第16話急展開

 高校三年生になってから初めての休日。友達もいない俺にとっては、休日という時間は暇でしかない。これと言った趣味もない俺にとっては、退屈で仕方ない。でもだからと言って学校に行きたいかと問われるとそうではない。 

 もちろん学校は嫌いだ。まず人間が嫌いなのだから、学校を好きになるわけがない。学校は決して勉強をする場所ではない。勉強なんて教師の手を借りなくてもできるし、そもそも必要な分野の勉強なんて学校でするもんじゃない。本当に学びたいものは自分で本を買うなりするか、専門の講師に教えてもらった方がよっぽど効率がいい。

 じゃあ学校はなんのためにあるのかと問われれば、間違いなく自己の人間性を高めるためだ。学生が一番人間と交流する機会が多いいのは間違いなく学校という機関だ。そこで人間としての質を高めることが、学校に行く目的。今の時代、コミュニケーション能力が高い人間は、勉強ができる人間よりも重宝される。

 コミュニケーション能力が高い人間というのは、物事を円滑に進めることができる。そしてそういう多くの人間と関わってきた人間というのは、得てして立ち回りが上手い。だから人間関係を一切せず勉学だけをしに行っているやつは、頭のいいバカだ。……って、俺はなに考えてんだ?

 暇すぎて意味わからんことを心の中で思ってしまった。前までは暇つぶしに勉強をしていたのだが、今のほぼ推薦が決まっている状況で勉強する意味はあまりない。

 俺は決して勤勉きんべんではない。勉強とは質の高い大学に入るためにするものだと考えている。だから今の俺にとって勉強とは不要なもの。わざわざこれ以上頭をよくする必要もない。


「あーーーーーー暇だ」


 だらーんと横たわり、そんな独り言を漏らす。そういえば腹減ったな……。机に乗っている携帯をつけて時間を確認すると、12時半だ。そろそろ昼飯食うか。俺は倒れた体を起き上がらせ、適当に何か食べようと冷蔵庫を開ける。

 開けた先に待っていた光景は、一面真っ白の何も入ってない綺麗な冷蔵庫だった。

 そういえば買い出し行ってなかったな……。参った。このままじゃ餓死してしまう……。でも買い物に行くのめんどくさいな。

 なんて思うが、腹はグゥーと悲痛な声をあげる。


「行くか」


 グッと背伸びをして、適当な服に着替えて外に出る支度をする。支度を済ませてくつを履くと、自転車に乗り大通りまで行く。学校と俺の家の中間ぐらいの距離にある大通りに着くと、早速いつも俺が通っているスーパーに着く。買い物かごを持ち、適当にセールされている商品をかたっぱしから入れていく。

 一週間ほどの食料を一気に買うのが俺の買い物だ。だからちょうど一週間で切れるぐらいの量を買う。俺は適当に野菜や肉などをカゴに入れていると、唐突に尿意が襲ってきた。

 なんの前兆もなく急にきた尿意に焦り、俺は買い物かごをその場に置いたままトイレに駆け込む。ジョロジョロと勢いよく尿を噴出して、手を洗う。そしてそこで俺はあることに気づく。

 トイレの洗面台ついている鏡には、普段見慣れている俺が写っていた。つまり俺は、無意識にカツラと眼鏡をつけて来てしまったのだ。学校に行くわけではないのだからわざわざ変装する必要もないのだが、習慣とは恐ろしいものだな……。

 しかも自分の姿を見るまで全く違和感を感じなかった。もしかしたらこっちが本当の俺なのかもしれない。なんてな……。

 自分で思って少し怖くなってしまったので、俺は急いでさっき買い物かごを置いていった場所に戻る。俺がいない間に買い物かごが誰かに持って行かれたとかは特になく、ポツンと大量の食材が入った買い物かごが、隅っこに無事置かれていた。

 よし、帰るか。俺はそのままレジに向かい、会計をすませる。とりあえず何事もなく終わってよかった。今週の俺はなんだかものすごく運が悪い。

 やりたくもない委員長をやらされたり、小高に素顔がバレたり(バラしたり)と、とても運が悪かった。でも流石に休日までは学校の奴らの魔の手は襲いかかってこないようだ。だが帰るまでが遠足というように、何事も家に帰るまでは安心してはいけないのだ……。

 俺がスーパーを出て駐輪場に向かおうとすると、近くで痴話喧嘩しているカップルの声が聞こえて来た。まあ聞こえているのは男の声だけなので、一方的にブチギレてるって感じか。聞いていて気分の良いものではないし、早く帰ろう。俺は少しだけ歩行速度を上げる。その時だった。スッと後ろから腕を絡ませられ。


「じ、実は私、この人と付き合ってますから!」


「「は?」」

 

 男と声が被った。




























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