第26話 覚醒の大賢者

 体が自分のハートの心臓を吸収した。

 人の心臓だからもっとグロテスクな形をしている物だと思った。

 しかしその形はハートの形であった。

 もしかしたら仲間達の心臓の形は違うのだろうか?

 恐らくだけど同じ形だと思う。



 全身が光に包まれた。

 その包まれ方はエネルギーが内側に集まっていく感じであった。

 気付いたその瞬間、全身から爆発した。


 

 四方をその爆発が衝撃波となり、塔自体を破壊した。

 何かの魔法を使っている訳でもなく、空に浮遊していた。


 

 沢山の力がみなぎるかのようだった。

 しばらくの間、ウィラクスの心臓はずっとこの塔にしまわれ、神融合の大陸のあちこちからやってくるモンスター達からここを守る拠点にしていたのだろう。



 つまりモンスターが近づいてこなければ、魔力はチャージされるという訳だ。

 その結果。


「みなぎるぞおおおおおおおおお」


 

 ウィラクス賢者の全身が燃え盛るような魔力で溢れかえっていた。

 

「これなら大賢者の領域にいつでもなれるぞ」



 ウィラクスにとって大賢者になるというのはとても難しい事だったりする。

 魔王討伐の時も大賢者モードにはなれたが、数分しかなれなかった魔法でもある。


 

 そしてウィラクス賢者は大賢者モードで少しでも長くいる事が夢そのものでもあった。


「あら、とてつもなくお強くなったようですね」


「そうだな、お前の運命はどこに向かっているのだろうな」


 大賢者のジャック・オ・ランタンは右手に鋭利で長大な魔法の剣を出現させた。

 左手には長大で大砲のようなものを構えた。


 大砲から発射される玉はエネルギーが圧縮されたものであった。

 それを無限の魔女は容易くガードしてしまうが、その衝撃にどうやら面食らったようだ。


 無限の魔女は森の方角に吹き飛ばされる。木々を倒していく中、瞬間魔法により、無限の魔女の真上に飛来する。超大で鋭利な魔法の剣で無限の魔女の心臓を突き刺した。



「ぐああああああああああああ」


  

 無限の魔女の悲鳴が響く中。

 


「少し我慢しろ」


 運命という魔法はそう簡単には発動させる事も解除させる事も出来ない。

 無限の魔女である彼女はきっと相当できる賢者級の奴に運命を捻じ曲げられたのだろう。



 運命とは恐ろしい物で、モンスターを全て倒すと運命付けられたら。いくら降参してくるモンスターがいても倒す事しかしない。


 戦争で降参を認めぬとか、捕虜を獲らぬとか、王家を皆殺しにするとか。一度操作されれば、恐ろしい事になる。年齢は低ければ低いほどかけやすい、勇者ゲンセイのような奴ならかける事は不可能だろう。



 あいつには恐ろしいほどに信念があるからだ。



「わしはお主に運命解除魔法を発動させている。お前も自分で運命を決めると考えてくれ」


 恐ろしい悲鳴を上げながら、ごくりと無限の魔女は頷いてくれた。

 それから30分が経過した頃だろうか、魔法の剣が無限の魔女に突き刺さっている中、彼女は悲鳴を上げなかった。

 痛みが無くなってきたという事は、彼女にかけられた運命を解除する事に成功したのだろう。



 ウィラクス賢者はゆっくりと鋭利で長大な魔法の剣を抜いた。


 すると無限の魔女はこちらを見てにこりと微笑んでくれた。

 彼女はゆっくりと立ち上がると、右手を差し出してくれた。


 ウィラクス賢者はジャック・オ・ランタンの右手を差し出し、2人は握りしめ合った。

 2人はウィラクス賢者の弟子が待っているであろう城壁の方へと向かった。


「助かったわ、色々とね、それにしてもあなた本当にウィラクス君なの?」


「そうじゃよ、わし達が出会ったのは50年前くらいじゃし、なぜにお主はそんなに若いのじゃ?」


 無限の魔女は姿形を変える事が出来る。

 しかし今の顔が本物だと思っているのは子供の頃に見た無限の魔女そのものだからだ。

 子供だったあの子が大人に成長した姿がこれだとしたら。


「あたしはすごい長い時間を冷凍睡眠させられていた。数か月前に目覚めたのよ、その時にあなたが有名な賢者になっており、反逆罪で処刑された事を知ったわ」


「なるほどな、他にも冷凍睡眠させられていた奴等はいたのか?」


「さぁ、それは分からないわ、でも沢山の冷凍睡眠させる機械が設置させられていた。機械というのは鉄みたいな奴で」

「うむ、わしも機械は知っているぞ」


「さすがは大賢者様ね」


「大賢者モードは何回も出来る物ではないのだよ、だから、今は賢者だよ」


「なるほど、そういう事だったら、あなたは賢者ね」



 カボチャ姿になってしまった幼馴染を労わる事もせず、言いたい放題の無限の魔女に対して、ウィラクス賢者は懐かしさを思いだしていた。


 2人は城壁に辿り着くと、ラークサがこちらを見て手を振っていた。

 かくしてS級冒険者であるラークサとウィラクス賢者と無限の魔女は合流する事になったのだ。


「それでなぜ敵がこちらにいるのだ? ウィラクス師匠よ」

「彼女は運命という魔法により操作されていたと言えば分かるか?」

「運命魔法は存在しないと言われているのだが? 師匠よ」

「それは今の話であり昔ではない、昔の賢者が見出していてもおかしくはないであろう?」

「なるほど、師匠がそう言うならそうなのだろう、では名前はなんというのだ?」



 無限の魔女は困った顔をしていた。



「生まれた時に無限の魔女だと分かれば名前は付けられない、だから無限の魔女でいいんだよ」

「ウィラクス賢者がそう言うならそうなのだろう、では無限の賢者よ、これからもよろしく頼むぞ」


「はい、あなたは」

「S級冒険者のラークサだ。色々と迷惑をかける。このメンバーの中では一番に弱いと思うのでな」


「そんな事はないわ、魔法剣士という職業は珍しいわよ」

「そ、その顔は」


 無限の魔女は顔の形を変えて見せた。

 どうやらその顔がラークサとは知り合いだったのだろう。


「名無し殿であったか、これは失礼した」

「ごめんなさい、貴方の事を思い出すのに時間がかかってしまったみたい、すごい長い間眠っていて、記憶が遥か昔のと現在のが混ざって疲れた事になっているの」


「それは仕方ないですな、して、ウィラクス賢者よ次に向かう場所は」


「仲間との合流だ」


「それはつまり」


「そうだ、伝説の最強者【エンペラー】達だよ」




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