第33話:劣等賢者は訪ねる

「すげえ……」


「アレンって何者なんだ……!?」


「強くてイケメンで素敵!」


 なんか、想像以上に目立ってしまったみたいだ。

 べつに俺は何もしていないんだけどな。攻撃を跳ね返しただけでちょっと盛り上がりすぎじゃないか……?


 まあ、すぐに飽きるだろう。

 しばらくひっそりとしていればみんな忘れる。そんなものだ。


「あっ、そういえば約束覚えてるよな?」


「約束……?」


「ほら、負けたら奴隷になるとか言ってただろ?」


「え、あ……あー、あれね……」


 フィアの反応から推測するに、忘れてたな?

 奴隷なんてべつにいらないんだが、約束は約束なのでこの辺はきっちりしておかないとな。


 異世界での決闘というのはかなり重い意味を持つ。

 もともとは戦地で無闇に死人を増やさないようにと、代表者が一対一で戦って決着をつけたことが発祥とされる。


 今ではさすがに殺し合いとまではいかないが、約束には強力な拘束力があることは変わらない。


 返事に困るフィアを眺めていると——


「おい、お前ら何をしている! 無許可で校庭……それも決闘に使うとは何事だ!」


 無精髭を生やしたおっさんが物凄い剣幕で怒鳴っていた。

 試験の時にどこかで見た覚えがある顔だ。学院の講師の誰かだな。


「お前ら、受験生か。名前は?」


「フィア・エルミーラ。もう学院生なんだからべつにいいじゃない。ケチくさいわね」


「アレン・エルネストだ。勝手に使ったことは申し訳なかったと思っている」


「フィア……アレン……学年首席と次席か。どういう事情があるか知らんが、校庭を、それも決闘に使うのに許可を得ていないというのは看過できんな。どっちが決闘を申し込んだ?」


「私よ! だって試験結果がおかしいと思ったんだもの!」


「俺は無許可で校庭を使うのはダメだと注意したんだが、フィアが責任を持つからと強引に引き込まれたんだ」


 両者の話を聞いて、講師のおっさんがフィアをギロッと睨んだ。


「つまり、今回の件はフィア・エルミーラに問題がありそうだな。ちょっとついてきてもらおうか」


「な、なんで私が悪いみたいになってるのよ!?」


「言い訳は後で聞いてやるからとりあえず生徒指導室まで来い。それと、アレン・エルネスト。お前もちょっとついてきてくれ」


「え、俺もなのか……?」


 完全な当たられ事故なんだが、俺まで怒られるのか?

 この件で連帯責任ってのは些か理不尽だと思うんだが。


「無断使用とは別件で学院長たちが話を聞きたいということだ。説教とかではないから萎縮する必要はない」


「はぁ。どこへ行けばいいんだ?」


 今回の説教とは別件らしいが、だとすればいったい何を聞きたいのか全くわからない。

 試験の時に多少目立ってしまったが……それだけで普通呼ばれないよな。


「向こうの校舎の三階に会議室がある。そこで待っているとのことだ。なかなか入学資料を受け取りに来ないから探しに来てたんだ。早く行ってくれ」


「分かった」


「アレン! 私もついていくわ!」


「お前は説教だ。こっちに来い!」


「何でええええ!?」


 さすがに自業自得なのでフィアにはしっかり反省してもらうとして——


「アリス、そういうことでちょっと行って来る。もしかしたら時間がかかるかもしれないんだ」


「分かりました! 私、先に宿に戻りますね。アレンも合格してめでたい日なのでご馳走用意して待っています!」


「それは楽しみだな。じゃあまた後で」


 アリスと分かれ、説明された通り向こうの校舎の階段を駆け上がり、会議室を探した。

 異世界の学校ということで内装がどんなものかと思っていたが、案外普通な感じだった。


 たくさんの部屋が並んでいる場所から部屋の名前を確認していく。


「ここか」


 コンコンコンとノック。


「アレン・エルネストです」


「おおっ! 入ってくれ」


「失礼します……」


 やや緊張しながら入室すると——


 げっ……なんかいっぱいいる。

 学院長は試験で戦ったことがあるので知っていたが、他にもいかにも偉い雰囲気を漂わせている大人が二人。


「ワシはこの学院の学院長——アレン君とは試験依頼じゃから二度目になる。よく来てくれた」


「あの……それで二人は?」


「私は学院長代行だ。入学試験では学院長に代わって採点の責任者を務めた。それで隣の女性は——」


「新一年生の学年主任で、あなたが過ごすことになるSクラスの担任よ。今年はとんでもない規格外が入学すると聞いて、一目見ておこうと思ってね」


「いやいや、規格外なんてとんでもない……」


 と笑って誤魔化そうとしたのだが——


「魔法だけではなく剣についても見識が深いアレン君にぜひ伺いたいことがあったのじゃ」


 かなり真面目な声のトーンだった。

 ちょっと気が引き締まる感じだ。


「……というと?」


「今回来てもらったのは、これのことなの」


 担任の女講師が一枚の紙を俺に手渡した。

 それは、俺が書いた筆記試験の解答用紙だった。


「立って話すのもなんだし、そこの椅子に腰を下ろしてね」


「はぁ」


 俺は言われるがまま椅子に座り、三人と向かい合う形となった。

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