終わった恋

夜、姉が迎えにきて、祥太が帰っていった。

何の予定もない週末の夜は、むしょうに寂しくなるときがある。

彼氏とは、半年前に別れたばかり。

大学時代から付き合っていた彼は、社会人になって2年目の年に地方に転勤になり、それからは遠距離恋愛を続けていた。

最初のころはお互い毎週のように行ったりきたりしてたけど、それが2週間に1度になり、1か月に一度になり、そのうち、季節ごとに一度になっていった。

半年前のある日、わたしが彼の家に遊びにいったとき、洗面所を掃除しようと、洗面台の下をあけて掃除道具を探していると、見慣れないかわいいポーチをみつけた。

開けてみると、ピンクの歯ブラシにプラスッチックのマグカップ、女性用の化粧水や下地クリームなどが入っていた。

なんか、それを見たとたん、体の力がスーーッと抜けていく思いがした。

最近、休日出勤が多いとか言って、会える日をなかなか合わせられなかったのは、こういうことだったのかな、と思ったのと同時に、相変わらず、嘘が下手だなって思った。

そして、嘘が下手な彼が隠すとしたら・・・

と、ベッドの下を探ってみたら、100円ショップでよく見かけるビニールのバッグがあり、ファスナーを開いてみると、女性もののパジャマが出てきた。

・・・・・・

ここまで隠すのが下手だと、笑えてくる。

わたしのパジャマや部屋着は、彼のクローゼットの一番下にある。

確認すると、そのまま置いてあった。

彼女がくるときは、わたしのパジャマがベッドの下になり、彼女のパジャマがクローゼットに格上げするのかな?

いや、彼はそんなマメな人じゃないから、たぶん、そのまんまなんだろうな。

彼女はわたしの存在に気づいてるはず。

彼にはなんて言ってるんだろ。

でも、わたしのパジャマを勝手に使用されてるんじゃなくってよかった・・・

なんて、いろいろ考えていると、疲れてきた。


「ただいま。」


帰ってきた彼に、思わず口走っていた。

「ねぇ、別れよっか」

そんな言葉が出るなんて、自分でもビックリした。

ベッドの下から出てきたポーチや、洗面台の下から出てきた袋を差し出し、

「これなに?」って問い詰めてもいいはず。

わたしがいながら、なんで知らない女を家に入れてるの?って言いながら、泣きわめいてもいいはず。

なのに、そんな感情はおくびにも出さず、出てきた言葉は冷静だった。


「なんで?

なんでそんなこと言うの?

なんかあった?」


「・・・・・・・」


「好きな男ができたのか?」


「・・・・・

それは、こっちのセリフでしょ」


バレてないって思っているのか。

わたしはわたしでキープしておいて、彼女とも付き合おうと思っているのか。

そんな都合のいい男だったのか・・・


「なんか、誤解してないか?」


わたしが、袋を差し出すと、これからいいわけが始まるのかな

どんないいわけも聞きたくない。

隠してあったっていう事実が、嫌なんだもん。


「もう、疲れちゃったよ。」

それだけ言って、わたしは帰り支度をはじめた。


「なんだよ、それ。

ちゃんと言ってくれよ」


靴をはくわたしの後ろ姿に言葉を投げかける彼。

わたしは振り返って

「いいよ、自由にしてあげる」

そう言って家を飛び出した。


早歩きで駅にむかっていくうちに、涙があふれでてきた。

駅に着いたころには、肩をふるわせ、号泣していた。


そりゃそうだ。

ここ数年は遠距離だったとはいえ、6年もつきあってきたんだもん。

彼との思い出がよみがえる。

彼とは、大学の旅サークルで出会った。

別にイケメンではないけど、優しくて真面目な彼は、女子が多いサークルだってこともあり、結構もててた。

わたしはもっぱらキューピッド役で、友だちや後輩に相談されて、彼との間をつないでいるうちに、お互い、気が合うことに気づいてつきあいだしたのだった。

同じサークルってこともあり、最初のころは内緒にして、サークル抜けだしてふたりで出てったこともあったっけ。

情熱的だったな。

こんなにあっさり別れちゃって・・・

これでよかったのかな。


わたしはこういうときの修羅場が苦手。

わたしのどこがダメなの?

とか、

その女とわたしのどっちが大事なの?

とか、取り乱して、泣きわめいて、すがりつくほうが、男の人にとってはかわいい女にうつるんだろうな

わたしは、甘えることとか、すがりつくとかできない。

わたしに気持ちがないって思うと、スーッとさめてしまう


おまえは、俺がいなくってもひとりでも生きていけるだろって言われてふられたこともあったっけ。

そう、わたしは可愛げがない女なのだ。


誰もいない、駅のホームのかたすみで、泣いて、泣いて、嗚咽して泣いて・・・


そして、わたしの恋が終わった。


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