第25話 無限の魔女

 冒険者と兵士の数はざっと数百名であった。

 ジャック・オ・ランタンのウィラクス賢者は敵の拠点から出てくる。冒険者と兵士を【雷の嵐】で次から次へと吹き飛ばして行った。

 弟子となったラークサはウィラクス賢者の魔法から逃げ延びこちらに突撃してくる奴等を倒していった。



 ウィラクス賢者はラークサの容赦のなさに驚きを隠せなかった。

 なぜなら先程まで同じ釜の飯を食っていた連中なのに、夢の賢者の弟子となると、同じ釜の飯の仲間でも殺しているのだから。



 まぁ色々と理由があるのだろう。

 

 先程から砦に向かって【雷の嵐】を発動させ続けている。

 冒険者と兵士達は殆どが動けなくなっているはずであった。

 しかし砦自体が崩壊する事はなく、中に相当に強い魔法使いがいると思われた。


 強い魔法使いが結界を張って、ひたすら【雷の嵐】を防御し続けているようだ。


 ウィラクス賢者とラークサは砦から冒険者と兵士が出てこないのを確かめると。

 ゆっくりとその扉を開いた。

 中には沢山の怪我人がいた。

 ウィラクス賢者とラークサは問答無用とばかりに止めを刺して行った。


 冒険者達はラークサを見ていた。


「姉さん、どういう事ですか」


 右腕が潰れているけど必死でラークサを見ていた1人の冒険者。



「あなた達は私の事を馬鹿にしていた。ウィラクス賢者は無実なんかじゃないと、だけど、彼こそがウィラクス賢者なのよ」



 ラークサが断言すると。その場にいた冒険者と兵士達は絶句している。

 きっと彼等はこんなカボチャがなぜだと心の中で悲鳴を上げているのだろう。



「では死ね」


 

 ウィラクス賢者は問答無用とばかりに雷魔法で敵を消し炭にしてしまった。

 あらかた殺し終えると、ウィラクス賢者は医務室の扉をゆっくりと開いた。

 そこには1人のローブを身に纏った女性がいた。

 そいつはこちらをじっと見つめている。



 ウィラクス賢者は彼女をどこかで見た事があると思った。

 彼女はこちらを見ると、顔の形を変え始めた。

 それはラークサ自身も驚愕であったようで。



「あたしは無限の魔女よ、伝説は聞いた事があるかしら?」


 ウィラクスの脳裏に色々な景色が見えてきた。

 彼が少年であった時、1人の少女に恋をした。彼女は無限の魔力を秘めていた。

 顔の形や体の形を変える事が出来たり、魔法の威力を遥かに上げる事が出来たり。

 沢山の魔法使いの希望の的であった。



 しかしある時それを狙った人間達が彼女を捕まえて、どこかに隠してしまった。


「ウィラクス、久しぶりね、残念だけどあなたの仲間にはなれないの、あたしは人間の未来の為に戦うように運命を捻じ曲げられたのよ、いくら無限の魔女でも運命には逆らえないの」



 無限の魔女はこちらを見て涙を流している。

 恐らく運命をいじられたのは本当だろう、彼女の名前を思いだす事は出来ない。



「ラークサよ少し離れておれ」

「はい師匠」



 ラークサは猛スピードで師匠であるウィラクス賢者の邪魔にならないように、遠くに走り去って行った。

 気配で城壁の向こう側にまで逃げてくれたようだ。

 彼女はどうやら彼女自身の力をちゃんと理解しているようだ。

 だから無限の魔女と聞いたら即座に判断したのだろう。

 ラークサでは手に負えないと。



 無限の魔女は血の涙を流しながら。両手から竜巻の魔法を発動させた。

 一瞬にして拠点は竜巻のエネルギーにより崩壊を辿った。

 拠点の後ろにある塔だけは破壊されず、そこからウィラクスの心臓があるという感じがした。



 今のウィラクス賢者の姿はジャック・オ・ランタンというモンスターの姿である。

 そのカボチャ頭の黒い眼窩には赤い炎がめらめらと燃え盛り。

 体自体を鋼鉄にさせる魔法を発動させ、竜巻の魔法でも吹き飛ばされる事は無かった。


 それから、炎、氷、土、風、鉄、嵐、爆発、重力、ありとあらゆる魔法をジャック・オ・

ランタンと無限の魔女はぶつかり合わせた。

 その度に辺りの地形は変わり果て、近くにある森も吹き飛ばされていく。

 そこに居たであろうモンスター達は鳴き声を上げながら逃げて行く。


 ここが神融合の大陸という事を忘れさせてしまうかのようでもあった。



 そこに拠点があったはずであった。

 かつては大勢の冒険者達がいて兵士達もいた。

 彼等は死体を残さず粉々になった。

 彼等の故郷は滅び去っている。

 彼等を覚えている人はとても少ないだろう。



 ジャック・オ・ランタンに転生したウィラクス賢者は人生で初めてこの戦いが楽しいと思った。


 衣服はぼろぼろになりながらも、魂の体が見えていたとしても。

 ウィラクス賢者は右手と左手を構える。



 無限の魔女のローブがぼろぼろになりながらも、下着がうっすらと見えていたとしても、彼女は微動だにしない、それが運命を操られているという事なのだろう。



 実は魔法をぶつけ合いながら、少しずつ少しずつウィラクス賢者は無傷の塔に近づいていた。

 無限の魔女はどうやらその塔に何がしまわれているか知らないようだ。

 もしかしたら知っているが、運命として関わっていないのかもしれない。


 魔法を炸裂させながら、ウィラクス賢者はわざと攻撃を食らった。

 その攻撃だけでも尋常じゃないくらいの激痛を感じさせるが、後ろに吹き飛ばされている中、窓から塔に侵入する事に成功した。



 無限の魔女はひたすら塔に向かって魔法を炸裂させるも、不思議なバリアで防がれる。

 恐らくその仕組みも理解しているのだろうけど、運命とやらを操作されているから、そこに干渉する事が出来ないのだろう。



 こんなめんどくさい運命を操作する魔法使いに心辺りがあるか、考えてみたが、今は心臓を取り戻す事に集中した。


 階段を駆け上がり、その部屋に到着すると、バリケードや檻を魔法で破壊する。

 次に宝箱を開けると。そこにはハートの形をした心臓が置いてあった。



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