第8話見知らぬ少女

 俺は先ほど女子生徒とぶつかった場所に向かう。だが先ほどの女子生徒はどこにもいない。もうどこか別の場所へ移動してしまったのだろう。これはまずい。もう一度くだんのプリントを作るのは流石にめんどくさい。こうなったら意地でも女子生徒を探すしかない。

 このまま闇雲に探すのは効率が悪い。俺は先ほどの女子生徒がどこへ向かったのかを考える。あの女子生徒の持っていたプリントは……どんなだっけ? 

 全然見ていなかった。じゃあ他に何か手がかりは……。俺は考えに考え、長いこと熟考じゅっこうするが結局わからなかった。まず考えたところで分かるわけがない。見ず知らずの女子生徒の行き先を知ることができるなんて、エスパーでもない限り無理だ。もうしらみ潰ししかないか……。

 考えの末、俺は全ての教室に向かうことにした。あの生徒が何年生かも全くわからない。くつの紐の色で何年生か分かるのだが、生憎あいにくそんなものを都合よく見てはいなかった。しかしさっきの女子生徒の顔。

 ちらりと見た程度だが、とても幼いという印象を受けた。身長がとても低いというわけではなかったのだが、代わりにすごい童顔どうがんだった。顔だけ見れば中学生と勘違いしてしまうほど、幼い顔立ちだった。つまり、さっきの女子生徒は高校生になりたて! 

 俺は5階の一学年の教室に全力で向かった。ここのどこかにいるのではないか……? そう予想したのだが、俺は勘が良い方ではなく見事に外した。となると二学年だな。次は確信を持って言える。

 俺は4階にある二学年の教室に向かう。しかし、どこを探しても先ほどの女子生徒はいない。参った。もしかしたらもう帰ってしまったのでは? 嫌な考えが脳裏をよぎる。一応三年生も見てみるか……。

 俺はあまり期待せずに、三階の三年生の教室に行く。流石に三年生なら俺も見覚えがあるはずだし、あの顔で三年生は考えにくい。今日のところは諦めて、明日また探そうかな……。なんて考えて自分のクラスを横切ろうとした時だった。

 夕日に照らされる一人の可憐な少女の姿がそこにはあった。誰もいない教室に一人、プリントを整理する彼女の姿はとても美しく、そして既視感があった。一瞬だけ見惚れてしまうが、ハッとすぐ我に返るとその少女の方へと近づいていく。

 

「あの、すいません」


 俺が声をかけると少女は一瞬驚いた表情をしていたが、すぐに俺の要件を察したのか置いてあったプリントを俺に差し出してきた。


「あのこれ、さっきぶつかった時のですよね? あとで渡しに行こうと思ってたのですが、私も用があって……すいません」


 少女は俺が落としたプリントを俺に渡してきた。まあ何はともあれ目標達成。これを大津先生に渡せば俺は無事家に帰ることができる……。

 なんて思ったが、目の前で何か困っている少女を置いていくというのはなんだかそれはそれで気分が良くなというかなんというか……。


「あの、よければ手伝いますよ。何やってるんですか?」


そんな言葉を掛ける。俺はもしかしたらお人好しなのかもしれない。でも、今まで目の前で困っている人間がいたからと言って、全員を助けてきただろうか? 

 いや、俺はそんな善人じゃない。俺のことは誰よりも俺自身が理解している。だから今、どうしてこの人の手伝いをしようと思ったのか理解できない。少女は「うぇ?」っと素っ頓狂すっとんきょうな声をあげた。


「い、いえそんな。別に大したことじゃないですし、委員長にそんなお手を煩わせるわけには……」


「まあまあ。僕が勝手に手伝うだけだから」


「そ、それじゃあお願いします……。と言っても別に難しいことは何もなくて、さっき落としちゃった時バラバラになったプリントを出席番号順に並べているだけですので……」

 

 そんなことを言われ、胃がキュルキュルと痛む。それってつまり俺のせいじゃん。


「ご、ごめん。さっき僕がぶつかったせいで」


 俺に謝罪された少女はブンブンと勢いよく頭を振り。


「ぜ、全然そんなことないです。美希みきの方こそ不注意で」


「いや僕の方が……」


「いえ美希みきの方が……」


 あれ? このやり取り覚えがあるな……。デジャヴ? すぐに帰れると思った放課後に、俺は何してんだろう。こんな頭の悪いやり取りをして……。なんだか急にバカらしくなり、自然と笑いがこみ上げてきた。

 急に笑い始めた俺に少女は戸惑いの表情を浮かべているが、俺の笑いにつられたのか、少女の一緒になって笑っていた。


「す、すいません。なんだかこのやり取り、さっきもしたなって思ったら面白くて……」


 不意に笑顔ではにかむ少女の顔を見て、少し動悸どうきが激しくなる。
























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