婚期を逃したブス岸島リオン03

 風谷とは中学からの付き合いで、高校も同じ学校に進学した。女優に憧れていた風谷の誘いで、東京の大学へ進学した二人。特に、将来の夢もなかった岸島には、別にどこの大学でも良かったので、風谷と同じ大学でも構わなかった。それに、当時は風谷が主導権を握っているような関係で、岸島に選択の余地はなかった。結局、女優の夢は諦めて結婚した風谷。それからも、二人の友情は続いていた。


「ビックリした。来るなら、連絡をくれればいいのに。警察に通報するところだったよ」

「ごめんね。スマホの充電がなくて、連絡出来なかった」

「それなら仕方のないわね。何か飲む?」

「ビールある? ちょっと飲みたい気分なんだよね」

「ごめん。私、ビール苦手だから置いてない。ワインしかないけれど、どうする?」

「じゃあ、ワインでいいよ。ありがとう」


 ワインとチーズを用意して、テーブルへ運ぶ岸島。その間、用意された部屋着に風谷は着替えた。テーブルをはさみ、向き合う形で座ると、ワインを飲む二人。


「それで、今日はどうしたの?」

「別に……ちょっと、リオンの顔が見たくなって。それより、昨日は黒岩に会ったんでしょう? 聞かせなさいよ」

「別に何もなかったよ。普通に、食事をして帰っただけ。でも、嬉しい事もあったな」

「何? プロポーズされたとか?」

「されてないよ。それに、結婚はまだ先じゃないかな……」


 先月、仕事を辞めた黒岩は、定職にもつかず色々な事をしていた。絵画を習ってみたり、映画を撮ってみたり、募金活動にも参加していた。ある程度の蓄えがあったので、自分に何が向いているのか、自分探しをしていた。そんな将来性のない状況では、結婚出来るはずもなく、岸島はそれを理解していた。


「それより、明日花はどうなの? そろそろ子供でも考えているの?」

「子供? どうかな……私は欲しいけれど、仕事が忙しいようで帰りも遅いし。それに……最近ご無沙汰だし……」

「そうか……」

「お互い、上手くいかないね」


 悲しい事を忘れようと、二人の飲むペースは早くなる。それは、ただの現実逃避でしかないが、変わる事のない現実から、ちょっとでも逃げたいと思う気持ちは、誰にでもある事だ。

 完全に酔が回った二人の会話は、次第にお互いのパートナーへの愚痴に変わっていった。


「私から誘っても、最近は『疲れているから』が口癖で、すぐ断るの。こっちは事前に、色々と準備しているのに。まったく、うちの旦那は……」

「わかる! 私も昨日、ホテルに誘ったけれど、結局帰られちゃった。せっかく、美容室まで行ってセットしたのに、それにも気づかないなんて……」

「黒岩でしょう? あいつが、そんなの気づくわけないじゃない。自分の事しか、考えてないナルシストなんだから」

「でもね、ちゃんと私の誕生日を覚えてくれてた。それに、プレゼントも用意してくれてるって言ってた。それが、嬉しくて……。やっぱり私、彼の事が大好きみたい」


 明け方まで愚痴大会は続き、二人は寝てしまった。相当に、深酒をしてしまいった二人が起きた時には、すでに夕方になっていた。


「やばい、夕飯の支度をしなくちゃ!」

「帰る?」

「うん、ありがとうリオン。私の愚痴に付き合ってくれて」

「うんうん。いつでも付き合うから、また来てね」


 慌てて支度をして、風谷は帰って行った。独り残された岸島は、お腹が空きデリバリーを頼むと、待っている間、散らかった部屋を片付ける。ちょうど片付け終わると、注文していたピザが届いた。

 テレビをつけ、面白くもないバラエティを見ながらピザを食べる。夕飯を食べ終わると、お風呂に入り半身浴をする。読みかけだった本を手に、一時間は湯船に浸かっていた。身体を洗い、お風呂から出ると、明日の支度をする。クリーニングの袋から出して、タグを取るとハンガーラックにかけ、すぐに着れるように準備をする。そして、ベッドに入りスマホを確認した後、眠りについた。


 この日、黒岩からの連絡はなく、岸島の休日は終わった。

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