第18話 ゲンセイとジンセイ
ゲンセイは弟とはいつも張り合っていた。
どちらが強くなるか、どちらがモテるかなどでだ。
いつもジンセイが勝利していた。
その度にコンプレックスの塊となりはてようとしていたゲンセイは勇者になる事が出来た。
ジンセイは勇者になる事は出来なかったが、灼熱の騎士団を設立した。
2人の道は違えど人々の幸せの為に戦うと言うのはどちらも変わらなかった。
しかしゲンセイは闇に堕ちた。
ジンセイはそんな兄を見ていて不思議に思ったように口を開いた。
「俺さ、兄貴の気持ちがすげー分かるんだよ、凄い頑張って認められたと思ったらぽいって捨てられる。そんな気持ちすげー分かるからさ、俺の気持も分かるだろ」
灼熱の騎士団の団長は歯ぎしりをしている。
やらねばならず、殺さねばならない。
いくら肉親であろうとも、弟であろうとも。
その手で殺す必要がある。
「ああ、分かっているさ、今日で兄弟の縁を切る。俺様とお前の命がけのバトルだ。俺様は人間種の滅亡を、ジンセイは人類の為に、だが油断はするな、油断をすると俺様の様になるぞ」
「ああ、俺は兄貴のように信じ込まないタイプでね」
「それは失礼した」
デュラハンはゆっくりと銀色の剣を鞘から引き抜いた。
灼熱の騎士団団長は右手と左手にごく普通の鋼の剣を装備すると。
右足と左足を噴射させた。ジェット噴射された炎は団長をデュラハンの元へと運び出す。
デュラハンが走りながら指の動きで、首無し死体に指示を下す。
首無し死体はその目に入る街に向かって突撃を始める。
それを見ていたであろう人々は悲鳴を上げる。
デュラハンは1人の兄としてではなく1人のゲンセイとして目の前の敵と向かい合う。
赤髪の団長は1人の弟としてではなく1人のジンセイとして目の前の敵と向かい合う。
鋼の剣と銀の剣が炸裂する。
両足を空中に浮かしながら、両足から炎をジェット噴射させている。
2本の鋼の剣でバシンと威圧的な音で叩きつけると、1回転する。
その時に顔面に炎のジェット噴射を食らうと。
デュラハンの頭がことりと落下する。
そして頭がふわふわと浮き上がり、城門の遥か上に到達。
これはデュラハンの司令塔となり。
「兄貴はいつもトリッキーだけどさ、首がないって相当だぞ」
「ふん、それはお前もだろう、両足から炎魔法を噴射って聞いた事ねーぞ」
「全てはネタバレ出来ないが、足だけではないさ」
「それはそれは見せてもらいましょう」
デュラハンの攻撃は苛烈を極めた。
一気に攻め上げるように銀の剣を振り回す。
それを体のあちこちから炎をジェット噴射させて避け続けているのが赤髪の団長であった。
彼の力はどうやら神経の塊があるツボの部分から炎を噴射させる事が出来る。
至る所から予測不能の炎の噴射。
デュラハンは弟がこれほどまでに強くなっている事に人生の楽しみを見つけ出した。
体が右から左に吹き飛ばされる。
何回も回転しながら、銀の剣を振り落とす。
なんとかバランスを取ると立ち上がる。
沢山の灼熱の騎士団達が3000体であった首無し死体達を倒しつくしている。
最初は2000体くらいであった。しかし海岸に向かっている時に数は増えて行った。
近くに沢山の村があったから、村を襲撃したからだった。
デュラハンはいつしか人殺しが面白くなってきていた。
心のどこかで誰かが自分を助けてくれる。
誰かがデュラハンを殺してくれる。
そうデュラハンは願うようになっていた。
ゆっくりと立ち上がるデュラハン。
だが全てを思いだす。怒りが複雑に絡み合う。
「あの屈辱を、あの怒りを忘れる事が出来ない、人間達が憎い、自分達さえよければ、うおおおおおおおおおおおおおお」
デュラハンは大きな咆哮を発していた。
それは空気を振動させるようなものであった。
体がぶるぶると回転しながら奮い立つのだ。
今こそ立ち上がれと沢山の憎悪達から頼まれている。
こんな所で負けてどうする。
「うふふ、あなたがそう決めるのは分かっていたわ」
それは突如発せられた声。
それはテイルであった。
テイルは妖艶な笑みを浮かべる。
彼女は指を動かした。
それはデュラハンが死体を動かすように。
すると死体が100体程デュラハンの元に向かって行く。
灼熱の騎士団のメンバー達は突如逃走した首無し死体に驚きを隠せないようだ。
デュラハンはぶるぶると怒り狂い。赤髪の団長は止めとばかりに空中でジェット噴射する。
回転しながら、そのまま鋼の剣を振り落とす。
そこに死体が群れてやってくる。
赤髪の団長は死体に弾き飛ばされると、空をジェット噴射しながら整える。
地面に炎を調整しながら降りる。
その時に両腕から炎噴射をさせてバランスを取る。
その光景はほぼ地獄であった。
デュラハンの鎧に首無し死体がゼリー状体になって吸い込まれている事だった。
デュラハンの肉体がどこにあるのか、鎧の中に肉体はあるのか?
彼自身疑問だらけであった。
今分かる事。それはデュラハンとは沢山の魂の塊だという事。
そこに沢山の肉体が入れば。それは栄養となり、そこに出来上がるのは。
全身の鎧の形が変形した。
白銀の鎧からダイヤモンドのようになっている。
ダイヤモンドとは高級な宝石とされている。
この世界では数が限りないとされている。
トゲトゲしい鎧の形になり、大きさもさらに巨躯になっている。
怒りがさらに増幅される。
こんな所で負けていられるかという怒りが増幅してくる。
気付いた時には、地面を蹴り落としていた。
そこだけに地震が起こり。
赤髪の団長は後ろにのけぞった。
一瞬で両断していた。
それは一瞬で近づいた。
まるでテレポートのように消えたと思ったら、赤髪の団長の胸を斜めに両断していた。
赤髪の団長は口から大量に血を吐いた。
「いやあああああああああああ」
その悲鳴は唐突にやってきた。
そこにきた可愛らしい少女は沢山の魔法と治療補法で弟を助けようとしている。
止めを刺そうと思った。
だがあの傷ならしばらくは余計な事をしないだろう。
「やはりどこに行っても俺様は甘ちゃんだ」
弟と縁を切ったはずだった。
それでも殺しきれなかった。
灼熱の騎士団が次から次へと団長の元によってくる。
人に愛されたなジンセイよ。
心で思い、気付けば全ての首無し死体は駆逐されている。
あの30名足らずの灼熱の騎士団は相当腕が立つのだろう。
デュラハンは1人でも恨みを晴らしたいが。
不意打ちなら滅ぼす事が出来た勇気の国でも、沢山の国から集まったエリートたちがいる町はそう簡単には滅ぼせない。
デュラハンはそう確信し、森の方角に歩いて行った。
そこに首無し馬のグリーとテイルがやってくる。
「なんだろう呼ばれている。そんな気がするんだ」
「なら、あんたの向かうように行きましょう、ゲンセイ」
「ぶるるる」
グリーは首はないが体はあるので怖いという意思表示なのだろう。
デュラハンであるゲンセイは不思議と仲間を探していた。
あの町を破壊したい。そこに何かがある気がするから。怒りが増幅してくる。
その時眼の前をカボチャが歩いていた。
ゲンセイはぷっと笑い出した。
「なんじゃい、誰かと思ったら勇者かいな」
「あなたもカボチャに生まれ変わったようですね、賢者」
「わっはっは、カボチャもわるかないぞ、さて他の奴等も集まって来るじゃろう、歩きながらじゃ」
「うむ、やはり生き返っていたか、爺はジャック・オ・ランタンか、次は誰かな」
仲間達が集まり始めていた。
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