第4話 私の好みのタイプ、どうなってんの?

はぁ……やってらんないなぁ、もう……。


あ、どうも、鈴木葵です。

乙女ゲームの主人公の親友役です。

前回いきなり冒頭からため息ついていたわけですけど、今日はその理由をね、聞いてほしいわけですよ。


まずは、これを読んでほしい。

去年の12月にリリースされた、うちのイベストなんですけど…


   ■□■□■□


12月リリース:イベントストーリー

「雪よふれふれ!ホワイト・クリスマス」より一部抜粋


○背景:繁華街


私「もうすぐクリスマスだね」

私「主人公は誰と過ごす予定なの?」

主人公「私は……まだ決まっていないかな」

主人公「葵は?」

私「そんなの決まってるじゃん!」

私「クリスマスっていえばデートだよ、デート」

主人公「えっ、誰と?」

私「この間、合コンで知り合った人」

私「5つ年上で、しっかり者で、かっこいいんだ〜」



   ■□■□■□


──読みました? OK?

じゃあ、次はこれね。

今年のバレンタインデーのイベスト、はいどうぞ!


   ■□■□■□


2月リリース:イベントストーリー

「まさかのあの人が登場!?★波瀾万丈バレンタインデー」より一部抜粋


○背景:カフェ


私「うーん……」

主人公「葵、なに見てるの?」

私「チョコケーキの作り方」

私「今度の同窓会のときに、こっそり持っていこうと思って」

主人公「あ、元カレがくるんだっけ?」

私「そうなの! あいつ、甘いもの大好きでさ」

私「そのくせ、それを隠してるツンデレなところも可愛くて……」



   ■□■□■□


ハイ、読みましたよね?

じゃあ、最後はこれ!

今月リリース予定の、最新イベスト!


   ■□■□■□


8月リリース予定:イベントストーリー

「心霊スポット!?★真夏にどっきりふたりきり」より一部抜粋


○背景:私の部屋


主人公「えっ、遊園地のチケット?」

私「そうなの! 最近気になってる熱血スポーツ系男子から、チケットを譲ってもらってさ」

私「せっかくだから一緒に行かない?」


   ■□■□■□


──お気づきですか、皆さん。

ねえ、お気づきですよね?


私! 好きなタイプ! バラバラすぎ!


クリスマス前に「5歳年上・しっかり者の格好いい人」を好きになったと思いきや、バレンタインデーでは「可愛い系ツンデレ元カレ」にチョコレートを渡そうとして、それなのにこの夏は「熱血スポーツ系男子」に夢中って!

ひどいでしょ。

節操なさ過ぎでしょ。

男なら誰でも良いって雰囲気でしょ!

はー、やってらんない!

たしかに私、「恋多き女」ではあるけどさ(主人公に恋のアドバイスをする必要があるため)。

けど、けどさ、この節操のなさってどう思います?

ちょっとひどいでしょ。

もはやイケメンなら誰でもいいって域でしょ。

もうさー、もう少し私の設定決めてくれよ。ほんとにさぁ。


……でもね、ほんとはわかってるんですよ。

私の好みをはっきりさせないほうが、制作側としては都合がいいってこと。


まず、攻略対象者ってほんといろんなタイプがいるのね。

俺様・クール・ドS・ツンデレ・ムードメーカー・可愛い系・オトナ系・闇抱え系……

そんな彼らの共通点といえば「イケメン」。

どんな性格をしていても「イケメン」。

たとえ、好みの顔立ちじゃなくても「イケメン」!

ここ、大前提だし、ユーザーさんたちにもそう認識してもらう必要があるってわけ。

じゃあ、どうやって認識してもらうのか。

そのひとつの手段として、


「誰かに『うわぁ、あの人かっこいい』って言わせる」


ってのがあるのね。

そうすることによって、たとえユーザーさんの好みのキャラクターではなかったとしても「この世界では『かっこいい』と認識されているらしい」ってことをインプットしてもらうわけなのよ。

ところが、この「かっこいい」「イケメン」発言、うちの主人公には言わせにくいんですよねぇ。

というのも、うちの主人公、恋愛に奥手な上に「イイコ」なわけですよ。

だから「外見で人を判断するようなミーハーなまね」はしない。

たとえ、心のなかでは「うわぁ、めちゃくちゃイケメン!!!」って思っていたとしても、口に出しては言わせられないわけですよ。

となると?

「彼らはこのゲームの世界ではイケメンです」って周知する役割を担うのは?


──もうお分かりですよね。

主人公の親友・鈴木葵(恋多き女)の出番ってわけですよ。


私「うわぁ、Aくん、カッコいいね」

私「Bさんってめっちゃイケメンだよね」

私「Cくんって、ほんと素敵……」


と、まあ、こんな感じで「AくんもBさんもCくんも(ユーザーさんの好みはどうあれ)、このゲームの世界では『イケメン』という設定です」っていうことを伝えていくわけです。


ところが、ですよ。

もし、ここで私の「好みの男性像」が決まっていたらどうなるか?


私「あーAくん、カッコいいよね。ほんと、素敵!

私「それに比べてBさんってば、せいぜい『中の下』ってところ?」

私「え、Cくん? ごめん、ぜんっぜん好みじゃない!」


──こんな発言のあとで、ユーザーさんに「全員イケメン」って設定を受け入れてもらえると思います?

無理ですよね。

どんなに立ち絵が素敵でも「Aくんはイケメン、Bさんはそこそこ、Cくんダメ」って思っちゃいますよね?


というわけで、私(主人公の親友)の「好みのタイプ」は設定しないほうが、制作側としては使い勝手が良い!

だって、誰に対しても「イケメンイケメン」って発言できるから!


だから、まあ、最近は「仕方がないのかなぁ」と諦めモードですわ。

ほんとのほんとの私の好みは、ゲームのリリース時から「主人公の職場の上司」一択なんですけどねー


そう、いるんですよ。私好みのドストライクの人が。

「主人公の職場の上司」で、年齢は私たちより10歳も上。

でも、独身。

ありがたいことに独身。

しかも、彼、攻略対象者じゃない!!

つまり「主人公と恋をしない男」なわけですよ!

ね、これ、ワンチャンスあると思いません?

私と上司が恋に落ちる世界線が、きっとどこかに……


……え、来月、職場の上司ルートがリリースされる?

つまり、満を持して「攻略対象者」になるってこと?


は──そうですか!

上司も、主人公と恋に落ちますか!

は──!


しょうがない。

私はユーザーさんが書いた上司との「夢小説」に、「葵」って名前を打ち込んでひとりこっそり楽しみまーす!

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