私が何しようが勝手でしょ? てか普段は全然喋んないくせに、素顔の時はうぷっ」


 俺はとっさに小高の口を押さえる。


「わ、わかった。とりあえずこの話はまた今度ってことで。俺も忙しいから、君達もまたの機会ってことでいい?」


 なんとか作った笑みでそう言う。もう頼むから帰ってくれ。俺は切にそう願う。幸い小高以外の女子たちは物分かりがいいようで。


「わかった! じゃあまた今度ね。ほら、めぐみ行こ」


 と、小高と一緒にどこかへ消えてくれた。フゥ……一件落着か。と、安心したのもつかの間、「おーい菊池くーん」と俺のことを呼ぶ声が聞こえる。まずい、花道が探しにきた。

 流石にこの姿を見られるわけにはいかない。俺の額からはどろりと生暖かい汗が噴き出している。



















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