麒麟倒しにいこっ

小峰麻耶

第1章 彩香の場合

わたし、中川彩香、26才

大学卒業してOL4年目

入社したてのころは、営業で頑張っていたけど、女子社員は補助的な仕事しかもらえず、若さでチヤホヤされる時もすぎ、いろんな面でスランプなお年頃だ。


「ただいまー、祥太、ハンバーガーにポテト、コーラ買ってきたよ」

あ、祥太って彼氏じゃないよ。姉の子供で、小学5年生。

土曜日はわたしを慕ってよく遊びにくるの、かわいい甥っ子です。

祥太はパソコンのゲームに夢中で返事もかえってこない。


「ほらほら、冷めたらおいしくないよ」


そう、わたしを慕っているのじゃなく、わたしのところだとパソコンゲームを無制限でできるから、

姉は、ゲームは一日1時間って決めていて、思いっきり遊べないらしい。

「う…ん、おばちゃん、ちょっとこれ代わって」

「え?おばちゃん?おばちゃんって言った?」

たしかに祥太からみたらおばさんだけど、まだ独身なんだから、おばさんって言葉にひっかかる。

「あ、ごめん、おねえちゃん、ここを押して」

おねえちゃんって言葉に気をよくして、祥太のところへ行った。


画面では、何人かのプレイヤーがいて、巨大なモンスターにむかって攻撃しているようだ。

「この、麒麟の体にマウスをずっとクリックし続けて」

「え?キリン?これが?」

「うん、幻のモンスター、なかなか現れないんだけど、メンバーにゴッドハンド覚えてる人がいたから出してくれたんだ。」

「ふーーん」

言ってる意味がぜんぜんわからないけど、ま、ここをクリックし続ければいいのね

言われたとおり、何度も何度もマウスでクリックし続けた。


すると、突然画面が真っ暗になり、

一瞬音が止まった。

そのあと、鮮やかな光のフラッシュがピカピカピカッと閃光を発して、

まるで夜空の打ち上げ花火のように画面いっぱいに輝きを放ち、

シュルシュルシュルシュルシュルー

ドドドドドドドドッ、

ゴゴゴゴーーーッ

ドドーーーーン

すさまじい音とともに、モンスターが崩れ落ちた。

ゲームをやったこともないのに、目の前でおきた現象がすごい迫力で、ドキドキした。

こんな感情はひさしぶりだな。

なんだか放心状態で、マウスを握りしめたままボーッとしていると、

「おつー」

「おつ」

「おめー」

「おめぇー」

みんな口々に何か話しだしてる。

「祥太、みんななんか言ってるよ」

祥太がポテトを食べながら近づいてきた。

「あ。倒したんだね。」

ポテトをかじってる油まみれな手でパソコンを触ろうとするから、

「あ。ダメダメ、手洗ってからだよ」

「じゃぁ、おつって言っといて。何も言わなきゃイヤなヤツだと思われちゃうから」

「ん?おつ?」

「お疲れさまのことだよ、」

なるほど

なんか、なじめなくて、おつかれさま、って打ってしまったわたし。

「あ、レベルが上がったんだ、みんなおめでとうって言ってくれてる。ありって言っといて」

それもまた、ありがとうって打ってしまったわたし。

「アイテムやゴールドを分けてくれたんだ、それ、クリックして」

目の前に置かれた山をクリックしたら、チャリンチャリンって音がした。

「ゴッドソウルのかけらは、カムイさんが麒麟を呼び出してくれたので、カムイさんにお渡しします。

ゴールドは全員で山分けします。それでいいですか?」

「ラジャー(^^ゞ)

「りです」

あ、なんか言わなきゃ。

「はい」

でいいよね。

ゲームなのに意外と神経使うんだな。

そして、ハンバーガーを食べ終えて、手を洗ってきた祥太と交代した。


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