第37話 【特別編】新子友花さん――そういう自分の人生の経験を、どうか好きになりましょうか!!


 ここからは、後日談です――



 みんなへ。


 確か今日はラノベ部の部活で、夏休みの合宿のことについて、打ち合わせをする予定だったと思うけれど、……ごめん。

 あたし、今日のラノベ部には出席することができません。

 今日は土曜日で、あたしは今日の午後から、一泊で某所に行ってきます。

 期末テストの試練も無事に乗り越えることができたことを記念して……じゃないけれど。

 明日は日曜日だし、気候も天気も丁度良い旅行日和だと思うし、幸い快晴という予報だし。

 まあ、そういうわけで旅に行ってきます!!


 ……あのさ、別に変な意味で旅に行くんじゃないんだからね。


 とくに忍海勇太よ!

 夜逃げとか傷心旅行とかを勝手に思って、ため息ついてんじゃないよ!

 それと愛さんも、変な尾鰭を付けて、学園中に変なあたしの噂話を都市伝説のごとく、言い触らさない様にしましょうね!


 ――あたしってさ、いっつも思い立ったら吉日で……という感じで、衝動的に旅行に行っちゃうんだよね!

 あたしダメなの。数週間前からホテルの予約取るとか、ツアーに申し込むとか、そういうお決まりのスケジュールで旅行に行くことに対して、あんまり嬉しさとか楽しさを感じられないんですよ。


 いい? よく聞いてね。


 旅ってのはね――サプライズとかハプニングあってこそ、旅する価値というのが生まれるものなのです。

 旅の恥はかき捨てじゃないけれど、偶然、出会う人々とコミュニケーションを取ることによって、日常とは違う自分を、人との出会いによって知ることができる。

 見知らぬ街道を、地図も見ずに歩き続けることによって、まるでRPGのダンジョンを探索しているかのような感覚を、体感することができちゃう!


 ……まあ、今回の旅は、あたしが幼い頃からよく知っているところなんだけどね。

 どこかは教えないから!

 教えても、なんだそれって聞かれるのがオチかなって、それくらいの地味なところです。

 あたしがこれから訪ねる旅の場所はね……。

 あたしにとっては“心の故郷”の様な、幼い頃からの思い出の場所なのですよ!!


 夏が来れば思い出す……本当に思い出す。


 近所の友達と遊んだことを思い出す。山の探索から川遊びなんかをね。

 そう、思い出すのです……じゃ、そゆことで行ってきます。

 勇太に愛、合宿の詳細なんかが決まったら、あたしに連絡くださいな!




 ――7月7日の午前7時。


 駅前から少し歩いた川沿いのホテルをチェックアウトする。

 相変わらずこのホテルで他の宿泊客とすれ違ったことがない。とても静かなホテルだと思う。

 ホテルを出るとすぐ向かいに交差点がある。車の往来は全くない。

 その交差点の向こう側には、あたしもよく通ったショッピングセンターが建っている。


 懐かしいな。ここでよく買い物をしたっけ……?


 というよりも、幼い頃はこのショッピングセンターでしか、買うところなんてほとんどなかったっけ?

 んで、このショッピングセンターの屋上は、簡易の遊園地みたいな場所で、その中に小さなゲームセンターがあった。



 そういえば、大美和さくら先生と2人きりの部活動の時に、あたしがPCでラノベをせっせと書いていたら、先生が後ろからあたしのPCの画面を覗き込んできて――


「……新子友花さん。このキャラクターの格闘のところは、こうもっとアクティブ感を出して書いてみましょうね!」

 と先生は仰って。

「アクティブ感を……ですか?」

 あたしは振り返り尋ねると、

「ええ、アクティブ感を存分にですよ! 例えば『ドラゴンバスター』のボスのドラゴンをやっつける時の魔法をね、最初にさっと放っておいて……。で、ドラゴンが少しタジロイダところを、サッと剣で突き刺す感じでですよ!!」

 大美和さくら先生は、両手でカンフーの木人拳と手合わせしているかのごとく、自分が主人公に成りきってドラゴンと対峙している場面を想像しながら教えてくれた。……多分。


「あの先生……意味がちょっと」

 あたしは、振り向いたまま頭の上には『?』を、そのまま首を傾けて言うと、

「ああ! ああ……そうですよね」

 大美和さくら先生は、胸前で両手をパチンと鳴らして、

「先生……新子友花さんの熱心なラノベ執筆ぶりを後ろから見つめていて、先生は懐かしいゲームセンターのドラゴンバスターを、友達が遊んでいる後ろから『あーだ! こーだ!』と、アクティブに熱心に見つめていたところと無意識に重ねてしまっちゃいました。これは新子さん、ごめん遊ばせ……」

 ふふふっ……と、今度は口元を手で隠しながら、ぺこりと軽く頭を下げた大美和さくら先生。


 それをしばらく凝視していたあたし、

「……先生。あの、別に先生は何も悪くないんですけれど」

 と言った。振り向いたままの姿勢で……。

「ええ……そうですね。新子友花さんの言う通り、先生、思わず懐かしき……の田舎の思い出を、思い出しちゃいました。あはは……」

 思い出しちゃいました……か。

 そりゃ、大美和さくら先生にも、若い時の懐かしい思い出はあるよね(当たり前である)。

 でもさ、それがあたしと同じゲームセンターの思い出なんてね。なんか、面白い!


 ふふっ……



 ショッピングセンターから歩いてすぐ、3階建ての白塗りの施設がある。

 今、あたしがこの施設を見上げても、いったいどういう施設なのか分からない。謎だ……。

 でも、ここであたしは、小学生の低学年くらいかな? 彼と近所の友達と一緒に、ここでクリスマス会をやったことを覚えている。


 あたしがキリスト教に最初に出逢った施設がここだ!!


 その施設を越えて国道の高架下を潜ると、小さな交差点が見えてくる。

 ここをまっすぐ進むと同級生の自宅だ。

 あの頃、自宅でゲームをしたっけ? 近くに公園もある。よく遊んだっけ?

 この交差点を右折してしばらく歩く。踏み切りを越えると川が見えてくる。川遊びをした川だ。よく魚釣りをしたその川である。


 橋を越える。すると坂道がある。

 相変わらずの山奥の田舎だと、ここでいつも実感することができる。

 ――この坂道の左にある住宅街の道を行く。このまま、まっすぐ登ることもできるけれど、あたしにとっては住宅街の道の方が思い出がある。

 住宅街の道も少し行くと登りがある。……あるのだけれど、こっちの登りは畑道である。人一人通れるくらいの細道である。


 幼い頃からこの道は大好きだ。今でも大好きである。

 この細道は地元の人も滅多に通ることもない。


 山の上に高校があって、そこの生徒は近道としてよく利用していたっけ?

 あたしも真冬に雪が積もった時に、この細道でダンボールをソリにして、滑って遊んでいたことを思い出す。あたしにとっては面白い道なのだ。

 細道を登ると……あたしが幼い頃に“暮らしていた”田舎の祖父母の家がある。

 今では誰も住んでいない。祖父母はすでに他界しちゃた……。

 他界したけれど、それでも田舎に来るあたしは……もういい加減に田舎に来ることも最後にしなきゃと思っている。だって誰もいないんだから……。


 この細道に祖父母の家があって、実はこの細道自体が、父方の祖父と最初で最後に言葉を交わした場所なのです。

 祖父がタクシーから降りてきて、私は家の中から、その気配に気がついて細道まで歩いて行った。

 行ったら、丁度、祖父が降りてくるところだった。あたしは祖父と目が合って、そしたら、


「お母さんはいる?」


 と、祖父が優しくあたしに声を掛けてくれた。


 それが最初で最後の祖父との会話だった。

 祖父はその半年後に急逝していった。そんなことがあった――



 ――更に細道を上へと登っていく。畑を越えて登りはここから急になる。それでも登る。

 登った先にはお寺だ。友達のお寺がある。せっかくだからお参りしちゃった。


 そしたら……こんな偶然あるんですね。お寺でと友達とバッタリ出逢っちゃった!!


 あたしは一瞬、時が止まってしまって。それから勇気を出して声を掛けました。

 その友達はあたしのことを覚えてくれていた。嬉しかった。


 それから数分会話した。


 友達はすっかり立派に見えた。あたしなんかよりも、ずっと立派に見えた。

 このお寺を継ぐ者として、日々頑張っているのだという……凄いと思った。

 あたしは、それを伝えた。すごいって言った。

 そんなことないよと友達は謙遜したけれど。これは、あたしの本音である。


 お寺から少し坂道を降りて、さっき書いた高校の脇道を通る。

 この道は、はっきり言って山裾を開墾した山道である。人通りは全くない。

 というよりも、ホテルから人と出逢ったのはお寺の友達だけだよ……。


 この山裾の道を越えて……まあ、更に坂を登ると、あたしが『あたらしい文芸』で書いた神社があるのだよ!!

 神社――正確には八幡様です。

 あたしが夜市の夏祭りの時に、彼とケンカして、あたしが彼にビンタしちゃった……その神社である。


 お賽銭を入れて柏手を打つ。

 思うことは『あのビンタはやり過ぎました』という反省である。

 ……ところで、どうしてあたしは彼をビンタしちゃったんだろう? 境内で少し思い出してみた。


 あたしも小学生で幼かったから、あたしのことをお前って言ってきただけなのに、それなのにビンタってのは、やっぱやり過ぎだったのかなって?

 彼は……さっきあたしが高架下をくぐって小さな交差点があると書いたけれど、その交差点をまっすぐ行ったところに家があった。

 それから、ずっと……これも坂道を登って、縦貫道の高架下を越えた山裾に、彼と親しい、あたしとも親しかった親友が住んでいた。

 その親友とも、いろんなゲームをして遊んだことがある。なんだかあたしの田舎の思い出の半分は、ゲームなんだよね……。


 その山裾の親友と、彼は仲が良かった。

 一方、あたしはその親友とゲームの内容というか攻略というか、そういうゲーム関係のもつれで、一時期、あたしは親友のことを『うそつき』呼ばわりしたことがあって、親友をとても怒らしてしまったことがあった。

 その親友と彼は仲が良い――

 あたしは『お前』と言った彼の言葉に対してビンタしちゃった理由って、もしかしたら二人の仲良しを知っていたからこその嫉妬だったんじゃ……いや、そうだと思う。


 今となって……だけれど。



 ――八幡様の境内を、あたしは階段を降りて行く。

 降りた先には国道が通っていて、その国道を越えて更に下に降りたところに商店街がある。というよりも商店街があったと言っておく。

 幼い頃は、とても活気溢れる商店街だったっけ? 

 毎月15日になると500円を手に持って、この商店街の書店で『月間コミック』を買うことが楽しみだった。


 あたしは元商店街を行く。

 相変わらず誰もすれ違わない。誰もいない。

 軒は、ずっとシャッターを下ろしている。あたしは、なんか寂しくなった。


 ――夜市の夏祭り 

 あたしは彼と一緒に、この商店街を楽しんだ。

 金魚すくい……水風船……綿菓子……。

 人も大勢いた。本当に楽しかった。懐かしいな。今でもあたしは思い出す。


 でも、今は寂しいもんだと思った。

 誰もいない商店街は、あたしの彼との一夏の思い出を鮮明に思い出してはくれるのだけれど、それでも寂しい。

 それと、なんだかよく分からないけれど、もう……あの頃の夜市の思い出は、もう戻ってこないんだって、この時はっきりとあたしは感じたのです。

 駅前で駅員に聞いた話だけれど、この田舎もすっかり人が減ってしまって過疎化されていると。

 ……もう、人も若者も都市部へと移り住んで行ったという。

 そういう話を、あたしは聞いていた――


 夏祭りも小規模で、昔のような商店街の夜市はもうやってないってらしい。

 あるのは駅前の大通りでやる盆踊りくらいだという。

 ――それでも、花火大会はまだ健在でやっていると言っていた。


 なんだか、ほっとしたあたし。



 ――あたしは、幼い頃の彼との夜市の夏祭りの思い出が、あの過去のその瞬間だけの貴重な体験であり……思い出となってくれたのかもと思ったら、それだけで、なんだかあたしは独占的な気持ちを持ててしまって。

 それが良いことなのか否かは、あたしは正直言って深くは考えたくありません。

 なんとなくだけれど、それでも構わないのかと思います。


 少なくともあたしの終わっていなかった田舎の彼との過去を、その後に、彼と再会することができて、一緒にまた遊んで……遊ぶことができて、思い出すは、彼の家で遊んだゲームの時の楽しさだった。

 あの時と、何も変わっていない彼がいてくれて、だから、あたしは嬉しく感じちゃって。

 これからあたしがどうなっても、これから誰からも、両親からも疎遠になってしまって、孤独になって、そうなってしまったとしても……。


 あたしには、田舎の彼との思い出が、しっかりとした過去の事実としてあってくれていたから……




 ――気を取り直して。あたしは最後に、彼の近所の公園に行ってベンチに座りました。


 ああー懐かしい。懐かしい。

 懐かしいなって……


 ……あたしの兄は脳梗塞で入院していて、両親は大丈夫とか、心配とか、そういう声を掛けている。

 あたしは、その姿を見つめて……それが腹立たしく感じて。

 そんなことを言っても、兄の病気は治らないとあたしは知っていた。

 両親は相変わらず同じことを言い続けている。まるで言い訳だと、あたしは思ったから――


 あたしが田舎の彼を、こうして思い出してしまったのは――



 やっぱり、そうなんだと思うのです。




       *




 ――大美和さくらです。


 新子友花さん。部活を休んで旅に出たんですね。そうですか。


 ふふっ……


 新子友花さん。顧問の私に言付けることもなく、あなたが旅に行ったことを先生は咎めませんからね。

 新子友花さん。あなたも高校2年生なのですから……自分で納得いかないこととか、納得したいから頑張ってみようとか……。

 そういう気持ちをアクティブにこの夏に行った気持ちを、先生は評価しちゃいますからね。


 どうですか? 旅に出て――


 先生には分かります。

 居たたまれない心の中のもどかしさがあって、結局は、その気持ちに気が付いた。

 でも本当は、自分はこの感情に気が付いて良かったのだろうか? といったところでしょうか??


 まあ、先生が思うところ、気が付いちゃった自分の本音をこれからは……と言ったところでしょうね?

 先生も、はっきりとは分かりませんよ。

 先生から言えることを一つ教えます。ドラゴンバスターの話です。



 ――祖母に怒られたのは、そのドラゴンバスターの遠足のおやつをゲームに使ってしまった時が、最初で最後でした。

 先生が悪いんです。そう先生が。

 でもね……。先生はドラゴンバスターで友達と遊んだことと、祖母を両天秤に掛けて、今でも先生は……ゲームを取る!! それはね……新子友花さん。

 勿論、先生が悪いんですよ。

 でもね。祖母だけが……もう亡くなっちゃいましたけれど、祖母だけが先生の……私の人生じゃないって気が付いた瞬間でもありました。

 と言うか、自分の人生を生きてみたいと覚悟を自分なりに素直に感じられた……というか?


 なんて言えばいいのでしょうか? これじゃ、国語教師としてダメですね……。

 一人の人間としての“言葉からの解放感”という感じですかね。こんな感じです。分かりますか??


 言葉からの解放感という表現はね。

 つまり言葉の本質は……ナルシストに限ってとしておきますね。攻撃性にあるからですよ。

 ……と言っても難しいですね。……じゃあ教えますね。簡単な話ですよ!


 自己愛――ナルシシズムの人間の共通点は『言葉から入る』ということです。どういうことか教えますね。

 イジメを想像してください。

 

 イジメというのは必ず言葉から始まります。いきなり暴力なんて絶対にありませんから……。

 言葉による “自己愛的” “疑問的” “自虐的” “集団イジメ的” “パワハラ的” 先生も学生時代にイジメられていましたから、よく考えましたよ。

 要するに、イジメっ子って本当は『人間恐怖症』なのですよ。難しいですね。


 勿論、遠足のおやつの話は先生が悪いのですよ。

 でもね、そのことを“鬼の首”を取った如く、ネチネチと言ってくる人間っているのです。

 そういうネチネチ人間の無意識にある本心を知っていますか?


 自分は凄くなければいけないという、深刻な劣等感――

(凄くないほうが幸せですのにね……)


 新子友花さんが思っているお兄さんの脳梗塞よりも、はるかに絶望的などうすることも不可能な悩みです。

 その悩みは怒りとして脳裏に記憶されてしまいます。

 要するに、相手が悪いと言いたいだけ――言うことしかできない(あのブドウは酸っぱいんだって)。

 それしかできなくなった――だから他人が怖い。


 でも、その原因は自分の間違った人生にあるのです。


 ただ、それを認めたくないだけ。

 そして他人が怖いから、まずは綺麗事な言葉から入る。必ずです。

 言葉だったら責められない。暴力になっても大丈夫だとか。

 まるで幼稚園児が先生に意地悪して、かまってもらいたいという幼稚さそのものですね。




 新子友花さん!! そんなことよりも、あなたに!!


 青春



 という言葉を贈りますね!!

 新子友花さん。どうですか? 存分に青春を味わってきた感想は?

 先生には、勿論、分かりますよ。


 あんなに憧れて、飲んで好きになったメロンソーダが、今飲んでそんなに……こんなもんだったんだって気持ち……。

 んもーん!! っていう感じに気が付いちゃった、青春の後の姿かな??



 ふふっ でもね。新子友花さん――


 そんなものだと、青春って――なんだか甘酸っぱい“さくらんぼ”だなって。そう思えたでしょうか??

 これでも、うんじゅっさい生きてきた大美和さくらが、あなたに教えます。


 さくらんぼはね、甘酸っぱいから美味しいのですよ♡


 新子友花さん――そういう自分の人生の経験を、どうか好きになりましょうか!!





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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