第27話 巨大武神
武神ドッデムはジャイアントに転生した。
彼は最強者【エンペラー】たちと別れると、自分のノルマの心臓を取りに走っている。
地面をどすんどすんと音を鳴らして走り、木々にぶつかり木の葉が舞い散る微かな音を感じていた。
ドッデムは元々武神と呼ばれる前はお金を演奏する事で稼いでいたし、村の仲間達も一緒になって楽団のように音を鳴らしていた。
だからドッデムは体が遥かに巨大になっていようとも、音楽を愛する気持ちだけは忘れていなかった。
ドッデムは自分の心臓がある場所を見つけた。
体の全てが敏感に反応している。
遠くから自分の心臓の鼓動が聞こえる。
そこは山そのものであった。
巨大な山に数十個の櫓が設置されていた。
そこには巨大モンスター用のバリスタなどが設置されている。
バリスタとは巨大な弓みたいなものだ。
あれではジャイアントでも危ないと悟った。
しかしここでジャイアントのドッデムは止まる事を知らない。
ひたすら全身を使って音楽を鳴らしながら進行する。
眼の前の櫓に向かって、地面から岩を引っこ抜くと、それを思いっきりぶん投げる事にする。
岩は円を描いて、1つの櫓に命中した。
その櫓は爆発するかのように崩壊した。
バリスタが吹き飛び、人間の体はバラバラになった。
武神ドッデムは次の瞬間、全身にバリスタの矢を命中させられた。
一撃一撃の巨大な矢の衝撃は全身の筋肉に悲鳴を上げさせるのに十分であった。
ドッデムは体を丸くして、体を岩そのものにして、ひたすら耐え続けていた。
バリスタの矢は留まる事を知らず、ひたすらドッデムの巨大な体を命中させ続けていた。
ドッデムの記憶が過去へと戻ろうとする。
虐めっ子がいた。彼らは少年ドッデムを何度も叩いたりしていた。
ひたすら耐え続けると、親友達が助けてくれた。
【ドッデム、お前が困った時はいつでも呼べ】
2人の仲間の事をずっと忘れた事がない。
彼等の命を感じる。なぜだろう、ドッデム自身がここで死ぬと感じたからなのだろうか?
【どんな時でも歌え、それが叫び声でも】
【悲しい時でも嬉しい時でも楽しい時でも叫べ、それがお前の】
【武神だ!】
「うぉおおおおおおおおおおおおおあああああああああああ」
武神ドッデムは立ち上がった。
岩の肌がぼろぼろになろうと、またバリスタの攻撃が再開されようと。
右を見た。そこには赤い髪の毛をした昔の親友がジャイアントになっていた。
左を見た。そこには青い髪の毛をした昔の親友がジャイアントになっていた。
2人はこちらを見てにかりと笑った。
兵士達がパニックになっている。
どうやら敵にも親友達が見えているようだ。
「さぁ、踊れ」
「必要な時にいつでも呼べ」
「お前の体に俺達がついている」
「さぁ歌え」
「「「それがショータイムの始まりさ」」」
3人のジャイアントは走り出した。
もう彼等を防ぐ壁は存在しない。
ドッデムと2人の親友達は魂の契約をしていたのだ。
それが偶然だとしても、それだけの本気の気持ちがあったのだ。
「緊急事態、ジャイアントが3体います、応援を送ってください」
「ぎゃああああ、た、助けてくれ」
「こっちくるなああああ」
「ふざけるなあああああ」
次から次へと聞こえてくる人々の悲鳴は、ドッデム達3人に伝わってきていた。
自分達がやっている事が蛮行なら、奴等がやった事はさらなる蛮行であろう。
恨みに恨みを返してはいけない、そう教えられていたが。
こればかりは恨みを返さないといけない、なぜならこちらが普通に生きるだけで、そいつらは敵になるのだから。
ドッデムの拳が櫓を破壊し、人々を踏み潰す。
人々の内臓が飛び散ると足裏の感覚が気持ち悪くなる。
人間を掴んで、思いっきり投げて、まるでダーツのように投げたりもした。
親友達2人も信じていた人間達に同じ人間だというのに殺されたのだろう。
その恨みは計りしれないものがある。
2人も容赦なく人間を玩具のように踏みにじる。
その時だった1人の親友が吹き飛ばされた。
ドッデムの真横を通り、転がっていく。
「すまない」
そう言って赤い髪の毛の親友が消滅した。
次は右腕が転がってきた。
それはジャイアントの右腕であり、どうやら青い髪の親友の腕のようだ。
次の瞬間では別れの挨拶も出来ずに、青い髪の親友はばらばらになって転がった。
そして煙を上げながら消滅した。
いつでも召喚すれば会える気がする。
それが魂の契約なのだから。
だが今目の前にいる化物を見ていた。
そいつは酔っ払いの老人であった。
腰には3個のヒョウタンが装備され、お酒が入っているのだろう。
今手にしているヒョウタンを合わせれば合計で4個という事だ。
その老人は赤いほっぺをしながら、ヒックヒックとよろよろとしている。
だが奴が2人の親友達を殺害したのだ。
それを理解しているからこそ、舐めた事が出来ない。
いや本気を出そう。
武神ドッデムは神話級拳法を発動させる事にした。
ゆっくりと呼吸を整えながら、拳と両足の感覚をイメージさせ続ける。
酔っ払いの老人はこちらを見てにやりとほくそ笑んだ。
「その拳は神の如く、その足は神速の如くだったがドッデムよ」
その時ドッデムの心が湧き上る瞬間を感じた。
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