第15話どんだけ好きなんだよ!

「ねぇ……」


「な、なに?」


「そのあんたってさ、何が好きなの?」


「何かな、その曖昧な質問? 別に好きなものならたくさんあるけど……。あとあんまり教室で話しかけてこないでもらって良い?」


 今は5時間目の授業が終わった後の休み時間。あの後なぜか俺は小高からよくわからん質問ぜめを受けていた。まあ理由は大体予想がつく。コイツは自称面食いで、イケメンが大好きな脳内空っぽのバカだ。

 だから自他共に認めるイケメンの俺にも目をつけたんだろ。本当に勘弁してほしい。どうしたら俺とこのゴミ女が釣り合うんだ。

 コイツは容姿が他の女子よりも少し優れているだけで、他は本当にゴミみたいなやつだ。性格なんてヒトラーとスターリンを2でかけたような奴だ。俺がイケメンとわかった途端態度を変えてきたのも気に入らないし、コイツが愛想よくしている姿なんて気持ちが悪くて仕方ない。俺は露骨に嫌な顔をして小高を追い払おうとするが、察しが悪いのか無視しているのか小高はまだ俺に話しかけてくる。


「じゃあその……趣味とかは?」


「しゅみ……」


 ここでなんて答えるのが正解なんだ? よくわからんが、多分コイツオタクに悪い偏見やイメージを持ってるに違いない。だったら俺の回答は、小高コイツに嫌われるようなことを返せば良い。


「えーとアニメ鑑賞かな。よく休日にプリキュアとか見てるから」


 何てことを言う。そんなことを言われて小高は、「へ、へぇー」と下がりきった声を出し歪んだ顔をしていた。これでもう関わってこないでくれると嬉しいのだが……。

 それから翌日のこと。俺はいつも通りに学校に登校する。もう朝のホームルームまで時間がないこのギリギリの時間に、俺は登校している。教室に着いた俺は早速席に座ると、後ろから声をかけられる。


「ね、ねぇ」 


 トントンと肩を叩かれ、くるっと後ろを振り向くと小高が恥ずかしそうにもじもじしながら。


「やっぱその……初代って良いよね。二人組だからキャラとかその……覚えやすいし!」


「……? あの、なんの話かな?」


 俺は急に何いってんだコイツ? と言うように首をかしげると、小高の顔が真っ赤になり。


「あんたが好きなプリキュアの話よ! なんでわからないの!?」


 プリキュア……? あぁ、昨日コイツにそんなことを言った気がする。まじかよ、わざわざ勉強してきたの? どんだけコイツ俺のこと好きなんだよ。

 なんてことを思ったが口には出さずに。


「あ、あぁプリキュアね。うん、初代いいよね。二人だし」


 なんて適当なことを言う。そう言われた小高は少し怒ったような表情になり。


「は? もしかしてあんた、昨日適当なこと言ったの?」


 小高の発言にビクッと心臓が跳ねる。


「い、いやそんなことないよ! 俺本当のことしか話さないことで有名だから」


「焦って素になってるけど?」


「あぁこれはその……」


 もうなんなんだよコイツ。なんで俺は朝っぱらからこんなめんどくさい奴の相手しなきゃなんないんだよ。早くホームルーム始まんないかな……とか思ったとき、小高は「はぁー」と大きなため息を吐いた。


「もういいや。それでその、あんたの好きな女子のタイプって何?」


 おいおい直球だな。隠すきゼロじゃないか。


「えーとそれは……」


 そこで俺は思いつく。もしかしたらここで俺の好きなタイプを言ったら、コイツはそうなるよう努力するのか? だったら性格がいい人とか言ってみるか? いや、コイツのことだ。自分が性格いいと勘違いしているに違いない。それに内面的なことはすぐに変えられないしな。

 俺は面白半分で適当なことを言う。


「えーと、すごく派手なギャルネイルしてて、20センチぐらいの付けまつ毛つけてる派手な人かな」

 

 我ながらなんてことを言ってるんだと思った。流石にこれは嘘だとバレる……。そう思ったのだが、小高は「わかった」と一つ返事をして自分の携帯を見始めた。なんなんだコイツ……。嫌な奴に好かれてしまったと、一昨日の自分の行動をまた後悔する。

 それからまた次の日。俺がいつものように登校して教室に入ると、俺の席の周りに人だかりができていた。正確には俺の一つ後ろの席。俺は何事かと自分の席に近づくと、どうして人だかりができていたのか理由が判明した。

 その人だかりに囲まれている異様な姿をした小高めぐみが原因だ。小高はよくわからんキラキラしたネイルに、めちゃめちゃ長い付けまつ毛をつけていた。まじかよこの女……。俺はドン引きしてこの場から離れたくなったが、運悪くその異形と目があってしまった。

 

「あ、菊池! その……どう?」

 

 「どう?」じゃねぇよ気持ち悪りぃよ。そう言ってやりたいが、そんなこと言えるはずもなく俺はちょいちょいと小高に手招きをしてこっちに来いとジェスチャーする。俺が廊下に出ると小高もついてきた。


「何よ? あとこれどう?」


「どうって……。とりあえずついてきて」

 

 それから少し進み今の時間なら人はこないであろう空き教室に着くと、眼鏡とカツラを外して。


「お前、俺のことどんだけ好きなんだよ!」


 なんて、昨日から言いたかったことを小高に言い放つ。そんなことを言われた小高は、顔を真っ赤に染め上げ。


「は、はぁ!? あんたなんかぜっんぜん好きじゃないけど? 自意識過剰じゃない? ちょっと顔がいいからって調子乗んないでよ」


 なんて言ってくるが説得力が全くない。俺は問い詰めるように。


「じゃあそのネイルとつけまはなんだよ? あとプリキュアとか。せっかく勉強してきてもらって悪いけど、正直どれも好きじゃないんだよ。お前がめんどくさいから適当なこと言っただけ」


「は、はぁ? うっざ! うちの時間返してよ!」


「返せって、お前が勝手にやったことだろ……」


「はぁ……もういい。私メイク落とすから、あんた先戻ってて」


 なんて偉そうな女なんだ。まあいい。言われなくてもすぐ戻るつもりだったんだ。

 俺は取り外したカツラと眼鏡をかけようとする。そこでもう一つ、言いたいことを思い出す。


「お前性格悪くて嫌な奴だけど、そうやって正直なところは結構いいんじゃない?」


 なんて、自分でも結局何が言いたかったのかよくわからないことを言ってしまう。

 とりあえずもう俺に関わらないでほしい。そう思いながら、俺はカツラと眼鏡を装着してクラスに戻る。


 



























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