第24話 S級冒険者の憧れ
その拠点にある建物には沢山の呪文が彫られていた。
ここには賢者と呼ばれたウィラクスの心臓が封印されている。
門の外を般若の形相で立っている女性がいる。
彼女は知恵の王国出身であり先程知恵の王国が滅びた事を呪文の祝詞で伝えられた。
その時彼女は涙の絶叫を上げた。
敵は正体不明のカボチャだという報告、女性の故郷がカボチャに滅ぼされるというありえない現実を受け入れられなかった。
だから沢山の鳥型使い魔を使役してカボチャ頭を探した。
するとカボチャ頭がなぜかここに向かっている事が判明した。
彼女の名前はラークサでS級冒険者でありレベルが80もある。
魔法剣士と呼ばれる職業についており、憧れの人はウィラクス賢者であった。
ラークサはウィラクス賢者が処刑された事が信じられず、数か月は嗚咽を洩らし続けた。
立ち直った彼女は最強の魔法使いになる為に修行した。その結果なぜか魔法剣士になってしまったという事だ。
「ふ、来たな」
カボチャ頭が到達する。
彼の奥の瞳は燃える炎のように輝いている。
そうカボチャとは賢者ウィラクスの事であった。
ラークサはウィラクスを尊敬している。
しかしラークサはカボチャ頭の事をウィラクスだとは思っていない。
そしてウィラクスは目の前にいる敵が人間だから滅ぼす必要があると思っている。
しかし彼女こそがウィラクスの無実を信じ続けた女性であった。
「ふぉふぉ、若い女子か、たった1人でこのわしを防げると思うてか?」
「カボチャなんて1人で十分よ」
「カボチャじゃなくてジャック・オ・ランタンだがのう」
「どっちにしろ同じじゃない」
「結構意味が違ってくるがのう」
ジャック・オ・ランタンの後ろには鬱蒼と闇のように茂っている森がある。
空は太陽が光輝き、なぜか先程7つの星がら落下した。
あの星は少しだけ特別な意味のある星であった。
それが落下するのは不潔だと思ったのだが、自分達がその不潔になっているのだから、不潔で結構であった。
ウィラクスは右手と左手をかざすと、太陽の光に輝いた空に向ける。
【太陽の嵐】
辺りが太陽の光に包まれた。
ラークサは平気そうな顔をしながら仁王立ちをしている。
さらに腕組みをしている。
空から太陽の嵐が落下して来る。
ラークサは一応美女なのだが、ふんと鼻息荒くするだけで、太陽の嵐は消滅した。
沢山の人々の歓声が響き渡った。
どうやら拠点となっている所は城壁の向こうにあるようだ。
確かにそこから心臓のような鼓動を感じる。
ウィラクスの感覚がそちらにある心臓を求めていた。
「なるほどのう、お主最強美女だのう」
「うるさい、カボチャ爺、あんた名前はなんなの、教えなさい」
「人に名前を尋ねる時は相手の名前を尋ねなさい」
「だから尋ねているでしょ」
「ふぉふぉ、1本取られたわい」
「勝手に1本取られたんじゃない」
「わしは賢者ウィラクスじゃ」
その時ラークサの頭に見えない雷が落ちたかのような衝撃が走った。
ぐらりとそこに倒れそうになる。
太陽の嵐よりその名乗りの方が攻撃力は半端ではなかった。
「う、うそおおおおん、確かにしゃべり方がそっくりだし、でもなんでカボチャ? なぜにカボチャ?」
「もしかしてお主はわしの事を知っておるのか」
「だって人生の憧れですもの、ウィラクスさんの歯ブラシも盗んだし、ウィラクスさんのパンツも盗んだ。ウィラクスさんのトイレを掃除したし、ウィラクスさんのお風呂に乱入した」
「ふむ、お主変態か? じゃが記憶にある限りお風呂に乱入したのはあの女の子ってあんたかい、べっぴんになったのう、胸なんかぼんきゅぼんじゃないかい、あ、それとトイレ掃除ありがとな」
「いやん」
ジャック・オ・ランタンとラークサが会話に夢中になっている間に、ラークサの仲間達は動き出した。
いわく姐さんは何かの魔法で骨抜きにされた。
いわく姐さんはカボチャに惚れてしまった。
色々な説が上げられるが、拠点を守る兵士や冒険者達が動き出している。
そして彼等は弓矢に炎の魔法を付与すると、解き放つ。
彼等は遠距離武器の達人でもあり、エンチャント魔法の達人でもあった。
赤い塊がメラメラと燃え盛り、ほぼ全ての弓矢がカボチャ頭にヒットするはずであった。
しかしジャック・オ・ランタンは遥か空に浮かんでいた。
それはテレポート魔法であった。
ジャック・オ・ランタンは腕にラークサを抱ええると、ラークサに魔法をかけるとそのまま雲の上まで到達する。
ここなら誰にも邪魔されないとジャック・オ・ランタンが判断した。
「ウィラクス賢者はなぜ蘇ったのですか? やはり飢饉を起こしたのは捏造ですね?」
「その通りじゃ、わしら7人は罪を捏造されて処刑されていった。そして今宵に全ての仲間達が立ち上がり、人間は滅ぶべしと動き出した。その時に7つの王国は滅びておるのじゃ」
「そうですか、ウィラクス賢者様に逆らった罪ですわ」
「わしはお主も滅ぼすかで迷っている」
「それはなぜですか」
「わしは全ての人間を滅ぼすからだ。もちろん数名は生かすつもりじゃ」
「それなら」
「じゃが、お主は強すぎる、だから滅ぼすのではなく後継者にしたい」
ウィラクス賢者の発言で、ラークサの顔は真っ赤に火照った。
夢にまで見た賢者の後継者に慣れる事に、ラークサは希望の光を見つけたような顔をしている。
「さて」
「賢者様の後継者になります、どれほど辛い修行でも耐えて見せます」
「よろしい、まずはあそこの拠点を滅ぼす。全てを滅ぼす手伝いをしろ」
「はいですわ、あそこにいるのは姐さんであると私の事を勝手に妄想している男達ですから」
「そうか、お主も大変じゃのう」
「いえ、賢者様に認められる為に生きてまいりました。これも運命でしょう」
「そうかいのう、では行くぞ」
2人の体を包む浮遊魔法が解除された。
2人は落下を始める。体がふわりと浮かび上る感覚を伴いながら、次の瞬間には地面に着地していた。
周りの兵士達は唖然とこちらを見ている。
着地の瞬間、一瞬だけ浮遊させる事で、衝撃を和らげる事に成功した。
しかも場所は城壁ではなくて拠点の真ん中。
「賢者に城壁など無意味じゃ、ふぉふぉふぉ」
「昨日の味方は今日は敵なのよ、うっふっふ」
賢者と魔法剣士が暴走を始める。
2人は人間を滅ぼせるのか。
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