第7話プリント女子
放課後……。とても甘美な響きだ。一日の地獄からの解放が約束されたこの時間。
俺はこの開放感と高揚感を味わうために学校という牢獄に来ているのかもしれない。普通の生徒にとってはそれほど特別な時間ではないのだろう。むしろ学校に通うのが好きな生徒からしたら、放課後というのはあまり好ましい時間ではないのかもしれない。でも俺にとっては一日の中で一番好きな時間だ。
そんなこんなで高校三年生の登校初日は何事もなく幕を閉じた。っと、思っていたのだが……。
帰りのホームルームも終わり、多くの生徒が部活動や家に向かうなか俺だけは職員室に向かっていた。昼に大津先生から頼まれたプリントを渡しに行くためだ。仕事というのは溜め込むといいことが一つも起きない。後回しにすればするほど、未来の自分がそのツケを払うことになる。
だからあの昼休みの間は結局寝ずにプリント作成をしていた。花道に相談せずに適当に作ってしまったのだが、まあ先生は俺にしか頼んでなかったと思うし勝手にやっても大丈夫だろう。俺は作成したプリント片手に、職員室に向かう。そんな時だった。どうしてこういう時に限って、俺はよそ見をしていたのか。トンっと何かにぶつかり、そのぶつかった何かは手に持っていた多くのプリントを廊下にぶちまけた。
そう、俺は見ず知らずのプリントを持っていた女子生徒にぶつかってしまったのだ。ぶつかった拍子に女子生徒はしりもちをついて床に倒れ、倒れた時に持っていたプリントを離してしまったのか無数のプリントが花びらのようにひらひらと宙を舞っていた。とっさのことで俺も状況が飲み込めず少しの間、硬直してしまったがすぐに状況を整理すると床に倒れている生徒に左手を差し伸べる。
「ごめん、大丈夫?」
なんて声をかけ、女子生徒の手を掴み立ち上がらせる。
「あ、すいません。全然大丈夫ですので……」
「そう。なら良かった……」
そこで会話は途切れる。そしてその女子生徒は、床に散らばったプリントを拾い直している。その様子を見て、俺も一緒に拾うことにした。
流石に俺の不注意でこうなってしまった以上、見て見ぬ振りもできない。その女子生徒は「いえ、手伝っていただかなくても」なんて遠慮していたが、さすがに申し訳ないので俺は無言でプリントを拾う。
全てのプリントを拾い集めると、俺はその拾ったプリントを渡す。
「あ、あの。ごめんなさい。あと、ありがとうございます」
ぺこりとその女子生徒はお辞儀をしてくるが、謝罪も感謝されるようなことも、何もしていない。むしろ俺のせいでこうなってしまったのだ。
「こっちこそごめん。僕がよそ見してたせいでこんなことになっちゃって……」
「いえそんな。私がもっと周りに気を使っていれば」
「いやこっちの方こそ」
「いえいえ、
なんて、謝罪合戦をしていたが、俺何やってんだろうという考えに至り会話を無理やり切る。
「それじゃあ僕はこれで」
なんて感じで会話を終わらせると、俺は職員室に向かう。いろいろあったがこれでようやく帰れる。俺は早足で職員室に向かう。
トントンと軽く職員室のドアをノックすると、大津先生を呼び出す。
「あの先生。昼にお願いされたプリント作成してきました」
「えー本当! 仕事が早いねー。じゃあちょっと見せてくれる?」
「はい、どうぞ」
勢いよく手に持っていたプリントを渡そうと、左手を前に出すが。
「あ、あれ?」
プリントが俺の手から消えていた。おかしい。俺は確かに左手にプリントを持っていたはず。いつ無くした? 俺はここに至るまでの道のりを鮮明に思い出す。そう、それはさっき、プリントを持っていた女子生徒にぶつかった時のこと。俺はあの生徒に手を差し伸べる時、間違いなく左手を出していた。
つまり今プリントは、さっきの女子生徒が持っているということになる。俺は慌てて顔を上げると。
「すいません、教室に忘れてしまったのですぐとってきます」
と言って、廊下を全速力で走る。さっきの女子生徒を探すため。
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