第5話委員長

 えーと……このクラスに俺と同姓同名の人っていたっけ?

 いや、いない。このクラスに菊池幸助なんて名前の人間は俺しかいない。よりにもよって、どうして俺なんだ? 

 もっといい人材は山ほどいるだろ! 心の中で少し花道に対していきどおりを感じたが、それ以上に焦りや不安がまさっている。俺はガタッと思いっきり席を立つと、花道に抗議した。


「あの! 僕よりももっと適した人はたくさんいると思うので、他の人に任せた方が……」


 俺は花道に反論をした。普段ならこんな反論を俺がすると、怒涛の勢いでディスられるのだが今日は違った。クラスメイトも珍しく……というか初めて俺の意見に賛成らしく、花道に対して。


「そうだよ! こんな暗い奴よりもっといい人いっぱいいるよ」


「こんなのが委員長とか無理だろ!」


 んー、こいつら何でいちいち俺をけなすんですかね? まあ別にいいけど。どのみちこれで俺が委員長になることもないだろ。花道もどうして俺なんて推薦したんだろうか?

 もしかして俺のことめちゃくちゃ嫌いで、委員長の仕事を全部俺にやらせるつもりだったんじゃ……。だとしたら策士だな。

 まああいつに限ってそんなことないと思うけど。俺は椅子に座り直して、花道の次の言葉を待つ。クラスメイトの反感を一身に受けた花道は、クラスメイトに言い返すように。


「確かに菊池くんは、人望も薄いし根暗かもしれない!」


 俺の悪口を言い放っていた。

 え? 何で推薦してくれた人まで一緒になって俺の悪口言ってんの? 泣いていい? 

 正直ここ最近で一番傷ついたかもしれない。普段俺の悪口を言ってるような奴らならまだしも、普段人の悪口とか言っていない、むしろ言ったことないんじゃないかっていうぐらい心が清らかな花道に言われたから余計傷ついた。

 もう帰りたいなー。そんな現実逃避……というか、学校から逃避したくなるほど俺はショックを受けけた。クラスメイトたちは、花道の言葉でさらに疑問に思ったのか。

 

「じゃあ何で菊池を推薦したの……?」


 と、疑念を抱いていた。それでも花道は一歩も引かず、バンと教卓を思いっきり叩くと。


「それは、菊池くんが委員長に適してると思ったから! 委員長の仕事って結構めんどくさくて、ちゃんと責任感のある人じゃないとダメなんだけど、彼はものすごく責任感が強いの。前の生物係のときだって休みの日にわざわざ魚に餌やりに行ってたし、先生に頼まれた仕事とか途中で絶対投げ出したりしないし、それに……」


 そこで冷静になったのか、花道の顔が爆発しそうなぐらい赤くなっていた。そして俺は今の花道の言葉を聞いて、改めて感心してしまった。今の発言から、普段どれだけクラスメイトのことを見ているかよくわかる。

 人に好かれる人間っていうのは、こういう観察眼も優れていないといけないのだと実感させられる。クラスメイトたちも花道の言葉を聞いてぽかーんと間の抜けた顔になっている。そしてなぜだかクラスの女子たちが、よくわからん詮索をし始めた。


「え、今の擁護ってもしかして……」


「鏡花ちゃんって菊池のこと……」


「いやでも流石に……」


 さすがは女子高生。頭の中にお花畑が咲いているだけのことはある。意味深な発言や前向きな発言、何でも恋愛に結びつける。クラスの女子たちのひそひそ声が花道にも聞こえたのか、花道はとっさに弁解する。


「い、いや待ってよみんな! 私はただ、めんどくさい仕事だから菊池くんに押し付けちゃえばいいんじゃないって言いたかっただけで……」


「あーそういうこと」


「さすが鏡花、策士だね!」


「考えれば鏡花が菊池にとかありえないわー」


「それじゃあ男子の委員長は菊池くんに決まりってことで。菊池くん、前に出て板書お願いできる?」


 クラス全体は万事解決みたいな感じて笑っているが、俺だけはひどく落ち込んでいる。さっき俺が予想した悪い考えが当たってしまった。花道に限ってないとは思っていたが、やっぱ花道も俺のこと嫌いなんだな……。

 しかも仕事押し付ける気満々だし。今日は厄日だな。もう学校やめたいなーとか思いつつ、俺は大津先生に言われるがまま前に出て行く。














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