第38話 【特別編】新子友花よ。今を生きようぞ――


 新子友花よ――


 お前は、亡き祖父の骨を“違い箸”で拾うことができた。

 そのことは、決して悲痛な体験なんかじゃないと、我聖人ジャンヌ・ダルクが言っておく。


 お前は拾うことができた。


 いいか! 戦場で幾人も兵士は力尽きた……その亡骸はな、哀しいことに誰も拾うことがなかった。

 我は、それを間近で見てきた。


 お前が骨を拾ったことが悲痛な体験と思うのであるならば、骨を拾えなかった悲痛の体験もあることを知るべきだ。

 祖父の死に遭えたことをどうか誇って、生きるべきがお前のこれからの……たらしめる。



 自分の人生と、自分の命――



 お前は幼かった。しょうがないと思ってほしい。

 それは、決して無力ではない。

 生きる者はいつかは死ぬのだから、運命だから……でもな。


 新子友花よ――


 我ジャンヌは火刑の後に、我が遺骨は全て砕かれて廃棄された。

 お前は、祖父の骨を拾うことができて――首尾一貫で思い続けてきたのは、父方の祖父の生前の記憶だと思う。

 新子友花よ――お前の無意識の中に隠された抑圧してきた、本当の悲痛な人生。


 遺骨を拾えたことは、よかったんだぞ。


 我聖人ジャンヌ・ダルクは、よく耐えたとお前に言ってやろう。

 お前の人生はお前だけの道だから、これからは誇って歩めばいい!!


「はい。聖人ジャンヌ・ダルクさま――」


 ところで?


「ところで??」


 ……なあ新子友花よ。


「……はにゃ? 聖人ジャンヌ・ダルクさま」



 ――あたしがメインの小説を執筆している時に、あたしが夜遅くまでPCに向かっていた時の出来事を書こうと思います。

 あたしは、うとうと……して。

 つまり、眠ってしまった時のエピソードをです。


 あたしの夢の中に聖人ジャンヌ・ダルクさまが現れた出来事です――


 我ながら信心深いなと、この時ばかりは思いました。ああ、夢枕に立つ聖人ジャンヌ・ダルクさま!

 あたしくらいでしょう。こんな夢を見るのは……。

 夢は無意識にある自分にとっての本心みたいなもだと、とある精神科医が言ってました。

 自分では意識したくない恐怖、怒りの記憶から作られる感情を、私達は無意識に抑圧していいて、それが夢になって消化されているとか……そういう話でした。


 あたしは聖人ジャンヌ・ダルクさまに対して信仰の中で、何かしらの抑圧があること……それが、あたしが聖人ジャンヌ・ダルクさまの夢を見た理由なのかも……それが何かは、深く理解はできていません。

 まあ無意識ですから。意識できたら無意識じゃなくなるかな!


 あたしの夢に現れた聖人ジャンヌ・ダルクさまは、あたしの幼い頃の彼への申し訳なさに対する、自分自身に対する抑圧された感情の表れを消化するための……守護神としてのシンボルなのでしょう。

 よくは説明しにくいのだけれど……なんていうか。


 好きだった。今も好きだし……。

 けれど、彼とは疎遠になってしまって……それ自身もあたしにとっては不本意だったのだけれど、

 でも……しょうがないかなという気持ち。


 その記憶の、消化と受容です。


 だって、あたしにだって新しい友達がいるのだから。勇太とか愛とか、夕美とか……。

 それに、大美和さくら先生と出逢うこともできて……。

 これをあたしの幸せと思ってしまったら、なんだか田舎の幼い頃の彼との全ての思い出が、遠くなってしまって……しまうような気がして……。しまっただから……。



 だから、あたしは――




       *




 ――少しだけ、我ジャンヌの話を聞いてくれるか?


「話を……はい。勿論です」


 昔……まあ、お前からすればもっともっと大昔だ。

 こんなことがあった。ここだけの話だぞ。

 ジャンヌの片思いの彼の話だ。


「……彼?」


 まあ……せっかくだから、お前に教えておこうと思って、別に教えなくてもいいのだがな。


「……いえ教えてください。聖人ジャンヌ・ダルクさま。興味津々です」


 まあ、そうか……。じゃあ言うぞ。

 言っとくけど短い話じゃ。


 その、ドンレミの――お前は最初に書いてくれた恋の話になるんだがな……。


「恋の? ああ『あたらしい文芸』の出だしの話ですか?」


 ……あたらしい文芸の最初のドンレミの話のことだ。


「あ……ああ。はい! 思い出しました。でも、あれ……。その、聖人ジャンヌ・ダルクさま。あれ小説のツカミなのですけれど……」


 ツカミ? ツカミとは??


「……その聖人ジャンヌ・ダルクさま。恐れながら申し上げますけれど、聖ジャンヌ・ブレアル学園は、聖人ジャンヌ・ダルクさまあっての学園でして……」


 でして……?


「でして……。だから、その……あたしはこの学園の生徒達の気持ちを、自分が執筆している『あたらしい文芸』の冒頭に……その登場させる事で、学園の生徒の気持ちをこの文芸に引き付けることができるんじゃないかと……つまり小説というか、物語のテクニックです」


 ……そうか。


「……あのダメでしたか?」


 いや! そんなことはない。

 まあ、我ジャンヌあっての学園という事実は本当だからな……。

 ならば、我はそれを喜ぶべきなんだろう。



 ――話を戻そう。


「はい、聖人ジャンヌ・ダルクさま……」


 そのドンレミでな。

 我ジャンヌは……お前が書いた通り、我には初恋の彼がいたのだ。


「ええ……!!」


 驚くな。新子友花よ……


「そりゃ驚くってわ!! ジャンヌ・ダルクさま!!」


 聖人が抜けとるぞ。新子友花よ……。

 まあ、我のことはジャンヌで構わんがな。


 彼の名は言わないが、ジャンヌと同じ羊飼いの少年だった。

 ジャンヌはな、彼とよく草原を羊を連れて歩いた……懐かしいな。

 新子友花が田舎の彼を思うような気持ちだろう。


 彼は羊を慣らすのが上手くてな。

 羊にも性格があって、この羊は優しい……。けれどこの羊は気性が荒いから……とかなんとか。

 いろいろと羊飼いとしての心得とかテクニックを、彼から教わったものだぞ。


「……そうなのですか」


 ……ある時、年明けの夕暮れだったっけ?

 私に渡したいものがあるから、日が沈んでから村の教会まで来て欲しいと彼に言われてな……。

 私はなんだろうと思いを巡らせ……。


「もしかして、それって!」


 そうだ、新子友花よ。お前が今心の中に思ったそれだ。



「告白って……にゃん♡」



 ――恥ずかしながら我ジャンヌは、もしかしたら、今日は誕生日だからプレゼントをくれて……つまり、それって私への求愛? なんじゃないかと私はそう思った。

 身勝手ながら、恥ずかしながら……そう思ったんだ。


「……ジャンヌ。……なんか可愛い!!」


 その日は、私の誕生日1月6日だったからな。

 そう思うことは当然の気持ちだった。そう思いたかったんだ。


「はい……分かります」


 ……そうか。

 それから、私は夜になって村の教会に出かけた。


 教会の入り口に一人立って彼を待っていた。

 でもな……待っていたけれど、彼はいつまで経っても来なかったんだ。


「来なかったの……ですか?」


 ああー来なかった。

 後で知らされたんだが、彼はその日の夕暮れに徴兵されて、戦地に強制的に行かされたという。


「徴兵。行かされた……」


 そう、戦場に行ってしまったのだよ。


「……そうなのですか」


 ああ、そうだ。……もう少し聞いてくれて。新子友花よ――

 月日は流れて行った。

 私は、彼はどういう思い出で戦地に行ったのか……ジャンヌはな、それからずっとずっと考えていた。

 彼のいなくなった草原を歩きながらな……。


 怖い思いを背負って、恐らく、彼は戦場で今まさに戦っているのだろう。

 ……そう思うと、我ジャンヌは居たたまれない悲痛な思いになった。

 当たり前か? 大好きだった彼と、もう逢えないと無意識が気が付いている。


 でも、それを意識したくない――


 思ったところで彼が帰ってくることはない。私には分かっていた。

 戦争は長引いている。決して帰っては来れないだろうと……。

 彼が戦死する姿を夢に見たことがあった……でもな、目を覚ますと何故かなんとも思えないんだ。


「思えない? どうしてですか? 彼が死んだ姿を想像したくないからでしょうか?」



 いや違う!



 よく聞いてほしい。新子友花よ。違うんだ……。


 我ジャンヌ・ダルクは……彼の戦死よりも、幼い頃の思い出との別れよりも……寂しさの方がまさっていたんだ。

 彼が戦場でもうドンレミに戻ってこない……戻れない。

 戦死したんだという思いが、私の心の中に芽生えればいる程。

 我は……彼との幼い頃の思い出を思い出として――鮮明に記憶することできた。


 そう、気がついた時――


「気がついた時……。聖人ジャンヌ・ダルクさま??」


 新子友花よ――

 私が大天使からお告げを授かったのも、ちょうど同じ時期なんだ。

 そういう話だ。我ジャンヌの話は以上だ。



「……恐れながら、聖人ジャンヌ・ダルクさま」


 だから、恐れなくていい。


「もしかして? 聖人ジャンヌ・ダルクさまは、その気持ちを持っていたから、戦場に行こうと決心したんじゃ……」




 新子友花よ。今を生きようぞ――




 誰にでも未練はあるぞ。

 新子友花、聖人となったジャンヌにもある。


 でも、それはな。

 それこそが青春というキーワードに内在している、大切な気持ちなのではないかな?


「青春ですか……」


 そうだ青春だ……。

 新子友花の大切な人生の1ページだ。


 掛け替えのない一生の人生の思い出だな。

 生きてきて良かったと、いつしか、お前が必ず思うことになる気持ち……あたしは彼のことを大好きになって、本当に良かったんだという。


 ありがとう。あたしの思い出……。


 記憶との再会と成長。

 旅路の先で見付けた心落ち着く山奥の町――何故か懐かしく感じる郷愁かな?


「はい。……っはい! 聖人ジャンヌ・ダルク!!」


 ふふっ、新子友花よ。

 勢い余って、さまが抜けたな。


「……は! にゃん!! 申し訳あり……」


 いいってことだぞ。新子友花ちゃん!! お前は可愛い。



 ――ところで新子友花よ。

 己の無意識の中にあった“未練“を、しっかりと向かい合った感想は?

 自己愛――ナルシシズムの言葉に、怒りを感じた兄の病気のエピソード。

 お前はずっと耐えて生きてきた。


 折角だから、教えておこうと思う。

 自己愛――ナルシシズムというのは、人と強迫的に優越的に関わらずには生きていけない。

 そうして関わらなければ、自分の無意識にある本当の記憶――劣等感と罪悪感に自ら気が付いてしまう。

 関わることで、それらに気が付きたくないというのが彼らの内面である。


 我ジャンヌ・ダルクが教えてやろう。彼らとどう接すればいいかを。


【あたしは、あんたの道具じゃない―― 我ジャンヌは魔女ではない――】


 と言ってやれ!

 そういう頭の中が幼稚園の輩は可哀相な――誰とも本当の意味での親密な関係を持てない『向こう側の存在』とでも思っておけばいい。

 事実として、どこまで行っても仲良くはなれない。




 新子友花よ――


 お前が無意識に見た恐怖と怒りの姿、田舎の彼に『お前』という言葉を浴びせられ続けてきた怒りと、その鬱憤が限界を超えてしまって、ビンタしてしまったという事実に対する恐怖。

 それが夜市の神社――花火大会の一夜に集約されていることは、どう思う?

 更には、骨を拾った幼い頃の経験とそれを重ねた時に、どう思う?


 お前の田舎への本当の思い――そして別れ。


 別れ、新しく生きて行こうと思った――本当の自分の気持ちの整理。

 青春の終わり、新しく終わることができて……。


 新子友花よ――


 自分を幸せだと思ってほしい。

 別れ、新しく。お前の優しさであり、凄い力だと思う。

 優しすぎるとも言えるが……その気持ちを、我の信心に向けた新子友花よ――


 我ジャンヌ・ダルクは、とても幸せを感じるぞ――とぞ言おう!!

 最後に、それをお前に言いたかったのだ。



 元気出せ、新子友花よ!!


「……は、はい! 聖人ジャンヌ・ダルクさま!!」




 新子友花よ―― お前、可愛いぞ――




「んもー!!」


 聖人ジャンヌ・ダルクさま!!

 だから、あたしのことお前っていうにゃい!!





 第四章 終わり


 この物語はジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。




    救国のために戦った ジャンヌ・ダルク


    あなたに敬意を込めて 尊敬と感謝を あなたに


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