エピローグ3 あきのとみふゆとみはるとなつめ

 私とみはるとみふゆさんは遠路はるばる、新幹線も経由して3時間ほどの地方の駅まで来ていた。


 みはるの付き添い、というのは見え見えの建前で 噂のなつめさんという人がどんな人か気になって来てみたわけだ。ついでにみはるの国立の前期受験日だったりもする。あいつとしてはこっちの方が本題か。


 「うー、さぶい」


 「いやあ、二月だもんねえ。受験生たちは大変だわ」


 「あきのはずっこいよねー、地元の公立推薦で決めちゃってさー」


 「ほめんな、ほめんな」


 「いやあ、ほんとね。国公立の推薦枠なんて幻だと思ってたよ私」


 「ははは、みふゆさん春からよろしくお願いしますねー、せんぱいって呼んだ方がいいです?」


 三人で笑って話し合いながら、駅から数分歩いたアパートに向かう。


 程なくして、アパートに着いた。みはるがインターホンをならすと、がちゃりとドアが開いて女性が姿を現した。ははあ、これがなつめさん、ね。悟られない程度に軽く値踏みしてみる。


 「いらっしゃい、みはる・・・と、みふゆさんとあきのさんでよかったよね?」


 穏やかで優しい笑みを浮かべて、なつめさんは私たち三人を招き入れた。みはるは挨拶もそこそこに意気揚々と、私とみふゆさんは軽く挨拶をして中に入る。


 なつめさんの部屋は一人暮らしにしては少し広めの部屋だ、よく整理されてもいる。何より、部屋の主たるなつめさんは落ち着いた優しい雰囲気の人だった。みはるからなんとなくの人間像は聞いていたけれど、みはるにはもったいないくらいいい人そうである。


 招き入れられて、みはるは手荷物を部屋の中に置く。私とみふゆさんは荷物をここで開けるわけにはいかないから、玄関に置かせてもらった。


 「まあまあ、とりあえず座って、二人は今日はどうするの?」


 「私たちは付き添いなんで、近くのホテルに一泊します。この馬鹿がはめ外したり、寝坊しないかだけみはっとく役目なんで」


 「いるかなー?その役目」


 「新幹線の乗り場わからずうろうろしてたやつがよく言うよ」


 「むー、今日のあきのはなんか意地悪度ましてなーい?」


 「そういやそうだね、初対面の人と会うときは猫被るんじゃなかったの?」


 「いやあ、大体知れ渡ってるだろうし、いらないでしょ。ね、なつめさん。私もさんざん聞かされてますし」


 「ははは、そうだね。ちょっと意地悪で賢いあきのってのは、みはるからさんざん聞かせれてるかなあ」


 「でしょう?だから、今日は最初っから素のままですよ」


 私がちょっと意地悪な笑みで笑いかけても、なつめさんは落ち着いて対応してくれる。うん、なんというか大人の余裕というやつが垣間見える、こういう人は強い。気を抜けば私まで甘えてしまいそうだった。


 「いやあ、しかしなつめさんは落ち着いた感じですね、大人の余裕ってやつで、美人だし。これはみはるがぞっこんになるのも納得かなあ」


 「ははは、ほめても何にもでないよ?それともそれも意地悪?」


 「いやあ、今の私は素なので手放しで褒めてます。あれかなあ、落ち着きのない川瀬家が隣にいるからかな。みはるなんかやめて、私にしときません?」


 「なんだとぅおぉ、あきのぉぉ」


 「みはる、みはる、そういうとこ、そういうとこ」


 「いや、でもお姉ちゃんも勘定に入ってんよ?」


 「まあ、・・・うん、そこは、・・・いたしかたなしかなーと」


 「・・・・まえまえから思ってるけど、あきのに弱みでも握られてるの?」


 「失礼な、私はみふゆさんの弱みなんて、ほぼ素っ裸で寝てる写真しか持ってないよ」


 「ちょっと待って、それ。私が初耳」


 「あー、あれか。私がお姉ちゃんの情報漏洩に仕返しで流したやつ」


 「みはる!?いくらなんでも、素っ裸は社会的にやばいよね!?」


 「大丈夫、大丈夫、私が個人的に楽しんだり、みふゆさんを強請るのにしかつかいませんから」


 「だめじゃん、もう、みはるのもまた流してやる・・・」


 「お姉ちゃん?!憎しみは何も生まないよ!!」


 「というか、それ中間にいるあきのだけが、二人の弱みをにぎりつづけるんじゃ・・・」


 「「あ」」


 「ははは、ところでなつめさん見ます?これみはるの痴態フォルダなんですけど」


 「ぬわー!やめろー!!」


 「うーん、・・・・みはるには悪いけど、ちょっと見たいかな」


 「なつめさーん!!」


 「どうどう、妹よ。ところで、あきのさん・・・、私の裸体はさすがに消していただけないでしょうか・・・?」


 「え?いいですけど、今現在の裸体を要求しますよ?」


 「永遠に解放されないやつじゃん・・・」


 「わあ、・・・・みはるこんなかっこ・・・」


 「なつめさーん!!!!かむばーっく!!」


 そんな感じで、なつめさんの家でしばらく騒いだ後、また明日迎えに来るよとみはるに伝えて、私とみふゆさんは近くのビジネスホテルまで引き上げた。


 部屋代節約のためにとった二人部屋に重い荷物を引きずって到着する。なんだかんだと長旅を終えて、私とみふゆさんは荷物を下ろしてようやく一息つく。


 みふゆさんが、「足だるーい、シャワー浴びてくる―」と言ったので「わっかりましたー」と返事をした。みふゆさんが服を脱いでシャワーの音がするさまを眺めて、今突っ込んだらたのしそうだなと思った。非常に短絡的な発想だ。


 そんなことを思ったけれど、思考を飛ばしてそのまま風呂のドアを開けた。


 「ふぁ!?」


 「トイレですので、お気になさらず」


 私は涼しい風を装って、ユニットバスのカーテンの向こう側でみふゆさんが慌てているのをBGMにしながら便座に座る。別に、用を足す気はない。


 そういえば、カーテンの向こう側でみふゆさんが裸で過ごしている。多分、私はその気になればみふゆさんを性的な対象として見れる。同時にちらっと目配せすれば鏡越しにみふゆさんの肌が見えるかなと一瞬考えたけれど、さすがにまだ気づかれたら関係が壊れそうなのでやめておいた、まあいずれね。


 耳を閉じてシャワーの音に耳を澄ませる。入ってきたはいいけれど、別にやることはない。そんなことをしていると、みふゆさんが間を計りかねたように口を開いた。


 「あきのはさあ、なんで私にそんな・・・・なんというか、構うの?」


 「え?なんででしょ、みはると違っていじってて楽しいからじゃないですかね。割とみふゆさんに関しては衝動に任せてるので、私も詳しくはわかんないです」


 「そ、そっか・・・」


 「あと女同士って性欲をむやみに発散しても、リスクとか少ないじゃないですか。みふゆさん攻められるの弱そうだから、そこんとこ楽しそうだし」


 「いや、ちょっと待って。前々から思ってたけど、私そういう対象として見られてるの?もしかして今、私、貞操の危機?」


 「安心してください、7割冗談です。あと、そういう行為はみふゆさんが求めてくるまで待とうと思ってるので」


 「残り3割は?!あと、私から求める前提!?」


 「それも冗談です」


 「そ、そっか・・・・・・・え、それってどれ?」


 シャワーの音がしばらく響く。みふゆさんはうんうん唸っている。適当に口を動かしてて思ったけれど、私、多分本当に男女どっちもいけるなと思った。新しい性癖の発見である。どうでもいいな。


 「そういえば、今回、あきのは何でついてきたの?私はあらかじめ付き添いって決まってたけど」


 「・・・ああ、なつめさんって人が見てみたかっただけですよ」


 「見てみたかった?」


 「はい、あんだけみはるが騒ぐんだから、どんなものかなと」


 ふだんのあいつののろけ加減について一言、文句でも言ってやろうと思っていたけれど、いい人そうだったから控えていたのは内緒だ。


 「ふうん、で、どうだったの?」


 「いい人でしたよ?ぱっと見ただけじゃわかんないこともありますけど、ちゃんと考えてるタイプの人です多分、余裕ありそうだし。なつめさんこれからもうまいことするんじゃないですかね」


 「おおー、高評価、・・・なつめさん『は』?」


 「ま、みはるはどっかで盛大にこけるでしょ」


 吐き捨てるようにつぶやく。日頃の鬱憤も込めて。


 「・・・そうなの?」


 「いやあ、だってそうでしょ。色々と認識が甘すぎるんですよ。あいつ、どうやって学部決めたか知ってます?そこが一番、偏差値低くて受かりやすかったからですよ?特にやりたいことがあるわけでもない、ふざけてるでしょ。大学なめんなって感じですよ」


 「それはそんなに悪いことなの・・・?私もそこまで深くは考えてなかったけれど」


 「悪い、とはいいませんよ。なつめさんと一緒に暮らすって目的には敵ってますしね。でもあいつ多分、その先のことなんてなーんにも考えてないですよ。口を開けば、なつめさんと暮らす、そのために頑張るって繰り返しです。その先はって聞いても曖昧な答えしか返ってこない。なつめさんと一緒に暮らすってとこで思考が止まってるんです。そんな考え方がこの先、通用するわけないじゃないですか」


 口にすればするほど、語気が荒くなる。お気楽に喋ってるあいつが思い起こされて、ますます腹が立ってくる。


 「目的が達成されるんだったら、とりあえず、それでいいんじゃない?」


 「こっから残り人生わずかで隠居生活するってなら、それでいいですけど。そんなわけないじゃないですか、あと60年はありますよ、私たち。目標を達成してもその先がある。あいつはなにより、世界が狭すぎるんです、小さい人間関係の中で生きてきてそれに固執してるもんだから、その先に世界があることが見えてない。良くも悪くも受け入れてくれる人に囲まれすぎたんですよ、そこから外に出ていかないといけないってことを考えてない。ともすれば、それから目をそらしている。あいつはぼちぼち世界が広くて、そこに自分で足を踏み出さなきゃいけないってことに気付かなきゃいけないんですよ」


 吐き捨てる言葉が黒く染まっているような気分になる。ごぼごぼと身体の奥の方から何かが沸きたっている気がする。体が少し震えているのに気が付いて、ふぅーと息を吐いた。落ち着け、こぼすな。


 「・・・・まあ、確かにそうかもねえ。受け入れてくれる人ってのはあきのも含めてなんだろうけど」


 「・・・・・私は・・・・・違いますよ、受け入れてなんかないです。・・・あいつが勝手に踏み込んできただけです」


 息を吐く。吸う。内に沸き上がった黒いものをみふゆさんに悟られないように。思わず、指を噛んだ。


 「もしかして、色々、溜まってた?」


 「・・・・いえ、別に。こんなのあいつの問題ですし・・・私に不満が溜まる要素なんてありません」


 息を吸う。吐く。声が震えかける。気づくな、と願う。


 「いや、そうじゃなくて、あきの自身のこと。今のやり取り、すっごいうちの親と同じ愚痴り方だったからさ。思ってる不安とか想いを正直に言えないから、相手の欠点をあげつらう感じがすごくそれっぽい」


 「・・・・知りませんよ、そんなの。私、二人の両親のことなんてあったこともないし、第一、何が不安だっていうんですか?」


 いや、そういえば二人の両親には一度あったことがある。でも訂正する気にはなれなかった。このまま誤魔化していたい。


 「うーん、みはるに置いてかれること」


 やめてよ。


 「置いてかれるってなんですか。それに、そんなもん仕方ないでしょ。みふゆさんも言ったじゃないですか、あいつ言い出したら変えないって、あいつが決めちゃった時点でどうしようもないでしょ。考えても変わらないことは悩んだって意味ないじゃないですか」


 「ふうん、・・・・・そういえば。みはるに寂しいって言ったの?」


 見ないで。


 「そんなの・・・言うわけないでしょ。私のキャラじゃないし、別に寂しくもないし」


 「そっか」


 そっけない返事にほっとする。噛んでいた指を離した。


 シャッと音が鳴って思わず、心臓が跳ねる。慌てて横を向くとカーテンの隙間からみふゆさんの頭だけが出ていた。普段は気だるげな表情が多い人だけれど、少し真剣な目をしていた。だめ。


 「抱きしめてあげよっか?」


 だめなの。


 「・・・・裸の写真、撮りますよ?」


 「うーん、・・・いや、今、スマホもってないじゃん」

 

 言葉を紡ぐ。


 「・・・・そもそも見えるでしょ、見られていいんですか」


 「しゃーない、今だけは許そう」


 言葉を紡ぐ。


 「・・・・・・・・・・というか、私が濡れるじゃないですか」


 「どうせ、この後、シャワー浴びるでしょ」


 つむぐ。つむげない。あと、なにがあったっけ。目をそらす方法。


 「・・・・・」


 「というか、トイレしてないじゃん、そもそも話したくて入って来たんでしょ」


 「・・・うっさい・・・です。・・・・出なかったんですよ」


 「はあ・・・・・そもそも、下、脱いですらないじゃん。あきのは頭はいいのに心を出すのがへたくそだねえ」


 やめろ、見るな。気づくな。はあ?と返そうとしたけど、声帯がうまく動かない。指先が震える。仕方ないなあ、とみふゆさんはつぶやいて、手を伸ばして座っていた私の頭を無理矢理引き寄せてきた。頬が立っているみふゆさんの濡れた下腹部に当たる。そしてそのまま、子どもをあやすみたいに撫でられる。やめろ、何かが壊れる。


 「・・・・何してんですか、馬鹿にしないで、急に年上面しないでください、私は・・・・」


 「よしよし」


 支離滅裂な言葉も無視してあやされる。それだけ自分が今どうしようもないのだと自覚させられる。


 「なんなの、なんなのよもう。あんたら姉妹は本当に、・・・なんなのよ」


 「うんうん、ごめんね。そのまま吐き出しちゃいな」


 だめ。だめ。


 「意味わかんない。別に私は吐き出すことなんて・・・」


 「うんうん、みはるの代わりでいいからさ、言うこと言っちゃいな」


 ちがう。私は、みはるの、代用品であなたが欲しいわけじゃない。そうじゃない。


 「・・・・そんなの、みふゆさんが・・・しんどいだけじゃん」


 「そう、それでいいから。今は、今だけは、ね?」


 だめ。だめ。違う。違う。やめて。こんなの。手を強くを握る。ただ、握った手も優しく包まれてほぐされた。


 指がひらいた。


 「・・・・なんなの・・・・もう、全部・・・ばかみはるのせいだ」


 「うん、そう。ばかだよあいつ」


 ばか。ばか。ばかばかばかばか。ばかばかばか。


 「ほんと・・・・ほんと信じらんない・・・・。なんなのよ、なんなのよほんとに、私がどんな気持ちでいっつも勉強見て、話聞いて、世話して・・・・・・挙句、置いていって・・・・友達・・・とか言ったのなんだったの。・・・・・・・隣にいたほうが楽しいって・・・、なんだったのよ・・・・・」


 「よしよし」


 ばか。みはるのばか。


 「・・・・みふゆさんも・・・・ばか、ばかなの。ほっときゃいいじゃない、私・・・別に自分で処理できるし・・・・こんなの・・・・自分で・・・・・・どうにかできたんだから・・・」


 「そうだね、ごめんね。おせっかい焼きだったかも」


 あふれる。こぼれる。こわれる。


 「ほんと・・・、もう、みんな・・・・・・ばか。わがままばっかり」


 「・・・・・・寂しい?」


 「・・・・・・・・ぅん」


 こぼれた。


 あふれだす。あふれだす。なにかあついものがごぼごぼって、むねのおくからこぼれだす。めがあつい。あたまがあつい。のどのおくがあつい。おなかがあつい。いたい。むねがいたい。のどがいたい。めがいたい。なんで。なんで。わたし。こんなんじゃないのに。つよいのに。つよいのがわたしなのに。どうして、どうして、どうして。とまらないの。なんで。


 「辛かった?」


 て、やさしい。あたたかい。つらかった、そうつらかったよ。りゆうわかんないけど、つらかったんだよ。こんなのなんてことないの。いつもなら。でもだめなの。いつもとおなじじゃ、ない。つらい。なんでかわかんない。つらかった。ほんとだよ。ほんとなんだよ。


 「悲しかった?」


 かなしかったよ。かなしかったんだよ。だれもわかってくれなかったけど。ほんとうにかなしかったんだよ。いっちゃいけないから。くちにしちゃいけないから。こぼれたものをどうしたいいかわからないから。かなしかったんだよ。


 「楽しかった?」


 みふゆさんにだきつく。なでられる。こぼれる。あふれる。こえがでる。なく。そう。そう。そうなの。たのしかった。たのしかったよ。みはる。いっしょにすごしたの。たのしかったんだよ。ほんとうに。ほんとうに。ゆめみたいだったんだよ。うたがわなくていい。うそじゃない。ほんとうにきなんてつかわない。わたしをみてくれた。ともだち。ともだちなのに。


 「寂しい?」


 「さびしい」


 さびしい。さびしいよ。どうしていっちゃうの。どうしてなの。わたし。おいてっちゃうの。


 「うん、そっか。言えたね」


 「うん」


 ないた。ないた。ないた。ないた。なみだが。いっぱい。いっぱい。こぼれた。


 みふゆさんのてがあたたかい。



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ーーーーーー


ーーー







 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れてください」


 私はシャワーから上がった。先に上がっていたみふゆさんは頬をかいて困ったように笑った。


 「え・・・・いや、ちょっと忘れられそうにないかな。ごめんね」


 顔が熱くなる。また泣きそうになるのを必死でこらえる。


 「忘れてください!忘れて!!本当に忘れて!!もうだめだめだめ!!あんなの私じゃない!!私じゃないから!!!」


 持っていたタオルを投げつける。軽く受け止められた。


 「うん、ちょっと初めて見た側面だったね」


 「もう!!違う!違うの!!本当にあれは違うの!!!違う側面とかそんなんじゃないの!!」


 声があふれる。ダムが壊れた直後みたいにぼろぼろと言葉が飛び出てくる。


 「んー・・・、これはもっかい抱きしたほうがいいやつ?落ち着く?」


 みふゆさんが近づいてくる。顔がさらに熱くなる。


 「抱きしめてなんか!いらないです!!!」


 枕を思いっきり投げつけた。そのまま手から逃げるみたいにベッドにもぐりこんだ。


 ああ、だめだだめだだめだ。死にたい!本当に死にたい!!何あれ!!ばっかじゃないの!!ありえない!!あんなになきはらして!!


 「よしよし」


 「もー!勝手に!!ベッドに入ってこないでください!!」


 もぐりこんできたみふゆさんをけりだす。よけられる。


 「今日はこのまま眠る?」


 「出てって!!へんたい!!あたまなでないで!あー!もう!!」


 抱きしめられる。優しくされる。眠りたくなる。だめ、だめだめだめ。だめ!


 「さあさあ、お姉ちゃんの胸でもう一回泣きなさい」


 「ああ!うわあああああん!!!もう!ばか!!みはるも!みふゆも!みんなみんなみんなばか-!!!」


 そのままみふゆさんの胸を叩き続けた。


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 「落ち着いた・・・・・?」


 「・・・・・・はい」


 「よかった。でも・・・みはるの世界が狭いってのは確かにそうかも。大丈夫かなあ、あいつ。なつめさんに迷惑かけそう」


 「・・・・・・・ふん、さんざん失敗すればいいんです。あんなやつ」


 「ははは・・・・ひどいこと言う」


 「だって・・・・そうでしょ?結局、人間は失敗からしか学ばないんですよ。失敗したときにせいぜい笑ってやればいいんです」


 「そう・・・かもねえ。試練だなあ」


 「逃げ続けてきたことがようやく目の前に出てくるだけですよ、あいつはあいつの道をちゃんと歩かなきゃいけないんです」


 「つまり・・・依存がだめってこと?」


 「依存はだめじゃないけど・・・、自分の道がないから相手がいないと歩けないってのがだめなんですよ。それは隣を歩くんじゃなくて寄りかかってるだけです。依存してる相手がこけたときに自分も立ててないから一緒にこけるだけじゃないですか」


 「相手がこけたら、ちゃんと自分の足で立って引っ張ってかなきゃいけないってこと?」


 「そうです、それができて初めて隣にいる意味があるんでしょう?1+1が2以上になるには、両方ともちゃんと1以上、自分の道を歩いてるってのが大前提なんですから」


 「それは伝えてあげないの?」


 「・・・・言ったとこで多分、無駄ですよ。失敗する前はいくら言われても、実感しないもんです。ちゃんと失敗しないとわからないことっていうのがあるんです」


 「それも、あきのの失敗談?」


 「・・・・・・今日が多分、人生一番の失敗です」


 「素直にならなきゃだめってことね」


 「いつか目にもの見せてやる・・・」


 「いや・・・・あきののそれは実行力があって本当に怖いから、何されるの私?」


 「いつか心の奥底までひん剥いてやります」


 「ははは・・・・お手柔らかに・・・・」


 「・・・・・まあ、ちょっとだけ収まったので、いいですよ、もう」


 「そっか」


 「みはるも大泣きすればいいんです、こけて泣いて、それでわかっていけばいいんです」


 「うん・・・・そだね」


 「そん時に頼ってきたら・・・・・まあ・・・・・、笑いものにしてやります・・・・」


 「うん、それがいいよ、笑ってあげな」


 「・・・・・もう寝ます」


 「そっか」


 「・・・・・・・・・・・今日は、ありがとうございました」


 「うん」


 「おやすみなさい、みふゆさん」


 「おやすみ、あきの」

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