第34話:劣等賢者は教える

 俺が筆記試験で解答したのは三問。


 一問目は『呪文の詠唱』に関して魔法の発動に必要な理由を問われたので、「そもそも必要ない」と答えた。

 二問目は『剣士の魔力』に関して魔力を使わないのに消費する理由を問われたので、「無詠唱魔法を使っているから魔力を使っている。問題が間違っている」と答えた。

 三問目は『母イリスが提唱する無詠唱魔法』に関して頭に浮かべていることは何かと問われたので、「かなり自由に色々考えている」と答えた。


 全ての解答に自信を持っているし、論理的齟齬もないはずだからツッコミを受ける部分はないはずだが……。


「アレン君はイリス様の力を受け継ぎ、無詠唱魔法を使えるようじゃな?」


「正確にはちょっと違う。母さんに魔法は習ったけど、無詠唱魔法は独学だよ」


「なんと、独学じゃと……!? それは何歳のことなんじゃ?」


「え、一歳の頃かな? 詠唱魔法をヒントにしたけど……」


「い、一歳で魔法じゃと!? し、信じられるか!?」


「さすがに一歳では通常の詠唱魔法でも使える者は皆無かと。しかしイリス様の御子息ともあれば信じられないこともないですな……」


「実際、無詠唱魔法が使えてるんだから疑う必要もないわけど……にわかには信じられないわね。さすがはイリス様といったところでしょうか……」


 確かに一歳で魔法を使ったときは両親ともにかなり驚かれていたな。

 そもそも前世基準でもあの歳で流暢に言葉を話すこと自体が珍しいから俺もそこに関しては自分が規格外だと思う。


 だとしても、無詠唱魔法にここまで驚かれるとは思わなかった。

 そもそも話によれば母イリスは無詠唱魔法を広めようとしていたみたいなのになんでみんな使わないんだ? あんなに便利なのに。


 っていうか、さっきからちょっと気になることがあった。


「その……ちょっと聞きにくいんだが母さんってそんなに有名なのか……?」


「なっ……知らぬのか?」


「う、うん」


 お恥ずかしながら、両親の過去については聞くことがなかった。

 新興の貴族とのことで何か特殊な事情があるのかと思っていたが、たまたま国王に気に入られたとかなんとか言っていた気がするので深掘りしなかった。


「イリス様もカルクス様もあまり自分のことを話す性格ではありませんからな。……しかしアレン君にも話していなかったとは」


「カルクス様……?」


 いったいどういうことなのか全くさっぱりわからない。

 学院長や代行がこれだけ持ち上げるということで俺が思っていたより有名で凄そうだということだけは伝わってくるが。


「イリス様、カルクス様は王国唯一の英雄なのじゃよ。イリス様は人知を超えた魔法を放ち、カルクス様はこの世のものとは思えぬ剣技を持たれておる。二十年以上前のことになるが、突如魔人が発生したのは知っておるかの?」


「魔人……? 魔物じゃなくて?」


「知らぬのか……。二十五年前、魔人が出現し王都を襲ったのじゃ。魔物と人間が融合し、魔人となるなど当時は想像もしなかった。人外の力で人類は滅びるかと誰もが絶望したとき、英雄が現れたのじゃ。その英雄こそが当時カップルで冒険者をしておった二人組のパーティ……イリス様とカルクス様じゃった」


 王都……どころか王国救済の褒美として貴族の地位をもらったということか。

 どうせ貰うのならもっと位の高いやつ貰えばよかったのに。

 いや、案外断ったのかもしれないな。俺と同じで目立ちたがりってわけではなさそうだし。


「えっと……じゃあ、もしかしてだけど無詠唱魔法を使えるのって……」


「世界で唯一イリス様だけ……と思われておった。アレン君が現れるまではな」


「…………」


 あれぇ……。母さんそんなこと一言も言ってなかったんだけどなぁ……。

 最終奥義なんて言ってるから、誰でも極めれば使える程度のものだと思ってたんだが……。


「と、まあ少々話が脱線してしまったのじゃが、無詠唱魔法に関しては研究が進められておる。だんだんと分かってきているのじゃが……聞きたいのは剣士が無詠唱魔法を使っているというところなのじゃ」


「剣士って、素人が剣を振るより攻撃力もスピードも高いよね? 達人になればなるほどどう考えても身体を鍛えたくらいでは無理な動きをしているんだ。岩を叩き斬ろうとなんてしたら普通は骨が折れるし、筋肉も傷つける。そうならないのは、魔法で身体強化を無意識化に使っているから……って考えた方がスッキリしない? ってことかな」


「ふーむ、それなら魔力を消費するのも頷けるのじゃが……となると剣士と魔法士は本質的に同じということにはならんか……?」


「うん、そうだね」


「……なっ」


「もちろん剣を使った攻撃が得意かそうじゃないかで違ってはくるけどね。俺だって両方使えるし」


「両方じゃと!?」


「それは私も詳しく聞かせて欲しいものですな……」


「これってそんなに特殊なことなのか……? まあ、簡単に言えば——」


 剣と魔法を併用した技や、魔法と組み合わせられるのは剣だけじゃないことなど、知ってて当たり前の知識を説明した。


「なんと……」


「魔法の常識が崩れますな……」


「たった一人でここまで解明してしまったなんて……天才としか言えないわ……」


 大人が揃いも揃ってこんな簡単なことで驚いているけど、これってそんなに凄いことだったのか……?

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