第16話 紅、翠、蒼
人間達に今までの報いを受けさせる為に巨大なトレント達がのっそりと歩く。
2本の巨大なトレントの真ん中には1対の小さなトレントがいる。
それでもそのトレントは人間のような形をしているし、小さな口もある。
皮膚はしわしわの大樹の肌であった。
最初は普通の木々であった。
1本の木々がトレントに転生した時、トレントの中に入った魂がコックであったただそれだけなのだ。
しかしコックの魂はとてつもなく濁っていた。
それは怒りと憎しみに満ち溢れていた。「
力は力を呼び、沢山の【山々の王国】の民に復讐を果たす事になったコックトレント。
なぜか懐かしき忘れ形見を見たが、それでも心が痛くはならなかった。
(もっと殺してしまえ、沢山殺してしまえ)
元コックであったナタリアと呼ばれた優しい美女はいなかった。
一方で城のベランダからトレント達を見下している王族たちがいた。
山々の王国では沢山の王族がいるとされる。
派閥が3つ存在しており、紅王族と、翠王族と、蒼王族に分かれた3つの派閥は敵がすぐ側までやってきているというのに、代表の3王家はベランダで議論を続けていた。
山々の王国では王様が3人いるというのが決まりだ。
3人とも老齢のお爺さんでありながら、上手く指示を下していた。
しかしある一報が届いた時、紅王族が断末摩の叫び声を上げた。
「あやつめ勇者の弟だから使えそうだと思っていたのに、灼熱の騎士団が逃げおったわい」
「ですが紅よ、これは非常にまずいのではないのかな? 沢山の民が城を占拠しておる。王族としての道を示さねば」
「じゃのう翠よ、そなたは緑地を大切にするとよく言っていたな」
「紅が炎で毎回燃やすからなかなか大切に出来ませんがな、わっはっは」
「お主達は自分の状況が分かっているのか?」
とてつもなく冷静に囁いて見せたのは、1人の老人であった。
頭の上には蒼い冠が載っていた。
「何を言う、こちらの勝利は決まっているような物なのじゃ、蒼よ、そなたはバカなのか?」
「そうさ、勝利は決まっている。枯草薬を使えば勝利は目前、蒼よ敵がなんだったか覚えているか?」
その時今まで水のように冷静沈着であった蒼が大きな声で叫ぶ。
「お主らはバカなのおか【枯草薬】を使用してこの山々の王国に緑がなくなったら、この国は亡ぶのだぞ、その結果沢山の民は難民として別な国に避難し、王族は全て廃止され、この国は事実上消滅する」
その言葉で紅王と翠王が真っ青になっていた。
どうやら彼等はそこまで考える事に頭が及ばなかったようだ。
「なら、どうすれば」
「もう遅いわうふふ」
城の階段を何かが昇って来る。
沢山の兵士達をその枝で貫いて、斬りかかって来る者を容赦なく抹殺している。
兵士達の断末摩と悲鳴が轟く。
民は拝み、民は悲しみ、民は絶叫する。
「あなた達が悪いのよ、あたくしをこのあたくしを殺した罪が重いのだからね」
「た、助けてくれええええ、お願いだああ、あなたが、あなたが誰か知らないが」
「この世界を救った1人だと教えておいてあげるわ」
「ぐ、ぐるなあああああ」
1人また1人とある者は眼球を貫かれ脳味噌を吸いだされる。
ある者は内臓を引っ張り出され体中が芋虫のようにぶるんぶるんと痙攣する。
そうして彼女は到達した。
本当の恨みの相手、そこに到達するのに全ての民と全ての兵士を犠牲にした。
王族もむごたらしく殺した。
3人の老人はこちらを見ていた。
3人とも武器を引き抜くのではなく松明に光を付けた。
今はまだ空を支配しているのは7つの星々であった。
「きおったな化け物め」
「紅さん久しぶりね、あたくしを覚えてらっしゃる? あなたがいつもあたくしのお尻ばかりを見ていたのを知っているわ」
「翠さんあなたが持ってきてくれた野菜はとても大好きでしたわ」
「蒼さん、こんばんはあなたはいつも冷静沈着で、あたくしを処刑する時もにこりと笑った程度でしたね」
3人の老人は自分達が誰を相手にしているかを理解した。
顔が真っ青になり、ブルブルと震える。
いくら胆力があるとされる3人の王族だが。
今目の前で行われて言える惨劇を目の当たりにすると。
老人達は自分達がこのような状態にやられてしまう事を恐れた。
その結果3人が行った事。
それはベランダから飛び降りて自殺する事。
しかし3人の老人達が空をジャンプした時、3人の心臓を貫いた枝があった。
しかし枝は貫いただけであり鼓動は途絶えていない。
「ぐおあおおおおお」
「だだんぶううう」
「ぎゃああああ」
3人の情けない老人の断末摩はこの世界の果てにまで響いていただろう。
老人達は磔のようにベランダに括り付けられる。
老人達は全裸であった。情けない体を民に見せる。
その民達は全滅している。
事実上この国は滅びた。
コックトレントはゆっくりとゆっくりと王宮の厨房にやってくる。
不思議とそこには沢山の死体やら破壊された物はなく、色々と新鮮な食材があった。
氷魔法が自動で発動する冷凍庫と呼ばれる入れ物には信じられないくらい大量の食材があった。
色々と食材を集める。もちろん冷凍庫も持ち運びが出来る。
それを運びつつ彼女はどことなく空を見上げていた。
3人の老人から詳しい事は聞けなかったが。
心臓を貫いた時に色々と情報を吸いだしていた。
そこにはコックであるナタリアたち7名を生贄に捧げ、新しい大陸を召喚する事があった。
それは無事成功した。そのおかげであれだけの食材を用意出来たのだろう。
まだまだ未知の大陸であり、そこにナタリアは行ってみたいと思った。
きっとそこに探し物があるからと、ナタリアは興味心と新しい食材を探す。
もちろん後ろには無数のトレント達が従ってくる。
彼等は新しい家族なのだから。
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