SS 先輩の心配事

第33話 SS 本当にそれで解決する? 前編

 僕の爺ちゃんや婆ちゃんが子供の頃、いや、その爺ちゃんたちの親世代には、そんな物は無かったと聞いている。

 そんな物が無くて当たり前。みんな、家から『かご』を持参するのが当然だと考えていたからだ。その籠だって藤や竹といった自然由来の物が使われていた。


 爺ちゃんや婆ちゃんが大人になった頃、つまり、父さんや母さんが子供の頃は、逆にあって当たり前であり、しかもタダが常識の時代だった。爺ちゃんや婆ちゃんのような事をする人を『古臭い』などと陰口を叩くほどだった。

 お客さんへのサービスという事でタダで提供し、しかも宣伝広告を兼ねている。ある程度丈夫で、水を通さない。大量生産できて、しかも単価もそれほど高くないのだから。


 でも、自然界には元々存在しない物で作られている。

 餌と間違えて口にした動物が死んでしまったり、体内から大量に出てきたりして問題になった。化学的に安定していて、それを分解する生物、すなわちバクテリアも植物も基本的に存在しないに等しい。紫外線に長時間暴露されると粉々になるけど分解された訳ではないから、余計に始末が悪くなる。それに、燃やせば有毒の塩素ガスが発生する物もあるし、不完全燃焼すれば、もっと有害なダイオキシンの発生源にも成りうる。


 僕が幼稚園から小学生くらいの頃にかけて、それは無料から有料に変わり始めた。辞退するとスタンプが貰えたり『エコポイント』としてカードに付与されたりする時代になって、それが集まると他の物が貰えたり買い物が出来るようにもなった。それに材質も『燃やしても有毒ガスが発生しません』とか『燃やしてもダイオキシンが発生しません』『トウモロコシ由来の環境に優しい物を使ってます』などという歌い文句の物が主流になった。


 とうとう日本の法律まで変わってしまった。基本的に有料になり、日本人の考え方も『辞退するのは良い事だ』となった。

 貰えて当たり前、使い捨てするのが当たり前というのが『常識』だったのが、嘘のような変わりっぷりだ。


 そう、俗に言う『レジ袋』だ。


 タイソーでも今は無料配布をしていない。希望者には1枚3円とか5円とかの有料で買い物袋を売っているけど、多くのお客さんは、通称『エコバッグ』を持参している。


 そんな土曜日の午後、レジの混雑を僕と先輩は店内から見ていた。


「・・・最近はカラフルでお洒落なエコバッグが増えたね」

 先輩はボソッと言ったけど、それは僕も同感だ。

「タイソーでもエコバッグを売ってるけど、『安かろう悪かろう』というイメージじゃあないからね」

「エコバッグ以外にも、マイカゴを使う人もいるよね」

「そうだねー。婆ちゃんに言わせると『昔に戻った』になるらしいけど、お婆ちゃんが若い頃のマイカゴはプラスチックではなく籐や竹で作られた物が当たり前だったから、今のマイカゴはマイカゴであってマイカゴじゃあないらしい」

「たしかにね」

 先輩はエコバッグを補充しながら言ってるけど、僕も正直に言えば先輩と同感だ。


「・・・でもさあ、ホントにエコバッグを使えば環境問題が解決するのかなあ」


 相変わらず先輩はボソッと言ってるけど、今の先輩のそのセリフは、誰もが心の中で思っているけど筈ですよ。僕も正直、怖くて言えないセリフですからあ。

「・・・プラスチック製のゴミが海洋ゴミとなって環境へ与える影響が問題になってるし、実際、ウミガメがレジ袋を餌だと思って食べて死んだとか、他にもレジ袋とかのシート状のプラスチックが海底に蓄積してヘドロ化してるとかで『プラスチックは悪』というのが世界中の共通認識になりつつあるけど、私たちはプラスチックを手放せない」

「たしかに・・・」

「スーパーでは『地球環境を守るために買い物袋の無償提供を中止しました。買い物袋は持参しましょう』とか盛んに言ってるけど、その一方で、お肉や魚はプラスチック製のトレーで小分けして売ってるし、魚や野菜を運んだり保冷したりする物として発泡スチロールが使われている。ジュースやコーラもペットボトルで売られているのが当たり前。牛乳パックは紙だけど内側をポリエチレンで表面加工する事で液漏れを防いでいるし、ポリエチレンがヒーターで溶けて再溶着する事で糊代わりになって形を保っている。お菓子とかの紙パッケージに描かれている絵に使われている塗料だって、元を辿れば石油に行きつくし、個包装はプラだよ。それにさあ、ファーストフード店だけでなく普通のレストランでもカフェでも、ストローはプラスチックだよ。紙で出すところもあるけど、コストの問題もあってストローはプラスチックで出している所が大半だし、だいたいさあ、『マイストロー』をやってる人は誰もいないよ」

「そうだね・・・」

「うちはネット通販をよく利用してるけど、殆どが段ボールで送られてくる。たしかに段ボールは何十年も昔からリサイクルされているけど、段ボールをテープや糊で貼り付けているから、結局はプラスチックが使われてるし、そのテープや糊は再利用できないから、段ボールそのものはリサイクルでもテープや糊は使い捨てだよ。その段ボール箱の中には商品が壊れないよう緩衝材、いわゆる『プチプチ』が入ってる事が多いけど、プチプチは使い捨て。しかも商品によってはプチプチの方が多い時も珍しくない」

「それはよくある話だね」

「でしょ?言い出したらキリが無い位、プラスチックが使われてるのは誰もが分かってる筈なのに、誰も止めようとしない。レジ袋1枚を使わなかった事による環境負荷の軽減より、洪水の如く使われてるプラスチックをゼロにしていく事をやらないと、地球環境の改善に繋がらないと思うんだけど、この方が極々普通の考えじゃあないの?それとも、私の考えが間違ってるのかなあ・・・」


 先輩は「はーー」とため息をついているけど、たしかに先輩が言ってる事は正論だ。でも、それに対する返答が見付からない。いや、頭の中ではボンヤリと浮かんでるけど、果たしてそれが正しいのか、僕には分からない・・・

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