第11話 リザードマンの壁はドラゴンの壁
至る所で人々の悲鳴が上がる。
皮膚を炎で焼かれのたうち回る。
火傷というのは激痛と言われている。
建物にいた人々は突如崩壊するのに任せて押し潰される。
それでも生き残った人々は炎に焼かれる。
国王の周りにいつしか4人のフードを被った男性が集まってきた。
彼等は精霊騎士団と呼ばれるそれであり、
特殊な精霊と契約を交わした人々であった。
「国王陛下、こちらへ、城へ逃げてください、あそこには転送部屋があります。それで隣国に逃げるのです」
「うむ、そなたらはどうする?」
「力を合わせてあのドラゴンを倒して見せましょう」
「ああ、頼むぞ、わしはよき配下に恵まれた」
国王がそのように呟いていると、後ろから炎に包まれた苦悶のドラゴンが走って来る。
そのスピードはのっそりとしており、本当にゆっくりであった。
「では、いつかお会いしましょう、国王様」
「うむ」
精霊騎士団長と別れをすまし国王は城に行こうとした。
一方でリザードマンからドラゴンに変身したマボロンは飢えた蜥蜴のように走りまくっていた。体中のスタミナが無くなって行く事が分かる。
辺りは炎に包まれている。
その中4人のフードを被った精霊騎士団がやってくる。
ドラゴンが人間であった頃、つまりマボロンで会った時、精霊騎士団に入る事が夢であった。
しかし彼には最強の盾として勇者を守る方が生きる理由を見つけた気がしたのだ。
無壁なんて呼ばれていた時が懐かしい、沢山の人々が無壁マボロンに盾を求めてくれた。
無壁マボロンは命を賭け人々を守った。
それはこの国とて同じだ。
それを唐突な裏切りにより全てを失った。
無壁マボロンは無壁リザードマンになり無壁ドラゴンになったのだから。
体力が限界に達したのであろう、体がみるみるうちに小さくなっていく。
そこには赤い鱗をした無壁リザードマンがいた。
赤のシールドと青のシールドもリザードマンの大きさに合わせて変形した。
「これは面妖な、お主はリザードマンなのか? それともドラゴンなのか?」
「ふん、どっちでもないな、団長様」
「お主こちらの仕組みを理解している。普通のリザードマンではないな」
「名乗らせてもらおう、僕は完璧の盾と呼ばれ、最強の盾とも呼ばれた無壁マボロンだ」
4名の精霊騎士団達は驚愕の視線をこちらに向けてきていた。
「嘘だ、彼は処刑された。心臓を抜かれ新大陸で封印されている」
「なるほど、どうりで胸の中が軽い気がしたんだ。なんでだろう心臓を取り戻すといい事がありそうだね」
「ふざけるな、お前は死んだ。死んだのならあの世で」
「ああ、そうさ、僕は地獄と天界を経験してきた。2つを味わう事はそうそうないだろう? なぁあんたらも精霊騎士団として2つを経験すべきだぞ、今そちらに送ってやる」
「うろたえるな」
団長様が3人の配下がうろたえているのを収めた。
すると団長はナイフを取り出す。
配下の3名のナイフを取り出す。
まるで魔法使いの杖のようであった。
それぞれが絵具のような色合いを示しているナイフ達。
彼等は鞭を叩きつけるかの如く、ナイフを振るった。
4本の雷が炸裂し、それが1つとなる事で莫大な雷精霊魔法が炸裂する。
雷の形が鳥のような形になる。それはサンダーバードと呼ばれる伝説上の鳥であった。
無壁リザードマンは両手の2個のシールドでそれを防いで見せると。
びくともしなかった。後ろに少しも退く事は無かった。
圧倒的な防御力。
それが無壁と呼ばれた男。
「魔力が尽きるまでやれいいいいいい」
「「「はい」」」
多種多様な魔法が炸裂する。電撃、炎、氷、水、風、土、闇、光、数えきれない属性がこちらに向かってくる。無壁リザードマンはそれを全てひたすら防御し続ける。
無壁リザードマンはただ防御している訳ではない。
全神経と体の力加減をコントロールしながら防御している。
そして体に溜められる魔力。
攻撃を受け続けると魔力が上昇してくるように感じる。
魔力はその目で見る事は出来ない。それでもそれは溜まっていると自覚する。
次の瞬間。氷のドラゴンが出現した。
リザードマンの鱗がばりばりと弾ける。
全神経がぐちゃぐちゃになりそうな快楽に浸かりながら。
体がめきめきと成長をしていく。
4人の精霊魔法騎士団達は身動きが取れない。
攻撃魔法に全てを費やした。
そしてリザードマンはさらに強くなる。
防御すればするほど強くなる。
それが無壁リザードマンの所以だった。
氷の息吹を無壁ドラゴンは発した。
4人の精霊魔法騎士団達は絶望の眼差しでドラゴンを見据え。
凍り付いたその時に粉々に砕け散った。
ドラゴンは空を飛翔する。
氷のドラゴンは全身が氷像のようであった。
空を飛翔しながら、風に包まれ、そのまま城に激突する。
そこはどうやら転送とかをする部屋のようで、後もう少しで転送が完了しそうだったのだろう。国王がこちらを見ている。
「こんのおおおお、後もう少しでええええ」
「お前は民の命より自分の命の方が大切なのか?」
「何を言っている。民は王の為にいるのであろう」
「なら聞く、お前は僕の為に死ね」
「なぜだ」
「僕がお前より強いからだ」
「強さは関係ない」
「いや王となるべくものは強くあらねばならない」
「それは昔の」
「だから死ね」
氷のドラゴンは右手の鉤爪で国王の頭を掴んだ。
そしてゆっくりとゆっくりとリンゴを潰すようにぐしゃりと握った。
頭から下の体が頭を失くしてぶっ倒れた。
無壁ドラゴンは頭を握りつぶす時に国王の思いが伝わってきた。
彼は民の為というよりかは自分の為に新大陸を召喚した。
その為に7人の英雄を生贄にしたのだ。
自分の心臓を取り戻す事も考えると、新大陸に行ってみようと思う。
そして人間とは愚かな生き物である事を認識していた。
もちろん愚かでない人間もいるだろう。
これは僕の人間であった頃の思い、これ以上人間に罪を着せるなら。
「全てを燃やし尽くすのみ」
ドラゴンの咆哮とリザードマンの咆哮が混ざった音が響いた。
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