第36話 【特別編】7騎士よ!! 最後まで戦うことができたこと、我ジャンヌ・ダルク最高の思い出だぞ!!!


 新子友花へ――


 あなたの暗闘は、正確には誰も理解してくれないでしょう。

 あなたの真実を知る者は、この世界にはほとんどいないのですから。

 でも、あなたはそれを受け入れた。

 そして生きようと覚悟した。それでいいのですよ……。


 兄の脳梗塞という苦しみを、あなたは祈りによって救い願った。

 そんな、あなたを誰も正確には理解しようとしないでしょう。

 祈り続けてきた新子友花を、無力な者と決め付けてきたでしょう。


 ――それは、立場を利用したイジメである。


 つまりパワハラであり、サディスティックの偽善性である。

 顔にアザのある人に対して、そのアザはどうしたのですか? と平然と聞いてくる無神経さである。

 俺様のコンサートに来なかったら、ぶん殴るぞというパワハラであり、そうしなければ自己愛――ナルシシズムを維持できない人々……。

 自分は偉いのだぞと見せびらかそうとすることで、自己イメージを正当化させる行為である。

 本当に偉い人はな――大人しく日々を生きている。



 お前は自分のために、過去の思い出を綺麗に終わらせればいい。

 それが、お前の一生であり人生であり、出逢いであり別れであり、願いなのだから……。

 お前の願いは潔いぞ。


 生きようぞ。新子友花よ――




       *




 ――ここに署名すればジャンヌよ、お前の罪はなくなるのだぞ。

 けれど、ジャンヌダルクは潔く言い放った。



『私に罪は無い』



 私を裁けることができるのは、神だけだと潔く言い放った。


 ジャンヌ様!! ジャンヌ様!!


 すっかり少なくなってしまったな! 我が忠臣17騎士が今は7騎士か……。

 ジャンヌは側に駆け寄ってきた彼らを見た。見て微笑んだ。

 7騎士を見つめて、優しくジャンヌ・ダルクは言った。


 ジャンヌ様!! どうしてお逃げにならないのですか?

 どうしてご署名されないのですか?


 ジャンヌ様!! どうか生きてください。

 どうか、私達はあなたと共に戦ったのです。



『逃げる理由が無いからだ』



 ジャンヌ様!! どうか死なないでください。

 それを最後にジャンヌ・ダルクは歩かされる。

 追おうとする7騎士を、兵士数人が阻止している。



 7騎士よ!! 最後まで戦うことができたこと、我ジャンヌ・ダルク最高の思い出だぞ!!!



 本当に最高の……ありがとうな!!!!




『ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま――』


 新子友花よ――


 我が化身の像に、祈り続けている姫君きくんに感謝する!!

 我がジャンヌは魔女には決して成り下がらないぞ。

 神の声を授かったことは、天の御意志なのだから……神は魔女を選ばない。


 決して――


 我、ここに今力尽きようとも、信仰と共に死のうぞ!!



 もしも生まれ変われるのだとしたら、今度は……どうか平穏な人生を私にお与えください。

 新子友花よ――ジャンヌ・ダルクは、いつもお前と共にいることを忘れるな!!




       *




 あたしはメインの小説を書き終えてから、こんなことを考えました。

 幼馴染みの彼と夜市の後の神社でのケンカした時のことについてです。


 彼が何を祈ったの? って、しつこくあたしに聞いてくるもんだから、あたしが、女性にそういうことを聞くのは失礼だと言って……それから、お宮の前で口論になってしまって。

 そしたら、彼が私のことを『お前』と連発して言ってきたもんだから、あたし頭にきて……というエピソードをです。



 ――勿論、あたしが手を出してしまったことは悪いのでしょう。

 でもね、お互い幼かったこともあって、あたしは彼のことが……その大好きだったから、尚更腹が立ったのでした。

 可愛さ余って憎さひゃくばいと言いますから……。


 彼との田舎での思い出は、夜市だけじゃありません。

 近所の公園で彼の自転車の練習を、あたしは手伝ったことがありました。あの時の思い出も懐かしいですね。


 自転車に乗れない彼をあたし揶揄したら、彼が思いっきり怒ってしまって(当たり前か?)。

 その後、口論になってケンカ別れしてしまった。

 今思い出してみれば……。なんだか、あたしと彼って仲が良かったのか否かって?


「お前、ちゃんと後ろ、持っててくれてんのか?」

 彼が言いながら辿々しく自転車を乗ります。

「あのさ……。いい加減あたしのことを、お前言わないでちょうだい。あたし、練習に付き合ってあげているんだからさ」

 あたしはすでに自転車に乗ることは、ちゃんとできていました。

 だから、彼が自転車の練習をしている時だけは、少しだけ彼に対して強気になって接していました。

「お前……ちゃんとさ」

 相も変わらず、辿々しく自転車に乗っている彼。なんだか、滑稽に見えてしまう。

 別に嫌みな意味じゃないんだけれど、可愛さ余って憎さひゃくばいとは、こういうことなのだと思って。


「だから、お前言うな……」


 あたしは彼の自転車の後ろの持っている手を緩めた。あたしの憎さひゃくばいを思い知れって……。

 そしたら――

「ちょ、ちょいな!! ……ちゃんと持っててくれってば!」

 彼はバランスを少し崩して、慌ててT字のハンドルを左右に振り振りし始めた。

「ちゃんと持って!!」

 続いて、身体もサドルの上でクネクネさせて体重移動させる。

 なんだか、後ろから見てて滑稽だった――


「おい、お前! お前!!」


 ……! (カチーン)


 あったし今度こそ頭にきて、あたしは自転車を持っていた手を、完全に離しちゃった。


 キキッ!


 彼が両手で自転車のブレーキを掛ける。後ろにいるあたしに振り向いて、キッっと鋭くあたしを睨み付けた。

「……………」

 彼は無言であたしを睨み続けている。

 あたしはそんな彼の眼を見つめて、

「あんたって、こんなのもまだ乗れないのか?」

(思わず……日頃の仕返しだったのかな? 無意識の……)

 言っちゃった……。


 ……彼は自転車を押して、そのまま無言で……自宅まで帰って行っちゃった。


 思えば……。田舎で彼との最後の思い出が、その近所の公園のエピソードだったっけ?

 なんだか、あれだけ仲良く遊んできたのに、あたしが引っ越すことを知ったくらいから不仲になってしまったんだな。


 ほんと可愛さ余って憎さひゃくばいとは、よく言ったもんだな。




 ――数年が経過して。


 あたしは夏休みに、田舎に数日帰省したことがあって、その時に祖母が気を利かせて、彼の実家に連絡をとってくれたことがありました。

 数分後、彼があたしの自宅へと現れました。


 自転車に乗って現れて……、彼はすっかり自転車を乗り回すことができていました(当たり前か?)。


「おー! 久しぶりじゃ」

 彼の最初の第一声がそれでした。

 彼は何も変わっていなかった。とても明るい性格の彼が、変わらないまま……あたしの目前に立っていました。

「ど……。どうも…………」

 一方のあたし。……懐かしいな、なんだか恥ずかしかった。

 そりゃ数年ぶりに彼を再会することができたのは、本当にとても嬉しかった。


 でも……。

 なんだか今までの田舎に住んでいた時の、彼との楽しかった日々の気持ちとは……なんて言うか、かなり違っていました。

 どう違うのか? ……なんて言えばいいのかな?

 ……幼い頃の彼と遊んだ純粋さが、もう、自分の心の中にはすっかり消えてしまっていたという感じです。


 再会することができた時には嬉しかった。

 懐かしい夜市の思い出も、鮮明に蘇っちゃったりして。

 でも……。


 あたしはすぐに、彼にはもう新しい友達がいるのだと思った。


 彼と再会できた時に、あたしの心に最初に浮かんだ“懐かしい……”という気持ちがあって、あたしは、この懐かしいという気持ちが心に浮かんでしまったら、それは過去の思い出の追体験でしかないのだと思ったのでした。


 あたしにも、すでに新しい友達ができていたから――


 ――再会することができて、すぐに、あたしは彼と一緒に自転車に乗って、川に行って魚釣りをしました。

 大量のフナを二人で釣って、バケツに入れて、彼が『これ、君に全部あげる』と言って、あたしにプレゼントしてくれました。

 彼にとっては最高の田舎の思い出を、あたしにプレゼントしたかったのだと思います。


「じゃ! お前、元気でな!!」

 夕暮れ。彼は自転車に乗りながら、あたしにそう言葉を掛けてくれて、

「…………ああ、ありがと」

 あたしは手を振って彼に応えた。

『……お前って言うな!』と、ツッコむことをすっかり忘れていて、その事にハッと気が付いたのだけれど……。

 気が付いた時には、彼はすでに道のずっと向こうまで自転車で行ってしまっていました。


 実は、あたしは家に帰ってから……結局釣った魚の置き場所に困ってしまって。

 いろいろと考えた挙句、家の下の川にフナを全部放してしまいましたっけ。




 ――あたしはメインの小説を書きながら、少し考えました。

 彼との思い出から見えた関係をです。


 自転車のケンカ別れ、魚を逃したエピソードとかを思い出してみました。

 もしかしたら、あたしはなんだかんだ言って、いろいろと優しく接してくれた彼に申し訳ないと思うくらいの事を、彼にしてしまったのかもしれない……と考えました。


 夜市の神社で、あたしが手を出してしまったことも同じです。


 夏休みの帰省の時は、彼はあたしとの夜市の思い出を覚えてくれていて、思い出し笑いしてくれたけれど。

 でも、あたしは彼に、やっぱし本当に申し訳ない事をしてしまったのだと思います。


 再開できて、楽しく遊ぶことができて――あれで良かったのかな?


 そう自問を繰り返して……高校生になったあたし。

 なかなか自答できなかった。

 彼との思い出から浮き出た彼への申し訳なさが、多分、あたしが『あたらしい文芸』で本当に書きたかった事なのかもって……。

 決して、夜市の思い出は甘酸っぱい“さくらんぼ”のような思い出ではなくて、……なんていうか『反省文』のような感じに近いんじゃないかと思うのです。


 いいえ、そう思おうと……。


 ――あたしは書いたと思います。

 忍海勇太が、毎度毎度、あたしに対して『お前』と言ってくることに対して、あたしが嫌悪感を持ち続けてきたことをです。

 それをラノベ部のみんなに相談して、みんなは一様にあたしの思い過ごし、考えすぎなのだと諭してくれて。

 大美和さくら先生も、あたしの悩みに対して、

「新子友花さんも、もう、女子高生というお年頃ですよね……。ふふっ! いろんな青春を……。うん! そう……。経験するでしょうね~」

 と微笑みながら仰って。


 あたしはずっと書き続けている時に、あたしは忍海勇太の『お前』という言葉を通じて、過去の田舎の彼の事を思い出しているのだと、大美和さくら先生からのお話で気が付いたのでした。

 そして、あたしは結論として、田舎の幼い頃の思い出を忘れることにしました。


 ……すると、どうでしょう?


 今、あたしの心の中にある『お前』というキーワードは、忍海勇太からの純粋なる”悪意”の『お前』だけになることができたのでした。



 めでたし、めでたし……じゃなくって!!!



 これが大問題なんじゃい! えっ? 何故かって??

 教えます。あいつが言う『お前』って、悪意そのものだからだよ!


 ――田舎の彼が言った『お前』という言葉には、なんだかんだで、あたしとの大切な思い出がいっぱい詰まっていたのだから……。

 一方、あいつの『お前』という言葉には、あたしは……ただただ嫌悪感しか感じられません。ほんと、腹立たしい限りですよ!!


 ……でもさ、あたしが聖ジャンヌ・ブレアル学園で進学していくためには、ラノベ部の部長で成績優秀のあいつの力が必要不可欠な事も事実でしょう。


 でもさ――


 あいつをあたしが認めてしまったら、あたしの嫌悪感はまるで紙コップの自動販売機で、メロンソーダのボタンを押したのに、出て来たのは何故かオレンジジュースというくらいに増すばかり!

 だから、あいつを否定したいのだけれど、それじゃあ、あたしは妊娠する道を選択して“寿退学”を選ばなくてはいけない(なんだそれって、あたしに聞かないでください)。




 なんか最悪だ…… (´-ω-`)


 ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま!!

 あたし、これから……どうすればいいのでしょうか??





 終わり  作・新子友花





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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