姉ちゃんの意外な一面

第35話 今日は母の日セカンド(?)

 さすがに日曜日は平和だ。

 最初の難関とも言うべき中間テストは終わった。帰宅部の僕にとって次の難関は期末テストまで無い。

 えっ?

 明日からのコップヌードル卓球大会は?来月の平凡坂高校祭『坂道祭』は平気なのか?

 あー、それはですねえ・・・なるようにしかなりません!


 今は午前7時半。


 父さんも母さんも今日は休みだからノンビリしてるし、普津美ふつみだってパジャマのままソファーに座ってBUTTONボタンをやってる。どうやら普津美がやってるのはアツマチのようだ。かくいう僕も朝ごはんを食べた後はスマホでモンスラをやっている。しかも今日はバイトは休みだ。

 父さんはテレビをノホホンと見てるし、母さんだって今でこそキッチンで食器を洗ってるから忙しいそうだけど、それが終わって洗濯物を干し終わったらBUTTONをやり始めるはずだ。それくらい、今日はノンビリムードが漂っている


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 普津美が突然立ち上がったかと思ったらBUTTONを上に掲げて絶叫している!一体、何があったんだあ!?

「お、お兄ちゃん!こ、これを見て!!」

 普津美が興奮気味にBUTTONを僕に見せたのだが・・・

「はあ!?何で『リュウグウノツカイ』が釣れたんだあ!!」

「でしょ!?わたしも思わず絶叫しちゃいましたあ!」

 た、たしかに僕もリュウグウノツカイを釣り上げた事は無い。本物のリュウグウノツカイは生態が殆ど解明されてなくて、生きてる所に遭遇するのは非常に珍しい魚だし、ゲーム中でもレア魚に分類されていた筈だぞ!


 あれっ?

 でも・・・この場所は・・・


「・・・あのさあ普津美」

「ん?あまりの珍しさにも出ないの?」

「そうじゃあなくてさあ、本物の『リュウグウノツカイ』は深海魚だぞ!それが島の砂浜で釣れるなんておかしいぞ!」

「うーん、きっと砂浜の先は水深が千メートル以上あるんだよ!」

「あのさあ、現実問題として、砂浜というのは遠浅とおあさ、つまり浅い海が広がるところでないと有り得ないんだぞー。砂浜の先の海が千メートルもの深さもあるのはリアリティとしておかしいくないか?」

「お兄ちゃんさあ、ゲームとリアルを同じにしたら開発者に失礼だよー。だいたいさあ、どうして狸が日本語を喋るの??」

「ま、まあ、たしかに本物の狸は日本語どころか人間の言葉を喋る事はあり得ない」

「それにー、モンスラだって同じだよー。地球上のどこに炎を口から吐くドラゴンがいるのか教えてー?魔法ってなーに?」

「そ、そりゃあたしかにそうだけどー、そんな事を考えてたらゲームなんてやってられないぞー」

「だったらー、ゲームはゲーム、リアルはリアルで別の物として考えようよー」

「普津美はこういう所はルーズだよなー」

「ルーズではなく『割り切り』と言って欲しいなあ」


♪ピンポーン♪


 おいおい、いきなり話に割り込むかのような呼び鈴かよ!?


「・・・ちょっとー、正太郎か普津美のどっちかが出てー」

 母さんがキッチンで食器を洗いながら僕と普津美の方を見てる。でも、僕は出たくないなー

「・・・ここは普津美だな」

「はあ!?ここはお兄ちゃんが行くべきでしょ?」

「僕は座ってる。普津美は立っている。それに普津美の方が位置的にモニターに近いから」

「お兄ちゃんは可愛い妹の頼みを聞けないのー?」

「本当なら今日のBUTTONの優先権は僕にある。それを普津美が使っているのをどう説明したらいいのかなあ」

「はいはい、それを言われたらオシマイですね」

 普津美はBUTTONをソファーの上に置いて、そのまま玄関モニターのボタンを押した。


「・・・はーい」

『おはようございまーす!』


 おい!この声はまさか・・・僕の場所からモニターは見えないけど、このアルトの音域の声はしかいない!


 普津美は誰が来たのか気付いて玄関へ歩いていったけど、僕にはどうして、全く想像できない!しかもアポ無し・・・


 普津美が玄関の鍵を開けたら『ガチャリ』とドアが開いた。

 その人物は玄関を入ったところで普津美と何事か喋っていたけど、互いの笑い声が聞こえるという事は緊急事態でも何でもないようだ。

 その人物は靴を脱いだかと思ったら中にズカズカと上がり込んで、開けっ放しのドアのところからリビングに入ってきた。その人物とは・・・姉ちゃんだ。僕はチラッと姉ちゃんを見たけど、それは一瞬で目線は再びモンスラに戻った。

「・・・ったくー、若いモンが揃ってパジャマとは情けないぞー」

「姉ちゃん、年寄りじみた事を言ってて恥ずかしくない?」

「ウム、その指摘は正しい。かくいうボクもショーちゃんに言われてから気付いた」

「相変わらずだねー」

 僕は姉ちゃんと会話してるけど、その会話はここで途切れた。何故なら、姉ちゃんはいつの間にかズカズカとキッチンに行って母さんと話してたからだ。

「・・・達代ちゃーん、おはよー」

「叔母さーん、おはようございますー」

「どうしたのー?こんなに朝早くから」

「ん?今日は母の日セカンドですからー」

「あー、ナルホドねー」

 母さんはそう言うと食器を洗っていた水を止めたけど、その一言で僕も何故姉ちゃんが8時前に我が家へ来たのかピンと来た!


 母の日セカンド・・・今日は5月の第3日曜日。『母の日』の翌週だ。


 たしかに姉ちゃんのお母さんは僕の母さんの姉だけど、もうこの世にはいない。姉ちゃんは形式的には父子家庭であり、姉ちゃんの母親代わりはお婆ちゃん、つまり姉ちゃんのお父さんのお母さん、それと僕の母さんの二人だ。先週は『母の日』という事で恐らくお婆ちゃん孝行の日だったから、今日はもう一人の母親代わりである僕の母さんを訪ねてきたという事か・・・姉ちゃんが我が家に押し掛けてくるのは全然珍しい事ではないけど、前回は正月まで遡らないといけないから、5か月ぶりになる。それまではチョクチョク来てたけど、正月以降は「受験の邪魔になるから」と言って姉ちゃんの方が遠慮していたのだ。

 ただ、当たり前だけど、母さんにもアポ無しだ。もし事前にアポがあれば絶対に母さんが僕や普津美に言ってる筈だから。

「・・・達代ちゃん、朝ご飯は食べたの?」

「食べましたよー」

「それじゃあ、キッチンはおばさんが片付けちゃうから洗濯の方をお願いしてもいいかなあ」

「いいですよー。お昼と晩ご飯はボクがやりますからー」

「あらー、ホントにいいのー?」

「いいですよー。いつも叔母さんには御世話になってますからー」

 姉ちゃんはそう言うとキッチンを出て脱衣室の方へ行った。恐らく洗濯物を干すつもりなんだろうけど、こういう所は女の子だよなあ。うちの学校の生徒は学校での姉ちゃんしか知らないから、これを知ったら絶叫するだろうけど・・・


 おい、ちょっと待て・・・


 さっき、姉ちゃんは『お昼と晩ご飯』を自分がやると言っていた・・・


 という事は、少なくとも夕ご飯の片付けが終わるまでは居座るという事だよなあ。だとすれば・・・

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