第9話長かった一日

 夕日に照らされた教室の中、見知らぬ少女と二人でプリントを整理するこの状況。

 俺たち二人はその後、無言でプリントを整理し続ける。どうしよう……気まずい。

 考えれば誰かと一緒の空間にいるというのはすごい久しぶりだ。別に前まではコミュ障とかじゃなかったんだが、高校生になってから人とろくに会話をしていなかったせいか、どういう風に喋ればいいか忘れてしまった。初対面の相手との話題……。昔の俺は、どうやって話してたっけ?

 そんなことを無言で考えながら、プリントを整理する。にしても、この学年にこんな女子生徒いたっけ……?

 改めて目の前の少女を注視する。艶やかな長いストレートの黒髪に、整った童顔。

 頭の上には少し古臭いカチューシャを身につけている。割と目立つような姿をしているのに、俺はこの少女に見覚えがない。まあ俺は交流が多い方じゃない……というかはほぼ皆無だから、見覚えのない生徒の一人や二人いて当然だろう。そんなことより目の前のプリントの整理を早く終わらせよう。

 久しぶりの学校のせいで、心身ともに疲れ切っている。早く家に帰って横になりたい。この邪魔なカツラと眼鏡から一刻も早く解放されたい。そう思い、俺は手早く仕事を進める。

 それからプリントを整理した俺たちは、特にこれと言った会話もせずに整理したプリントと俺の作成したプリントを大津先生に提出した。それじゃあ帰るかーっと下駄箱の方に足を向けると、くいくいと袖を引っ張られる。


「あ、あの。ありがとうございました……」


 少女は頬を赤く染めながらお礼を言ってくる。別に大したことをしたわけじゃない。むしろ俺のせいでこうなった。でもここで「僕が悪かったから……」なんて返したら、また謝罪合戦が起こりかねない。だから俺は一言。


「どういたしまして!」


 とだけ返して、家に向かった。


















 

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