第17話うそかれ
「は? え? ちょ」
俺は混乱してまともに喋れなかった。それはそこにいる花道の彼氏も同様のようで。
「おい、ちょ、え?」
とても戸惑っていた。冷静でいるのは俺の腕に手を絡めて来ている花道だけで、この状況を作り出した花道は澄ました顔をしてぐいっと俺の腕を引張り。
「それじゃあそういうことなので
なんてことを元彼に言い残して、俺を無理やり人通りの少ない道に引っ張っていく。一体何がなんなんだ? ただ一つだけわかるのは、確実に面倒ごとに巻き込まれたということだ。どうして休日の真昼間から痴話喧嘩に巻き込まれなきゃならんのだ……。
俺はめんどくささと多少の憤りを感じていた。そして花道は、強引に人通りの少ない路地裏に俺を引っ張ってくると、いきなり頭を90度……いや、170度ぐらいまで下げて来た。
「ほんっっっっっとうにごめんなさい! 菊池くんのこと隠れ
敬語でぐっと頭を下げて花道が謝ってくる。そんな素直に謝られると、さっきまで感じていた気持ちもなくなってしまう。
「まあ頭を上げてよ。僕も気にしてないから。むしろ一瞬でも花道さんの彼氏役になれたことがすごく嬉しいよ」
なんて心にもないことを言う。さすが元子役。我ながら演技臭さのかけらもない。
「それじゃ」
俺はそこで話を切り、くるっと花道と逆の方を向き駐輪場に向かおうとする。すると。
「待って」
パシッと俺の手首を掴まれ、俺は顔だけ花道の方に向ける。
「あのさ……。別に一瞬と言わず、ずっとじゃダメかな?」
「え?」
何行ってんだこいつ? もしかして今、俺は告白されているのか? そんな疑問を持ってしまう。
「あの……それって」
俺が口を開いた瞬間、花道は慌てて俺の腕から手を離して両手をぶんぶんと横に振った。
「あ、そう言う意味じゃなくて、もしかしたら奥谷さん……。あぁ、さっきの男の人ね。その人が私たちの関係が嘘って思うかもしれないじゃん。だからその……奥谷さんが諦めるまでは、嘘の彼氏になってくれない?」
なんだ、そう言うことか。なんだよ、一瞬「もしかして俺のこと好きなんじゃね?」と、モテない男子みたいな妄想をしてしまった。てか「そう言う意味じゃなくて」ってなんだよ! 俺は別に何も言ってないだろ。
なんてことを思い、多少腹がたつ。と言うか嘘の彼氏って、そこまでやる必要あるのか? さっきの奥谷と言う人はよほどのメンヘラなのだろうか? あの人なら俺に勝るとも劣らない容姿をしていたのだから、女には困ってないと思うのだが……。
まあ多分花道の考えすぎだと思うから、ここは断るか……。いやでもそうすると今後の学校生活に支障が出そうだな。別に嘘の彼氏って言ったって、休日にデートとかするわけでもないだろうしそこまで苦じゃないだろう。
だったらまあ断る理由もないか。
「うん、全然いいよ」
嫌な顔一つせずに俺は前向きな返事をする。
「ありがとう! じゃあとりあえずLINE交換しよ」
「うん」
俺はおもむろにポッケに入っていた携帯を取り出して花道に見せる。それからはフルフルで友達追加して、すぐに駐輪場に向かった。食材を買いに来ただけなのに、やたらと疲れた。俺はぐっと背を伸ばして早々に家に帰る。
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