第28話 無敵の酔っ払い
「あなたは何者なのですか、今のおいらの姿はジャイアントですよ」
「ふぉふぉ、それすら分からずして何が武闘家だ。武闘家とは拳と拳で分かりあるものだろう?」
「そうですね、あなたはおいらの武術を見てドッデムだと知りえた。しかし神話級拳法をなぜ知っているのですか」
「それはその書を見た事がある。この世界には神話級の武術は幾多も存在する。お主が拳法なら、わしは神話級酔拳じゃて、拳法は体を使っての武術となるがわしの酔拳は体を使うのとお酒を使うという事じゃ」
「なら、尋常に勝負といこうかのう、それにここに残っているのは既にわしだけのようだしな」
武神ドッデムは辺りを見回した。
そこには死体だらけであり、誰も生きていない事を悟った。
「老人、名前をお聞きしたい」
「わしはゴッド・ゴッドじゃて」
「ではいざ、勝負」
「ふぉいふぉい」
老人が地面を跳躍したのが武闘家同士のバトルの開始だった。
その地面は爆発したかのように、クレーターが出来ている。
それに巻き込まれる死体達が邪魔だと思いつつ、老人は空中で回転しながら、裏拳をぶつけてくる。
ドッデムは左手全部を使って老人を包み込み握りつぶそうとした。
しかしその裏拳を受けた手が弾き飛ばされた。
体がそれを追いかけるように吹き飛んだ。
ごろごろと転がりながら、武神ドッデムは恐怖ではなく、心の中から祝福した。
武神となったのはこの世界に武術で最強は自分だけだと思ったからだ。
しかしこの世界にはどうやら他にも最強がいたのだ。
しかもその最強と渡り合う事が出来るドッデムはとても幸せ者だと感じる。
死んでも殺しても最高な瞬間なのだ。
「どうしたどうした。それくらいでは酔いは冷めぬぞ、ふぁふぁふぁ」
次から次へと繰り出される神話級酔拳にドッデムの体に傷が増えて行く。
しかし岩の体は確かに丈夫ではあるが、次から次へとヒビが増えていた。
ドッデムは全身から汗を垂れ流し、攻撃を仕掛けるタイミングを掴めない。
酔拳の攻撃はどこから来るか予測不可能な所だ。拳そのものだと思ったら、そのまま裏拳になったり、裏拳だと思ったら頭突きやまたは蹴りだったり、ぐねぐねと動き回るその攻撃力に恐ろしさを感じながら。
ドッデムは深呼吸を始める。
両目を閉じると、ゆっくりと肺から呼吸をする。
ここにはドッデムの心臓がある。
その鼓動を辿る。そこに到達さえすれば。
そう気付いた時、ドッデムの心臓は後ろの塔にある事が分かる。
てっきり櫓などを統制する連絡の塔だと思っていた。
酔っ払いは現在燃料が切れたのか2本目のお酒を飲み干していた。
ドッデムは後ろに向かって走り出し、すぐに塔を破壊する。
そこには人間サイズくらいの心臓があり。
「どうした。ヒック、逃げるのか、ヒック、武闘家が背中を見せては……」
その発言を無視して、宝箱を破壊する。そこから出て着たのは小さなハートの形をした心臓であった。
それが体に吸収されると、心臓自体も大きくなってくれたようだ。
それは多き心拍数で感じる事が出来る。
次の瞬間に【無の境地】が発動していた。
心臓が味わってきたのはずっと何もない所で静かに黙り続けていた事だ。
だからと言って、心臓が話す訳ではない、心臓はひたすらそこで月日を経過させ続けていたのだ。
無とは何も考えない事、無とは全てを受け入れる事。
そして無とは空気の流れに身を任せる事。
「さっきと気の感覚が変わり負ったわい、ふぉふぉ、これでこそ武神なり」
ドッデムはゆっくりと振り返った。
その瞳から発せられる狂気の瞳に、どうやらゴッド・ゴッドはこちらに危険を感じたのか後ろに思いっきり下がった。
「どうした。自分が強いと思うのだろう?」
「どうした? それだけか? 逃げるのか?」
「どうしたんだ。おい、どうしたんだよ」
「殺してあげよう」
それはドッデムの独り言のようだった。
ひたすら呟き、ぼそぼそと呟き、そこには何もないのだ。
無そのものだ。
ドッデムは無に取り込まれそうになっている。
ぎりぎり一歩のところで自我を取り戻し、無の境地の自我の境地を行き来しながら、彼は動き出した。
右の拳がゴッド・ゴッドの拳をかすめる。
老人の武闘家は笑い声を上げて避けているつもりらしい。
次から次から来る拳、それは単調な攻撃方法ではあるが、神話級拳法を発動させている為にとても重たい拳となっている。
それに対しても老人は避け続けている。
だが空気が張りつめて少し緩くなった時に老人の体から鮮血がほとばしった。
ドッデムの攻撃は全てかすっていたのだ。
多量のかすり傷は致命傷になるという事だ。
「かはぁ」
ゴッド・ゴッド老人は口から血を吐き出していた。
ドッデムの拳は衝撃波となっており、かすめる事で内臓に衝撃を飛ばしていた。
それは本当に微量な物でありながら、少しずつ内臓を痛めつけていた。
老人の全身から血が噴き出る中、彼は親指で鼻をこすった。
「お主に最高な技を見せよう」
老人は次から次へとお酒をがぶ飲みしだした。
全てのヒョウタンに入っているお酒を飲み干すと、老人はぐらりと揺れている。
相当に酔っぱらっているのだろう、もはや白目をむいているくらいだ。
彼は地面を跳躍して見せる。無数の拳が衝撃波を作り出す。
それはまるで千手観音のように無数に飛来する拳であった。
全身の岩の体が砕かれる音を響かせながら、後ろに吹き飛ばされなかった。
両足で思いっきり押さえつけ、胸から大量の血しぶきが上がる中でドッデムは目を大きく開き。
終わる事のない千手観音拳を受け続けた。
そしてようやく老人の動きが止まってきた。
老人は後ろに尻餅をつくと、こちらをずっと見ながら、死んでいた。
石像のようにひたすら防御に専念したドッデムの体はボロボロであった。
全身から血が噴き出る中、岩の皮膚がまるでひび割れて行くようにボロボロになっている中でも。
彼は立ち続け、1人の老人の無限拳を受け続けたのだ。
拳に魂を込めていたのだろう、ゴッド・ゴッド老人は最後の拳を打ち込むと、眼を開けたまま死んでいたのだ。
ドッデムは申し訳の無い気持ちで、あたりを見回した。
人間は一人残らず殺し、分かり合えたであろう老人は勝手に死んだ。
赤い髪の毛と青い髪の毛の親友は消えてなくなり、ドッデムは心臓を取り返す事が出来た。
ドッデムは戦乱の場所からゆっくりと集合場所に移動を始めた。
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