第2話 普段の生活

月曜日になって一週間が始まり、そして更に1日が明けて火曜日となり、現在俺は大学にいる。


孝春「仙台は強いのリベロの浅村あさむら合山あいやまとかしかいねぇだろ」

勝幸「でもタカ、神戸だって今の監督になってから外人優先でバランス悪いじゃん」


2限が終わり、昼休みにエンカウントしたタカ───孝春といる。

下らない会話が盛り上がり、何気ない時間が流れる。これが俺の日常だ。風葉の件で色々とあったが、それがなければ俺は普通の生活を送る大学生だった訳だし。

でも、これに不満がある訳じゃない。普通であっても楽しく生きているし、いつまでこの状態が続くか分からない。今という時間を大事にして、俺は人生をエンジョイ出来るようにしていくつもりだ。

ふと、俺らを見つけた流星が、こちら側にやって来た。


流星「お、2人一緒か。どうやら盛り上がってたみたいだけど、何の話してたんだ?」

孝春「それがな、今のヴィッセルとベガルタどっちが強いかって論争でさ」

流星「いやどっちも今年のJ1で2桁順位じゃねぇか‼︎」



≪≫


昼飯の時間。

大抵は流星と、そして都合が合えば常忠やタカとも一緒に食べる事が多い。今日は常忠は都合が合わないらしいので、俺達は3人で学食に向かう。

今日は牛丼にした。俺は基本的に丼ものが多い。食べやすいし、ボリュームもあるからだ。

手を合わせ、早速口に運ぶ。


流星「あ、そうだ勝幸。今日サークル来るよな?」

勝幸「うん?そりゃあ勿論」


ふとその時、流星がサークルの話題を出して来た。

俺は流星と同じサークルに入っている。

因みに何かと言うと…………セパタクロー。

高校まではサッカーをやってた俺と流星だが、お互いエースになれるようなセンスを持ち合わせてはいなかった。そんな中、同じく足を使うセパタクローに活路を見出したという訳だ。それに、セパタクローのようなマイナーな競技なんて、大学にいるうちしかやれない気がするので、やってみたいという好奇心もあった。

他の奴らもサークルは参加している。タカはアルティメットをやっており、そして常忠はバイトもしてなくサークルの活動頻度が低いので、ボルダリングと山岳を掛け持ちしている。

皆マイナーだよな…………

それはかく、それで今日はサークルの活動日なのだ。流星は引き続き質問を投げ掛けてきた。


流星「風葉は大丈夫なのか?」


わざわざ来るかどうかを訊いた理由はそれだった。風葉を遅くまで放置していいのかと心配してるのかもしれない。


勝幸「別に?あいつも時間の上手な使い方を探しているし、暇なら片付けでもするように言ってるからな」


そう、一緒に住み始めてからほとんど経ってないが、風葉は暇潰しに昼間のワイドショーを見るようになって、世間の出来事に関して興味を持ったらしい。

他にもトランプ占いやパズル等、身近なものから新たな趣味を探している最中だ。


流星「そっか。ならいいけど、あまり遅くならないようにな?あーいう子は孤独耐性がないからな」

勝幸「孤独耐性って……」

流星「いやいや、結構真面目な話。だって、あの子の父親が中々帰って来れなかったんだろ?だからお前は少しでも長くいてやった方がベターだと思うが」


流星の言葉に間違いはないだろう。

確かに、沢山一緒にいてやらなければ、放置した状態となってしまう。それで彼女が幸せになる筈がない。

サークルがある日は夜9時辺りまでは帰って来れない場合が多い。サークルがない日でもバイトがある場合もあり、その日も帰るのが遅くなる。

風葉とより多く一緒にいる為には、バイトやサークルの後に寄り道したり、競馬観戦に行ったりする頻度を減らす必要がありそうだ。


勝幸「……そうだな。極力寄り道せずに即帰するよ」


風葉が充実した生活を送る為には、俺もある程度の我慢が必要だ。もしもどうしても遊びに行きたい時になったら、きっと風葉も許してくれるだろう。その分、俺はあいつに出来るだけ寄り添うつもりだ。

そうやって、バランスを取って、俺は風葉と生活していこう。



≪≫


勝幸「……ただいま」


1人だった頃は言いもしなかった言葉。でも、それは今、大切な意味を持つ言葉。

その言葉で姿を見せてくれる人がいる。たった4文字の言葉を受け取ってくれる人がいる。そして、同じ文字数で言葉を返してくれる。何だかこそばゆいのに、その言葉だけで少し温かくなる。


風葉「……おかえり‼︎」


一緒に見せる彼女の笑顔を見ると、守ってあげたいという思いが強まる。

この笑顔を守り抜けるかは、俺のこれからの態度次第だろう。

俺と風葉、両方のバランスが取れた生活を目指していくという決意を再確認して、俺は靴を脱いだ。



俺と風葉は晩飯を共にとった。

米だけは家を出る前にスイッチを入れていたが、その他はまだスーパーの惣菜だ。

これから、こうやって食卓の向こうに1人いる生活が日常へと変わっていくのだろう。そしたら、必要な食材の量や種類も変わる。

風葉の分として理愛華が半分の食費を出してくれるらしいが、あまり贅沢にならないように心掛けよう。


勝幸「ん……そういや」


ふと、風葉を見て疑問が生まれた。

一旦箸を置いてコップの牛乳を飲み干すと、俺は風葉に尋ねる。


勝幸「お前、料理得意だって言ってたっけ」

風葉「うん、そうだよ」

勝幸「俺、明後日バイトがあって夜遅くまでいるつもりなんだ。昨日は言い忘れてて早めに上がったんだけど……」

風葉「ありゃ、そうなんだ」

勝幸「それでさ、バイトある日は俺も遅くなるから、風葉に頼みたいなって思って」


そう、バイト先の喫茶店で閉店までいると、帰宅時間は9時は過ぎる。サークルの日と殆ど変わらない。そうなると、俺はのんびり晩飯を作ってられない。

なので、風葉に頼もうというつもりなのだ。


風葉「ウチはいいけど……いいの?」

勝幸「え?何が?」

風葉「晩御飯、バイト先で出してくれるんでしょ?わざわざ家で食べる必要は……」


風葉は少し申し訳なさそうに視線を落とした。

実は、遅くまでバイトしている日は、マスターが俺に食事を出してくれている。風葉にその事を話した事があったから、覚えてたのだろう。


勝幸「そうかもしれないけど、俺は風葉となるべく長くいたいからな。それに、風葉の料理も食べたいし…………」

風葉「勝兄…………」


自分のその言葉は、嘘ではない。

風葉と一緒にいて、笑っている彼女を見ると、何だか俺も温かい気持ちになる。それに、今は長い時間風葉を1人にするのは少し心配だ。この生活に馴染なじむまでは、つきっきりとまではいかなくても、彼女についておきたい。


風葉「じゃ、冷蔵庫にある食材で何か作るよ。早く帰って来てね」

勝幸「うん、期待してる」

風葉「そう言われるとプレッシャー感じちゃうなぁ……」

勝幸「ははっ」


取り敢えず、風葉は要望を承諾してくれた。明日の晩飯が楽しみだ。

それを糧に、明日も頑張るか。

そう考えながら、俺は茶碗に2杯目の米を盛ったのだった。


風葉「ほんと、大食いだよね……」

勝幸「はは…………」

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合法同棲 〜with"元"女子高生の家出少女〜 トレケーズキ【書き溜め中】 @traKtrek82628azuki

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