第五章 聖ジャンヌ・ブレアル学園殿方争奪バトル!! 学園ラブコメまっしぐら!!

第39話 学園ラブコメまっしぐら!!


 ――ここは聖ジャンヌ・ブレアル学園の最上階の、とてもおごそかな部屋。


 新子友花が毎朝礼拝を欠かさない聖ジャンヌ・ブレアル学園のメイン施設――聖人ジャンヌ・ダルクさまと、ジャン・ブレアルさまが祀られている教会――聖ジャンヌ・ブレアル教会が見える。

 その厳かな部屋から、とてもよく見えている。

 何故ならこの部屋には、サッカー日本代表等の国際試合でスタジアムに入場できなかった人達のための、パブリックビューにある巨大モニターのような大窓が設置されているから。

 その大窓から、教会を同じ目線で見ることできるのだった。


 聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒達が使用する教室とは、明らかに異質な部屋である。

 ということは――



「……今年も、この季節が巡って来ましたね」

 その大窓に向かって、勿論、視線の先には聖ジャンヌ・ブレアル教会が見えていて、その教会を見つめながら呟いたのは、少し年配らしい女性だった。

「はい。マリー・クレメンス理事長……」

 どうやら、聖ジャンヌ・ブレアル学園の理事長みたいだ。

 ということは、この部屋は――そう学園の運営責任者の部屋、つまり理事長室である。


「……若いというのは、私もこの年齢になって、羨ましい限りです」

「そんなこと仰らずに、理事長。……理事長も、まだまだお若いじゃありませんか?」


「お世辞はおよしなさい。大美和さくら先生――」


 マリー・クレメンス理事長が、理事長室の中へと振り向く。

 数歩後ろに立っていた女性――大美和さくら先生に、少し口元を緩めながら言った。

「お世辞ではありませんよ。ふふっ」

 大美和さくら先生は、いつも生徒達に見せているように優しくニッコリと微笑んだ。

「私が聖ジャンヌ・ブレアル学園を創設してから、もう、うんじゅうねん……」

「……そんなに長いのですか?」

 微笑んでいた大美和さくら先生が、マリー・クレメンス理事長の『うんじゅうねん』という(たぶん数十年?)言葉を聞くなり、先生は目を大きく開けて口に右手を当てて驚く。

「あなたも、この学園の在校生だった時から、私はよ~く知っていますよ」

 その先生の驚いた顔を見て、今度はマリー・クレメンス理事長が微笑んだ。

「懐かしいですね。ほんと猫まっしぐら――青春まっしぐら、でしたから……」

 ちょっと意味不明ですね。

 多分、学園ライフをエンジョイしていましたという意味だろう。


「あなたも、この文化祭の“メインイベント”で、とってもはしゃいでたじゃ……」

「もう! そんな昔のこと忘れてくださいって」

 や~ね~、という感じで口に当てていた右手を、招き猫のように手招きをマリー・クレメンス理事長に向ける。

 若かりし頃の恥ずかしい自分の思い出を言われたもんだから、気持ちのやり場に困った様子の大美和さくら先生だった。


「私は、このメインイベントは、必ずこの文化祭に取り入れるべきであると、ずっと、そう思ってきました」

 大美和さくら先生のその見た目とギャップある仕草にたじろぐことなく、マリー・クレメンス理事長は話を続ける。

「はい! そうですね……。理事長のその御判断は、とても意義のある決意であると、私は心得ております」

 背筋を伸ばしてから、深く一礼をした大美和さくら先生。

 続けて――

「聖人ジャンヌ・ダルクさまは19歳という若さで天に召されてしまい……。英仏100年戦争がなければ、年相応の男性と恋仲に落ちていたことでしょう。ですから、聖人ジャンヌ・ダルクさまの恋の無念のためにも……」

「……ためにも。その通りです」

 よく心得ていますね……と、軽く頷いたマリー・クレメンス理事長。

「この文化祭のメインイベント『学園 殿方争奪バトル!!』は、聖人ジャンヌ・ダルクさまに恋心を“奉納”するための、とても重要なメインイベントなのですから――」

 マリー・クレメンス理事長は、微笑んでいた口元に力を入れる。

 表情を真顔へと戻して、

「私は、日本の若者達に少しでも聖人ジャンヌ・ダルクさまの生き様を知ってもらうことで、1人でも多くの彼等彼女等が、健やかに……穏やかに日々の平和の有難さに感謝できる様に育ってくれたらと、そう思っています――」

 理事長らしく、学園の理念に基づいた文化祭であることを自認した。


「はい、承知しております。私も国語教師として、理事長のお力になれば幸いです」

 大美和さくら先生はもう一度姿勢良く、マリー・クレメンス理事長に向かって深く頭を下げた――



「ところで……」

「ところで??」



 マリー・クレメンス理事長が、頭を上げた大美和さくら先生の目を見つめて聞く。

 先生は真顔に戻し瞬きを数回パチパチすると、しばらく理事長の目をじーっと見つめる。

「あなたも、勿論……ですよね?」

 なにやら……意味深な聞き方である。


「……え、ええ。はい」

 理事長の言葉を聞き、最初はその意味に気が付かなかった大美和さくら先生であったけれど、すぐに、あっ! その件ですね? ……と阿吽の呼吸のような感覚で、2人の間柄だから分かる“あの話”に対して、返事した。


 すると――



「大美和さくら先生――、あなたも、まだまだお若いですね♡」


 マリー・クレメンス理事長は口角を挙げて微笑みを作ると……なんと、プププっと笑い始めてしまった。

 両手で口元を隠す理事長――何がそんなに可笑しいのだろう?





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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