第34話 SS 本当にそれで解決する? 後編

「『千里の道も一歩から』でいいと思うよ」


 突然、僕と先輩は後ろから話し掛けられたから思わず振り向いてしまったけど、そこに立ってたのは店長だった。

「たしかに河合さんが言ってる事は正論だよ。それは自分も常々思っている事でもある。でも、どんな些細な事であっても、そこから始めていって行く行くは大きな流れになればいいんだよ。レジ袋の削減は小さな一歩かもしれないけど、そこから始めてプラスチックの使用量を少しずつ減らしていけばいいんだよ」

「たしかに・・・」

「それに、全てのプラスチックが『悪』ではないのは河合さんや並野君も分かっている筈だよ。例えば、輸血に使われている血液パックは注射針を含めて、全て使い捨てだ。それは感染症を防ぐためなのは誰もが知ってる常識だ。手術に使うメスとかは洗浄・滅菌して再使用しているけど、血液パックを洗浄・滅菌して再使用するとなると、洗浄が大変面倒になるだけでなく、滅菌が非常に難しくなる。基本的にプラスチックは熱に弱い物が多いから、血液パックを滅菌するとなると蒸気滅菌ではなく薬剤での滅菌になるから、そうなったら手間暇以上に扱いが問題になるし、滅菌後の薬剤の残留も問題になる。そう考えたら、使い捨てもやむを得ない。要するに、正しく使って正しく処理すればいいのに、ポイッと道端に捨てていくのが後を絶たないし、ゴミステーションに正しく出したとしてもカラスがゴミ荒らしをして散乱させるとか、カラス以外にも野良犬や野良猫が荒らすこともあるし、日本に持ち込まれたアライグマが野生化してゴミ荒らしをするとか、結局は人間自身の行いが人間を苦しめているのは事実なんだよ。それが巡り巡って地球上の植物や動物だけでなく、人間にも跳ね返ってきているというのを誰もが直視して反省しないといけないと思うんだ。あくまで個人的意見と断っておくけど、マイバッグの使用によるプラスチックゴミの削減は、人間が犯してきた過ちを知る一歩でもあるのさ」


 うーん、さすが店長、言ってる事に説得力がありますねえ。僕も思わず感心してしまったし、それに先輩もウンウンと頷いている。

「・・・レジ袋の有料化以前からレジ袋の使用量そのものは減ってるし、包装用のプラスチックだって減量が進んでる。プラスチックを食べてしまう虫やバクテリアによる処理技術の研究も始まっているけど、さすがに実用化されるのはウン十年も先になりそうだ。でも、以前のように手をこまねいているだけの時代は終わったんだよ。江戸時代のような完全リサイクル社会に戻るのは無理なのかもしれないけど、レジ袋の代表されるプラスチックの使い方は見直されている。使い捨てが当たり前の時代はもう終わったのであり、これからは考えて使う時代なんだよ」


 店長はそれだけ言うと僕と先輩の肩を軽くポンと叩いた。


「さあ、仕事仕事!」


 そう店長は言ってニコッとしながら僕たちの前から去って行った・・・

 さすが店長!大人の貫禄です!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る