なつめとみはる アフター

 みはるをぎゅっと抱きしめる。


 腕の中に暖かい感触があるのが新鮮で、ずっとこうしていたいと思ってしまう。


 距離を話すのが自然だった誰かがこれほどまでに近くにいる。それなのに嫌じゃない、とても不思議な感覚だった。今思えば、私は誰かに触れられているときはいつも、どこかもがいて離れようとしていた記憶がある。


 でももう、そんな必要はないのだ。

 

 ぎゅっと抱きしめた、ずっとずっと抱きしめる。今をただ感じていたいと思う。そうやっていると肩でみはるがもごもご言っていた。


「どうしたの?みはる」


 私がそう聞こうと身体を少し離すと、みはるはぷはっと息を吐いた。あ、息止まってたかな。ちょっと反省する。抱き加減を間違えちゃだめだよね。大事なものだからと言って、抱えつぶしては意味がない。


 「はぁ、はぁ、なつめさんの愛情に殺されるかと思いました」


 「ははは、ごめん。加減わかんなくてさ。ちゃんと人を抱きしめたのって初めてかも」


 そう笑うと、みはるはちょっと拗ねたように口を尖らせた。うん、かわいいなこの子は。そういえば、メイクが少しうまくなったように思える。


 「そんなの、私も初めてですよー」


 みはるがぶーたれて私に文句を垂れる。ごめんごめん、と頭を撫でるとすぐその頬をゆるむ。うむ、ちょろいなあ、みはるは。そんなぶしつけなこともいつか正直に伝えてあげようと、心の中で決めて、きた道を振り返った。


 「帰ろっか」


 「はい!」


 相変わらず勢いのいい返事を聞いて私たちは夜の街を並んで歩く。しばらく歩いていると、「とりゃー」と言ってみはるが腕を絡めてきた。ぎゅっと腕を絡めてじっと体を寄せてくる、苦笑いしてその手を受け入れる。二人で歩く感覚になれないけれど、これくらいできるようになろう。何より一人の時より手が寂しくない感覚が心地よかった。


 「何だか恋人みたいですね」


 「みたい、じゃないんじゃないの?」


 「え、なつめさんが恥ずかしいこと言ってます。・・・ところで、改めてなんですけど、私たちそうしそーあいということでよろしんでしょうか?」


 「うん。私は恋仲になったつもりだったんだけれど、違った?」


 「・・・違わないです。クールな顔してそういうこと言うの卑怯だと思います!」


 「ははは、何それ。でもみはるの反応がかわいいから仕方ない」


 「ぬぬ、なんかなつめさんから攻め攻めな気配が・・・。これはどういうことですか」


 「いや、いつもかわいいって思ってたよ?すぐ顔赤くなるし、照れるし。ただ正直に口にするようにしただけ」


 「にゃにゃにゃー!恥ずかしいこと言うのダメです!」


 「えー?なんで?」


 「ダメったら、ダメなのです!私がもっとエスコートして、リードする予定だったのです!・・・しかし、これはこれで」


 「どうしたのー?」


 「むー、なんとかは盲目というやつでしょうか。意地悪な顔まで美人に見えます・・・」


 「ふふふ、わがままでいいって言ったのはみはるでしょう?ちゃんと責任とってね?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鼻血拭きそう」


 「大丈夫?」


 「大丈夫じゃないです・・・、興奮で、脳と心臓が潰れそうです」


 「そんなんで、みはるベッドの中とか大丈夫?」


 「え?ベッドっていうと、その、あの、つまり、そういうことです?」


 「・・・・・・・・・いや、いつも一緒に寝てたじゃん。うち一個しかベッドないし」


 「あ・・・、うん、そうですよね?そういう話ですよね?知っていましたとも、ええ」


 「あー、そういう話?恋仲だったらそりゃそうか、でも私、したことないんだよね、うまくできるかな?」


 「え、いや、ちょっと、待ってください、本当に、する流れですか?ちょっと、心の準備が、とりあえず、シャワーと着替えを・・・」


 「ははは、まだ家についてないよ。でも実際どうなんだろ、みはるはしたいの?嫌じゃない?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌じゃないです。むしろしたいです」


 「そっかー、でもあれかな。するにしても、みはるが高校卒業してからかな。18才未満にに手を出すのってほら、やばいよね?」


 「お、お預けですか!?この流れで!?法律の壁なんて気にしちゃだめです!!今日しましょう!そうしましょう!!」


 「んー、やっぱりまた今度かな。折角、みはるを頼まれたのに申し訳ないし。ほら、ムードとかいろいろ準備とかもあるしね?」


 「うう・・・・」


 「そんな顔しないの、その代わり、卒業したらちゃんと迎えに行くから」


 「あ、それには及びません。私の方から会いに来ますので」


 「え?でもいっつもみはる側から来てたら悪いし・・・・」


 「いえ、そういう意味ではなくてですね。・・・あ、そういえば、これを言いたくて今日来たんですよ、すっかり忘れてました」


 「うん・・・・?」


 「私、高校卒業したらこっちの大学に来ますので、よろしくお願いします!」


 「うん!?」


 「とりあえず、こっちの国公立と私学を全部受けてやろうかと、親を納得させるにはやっぱり国公立か私学の特待生くらいにはならないとですねー」


 「え、ちょっとまってみはる。今度は私が困惑してるから」


 「・・・・さっきの私の分まで、思う存分困惑してください」


 「根に持ってる!?」


 「うら若い乙女のハートと十代の性欲を持て余した罰です!!というわけで再来年の春から私こっちに住みます!!鋭意勉強中です!」


 「ええ!?」


 「住むとこはなつめんさちがいいかなあと、今住んでるところ結構、広いしいけますよね?」


 「・・・本気で言ってる?」


 「マジもマジです」


 「・・・はは、みはるには敵わないや」


 「へへ、思いっきり振り回すので覚悟しててくださいね?なつめさんもたーっぷりわがまま言っていいですから」


 「・・・・わかった、じゃあ待ってるからね?浪人とかしちゃダメだよ?」


 「任せてください!姉とは同じ轍を踏まないのが妹のいいところです」


 「・・・私、長女だからめちゃくちゃ刺さるわ、その言葉」


 「なつめさんそういえば姉妹とかいらっしゃったんですか?」


 「うん、弟とーーーーーー」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ねえ、みはる。私ね告白したらなんとなくそこで気持ちが遂げれて終わるのかなって思ってた。だからこんな話してるとちょっと不思議な気分になるの」


 「ふふふ、なつめさん。物語はめでたしめでたし、ハッピーエバーアフターなんかで終わらないのです。ずっとずっとその後の人生も続いていくんですから、楽しみにしていてくださいね?」


 「うん、楽しみにしてる。楽しみに待ってるよ」


 「はい!」

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