第20話 似て非なるもの

 証子しょうこ先輩が持っていた紙、それは・・・今日の昼休みに公示された、平凡坂高校の恒例行事(?)となっている『混合ダブルス卓球選手権』へのエントリー用紙だ!


 明日と明後日、つまり今週の木曜日と金曜日は1学期の中間テストがある。だから金曜日は僕はバイトを入れてない(というか、テストが終わった後にバイトをやろうという気力があるとは思えない!)。たしか先輩も同じ筈だと記憶している。

 だが、それが終わった翌週の月曜日の放課後から、平凡坂高校は一種のお祭り騒ぎになる行事がある。それが伝統(?)の『混合ダブルス卓球選手権』だ。

 えっ?

 明日と明後日が中間テストなのに、その前日に公示はおかしい?学業を疎かにするつもりなのか?

 あー、それはですねえ・・・小説の設定なんだから勘弁して下さーい!!


 要するに、読んで字の如く、『混合ダブルス卓球選手権』は男女のペアで卓球をやるのだが、通常の卓球とルールが異なる点が幾つかある!というより、殆ど卓球のルールが適用されない部分が多すぎる!


 まず1つめ・・・ラケットの代わりに、食べ終わったコップヌードルの容器を使うのだ!


 想像出来るとは思うけど、コップヌードルの空容器の上側を手に持って、底の部分で打ち合うのだ!当たり前だが『手のひらサイズ』いや、手の平よりも小さいから卓球のラケットとは全然が違う。しかも、底面のへりの部分に球が当たると明後日の方向へ飛んでいくことも珍しくない。だから逆に卓球経験者の方が戸惑い易く、これが試合を面白くしている。

 当然の事だが試合中にコップヌードルの容器が壊れてしまったら即失格。ダブルスだから、どちらか一方が壊れてしまったら失格だ。底面ではなく側面を使ってもOKではあるが、側面で打つ時も上側を持ってないとルール違反で失格になるし、手で打ったら失格だ。だいたい、丸くなっているから何処へ飛んでいくか分からないというオチがある。

 コップヌードル以外にも似たような形の容器のカップラーメンやカップうどんは売ってるけど、コップヌードルに限定されている。でも、コップヌードルならシーフードやカレーといった、コップヌードルの姉妹品でもOKである。

 一応、試合中にコッソリ入れ替える事を防ぐ意味で、試合開始前に審判がマジックペンでコップヌードルの容器にチェック印(サイン?)を書き込む事になっているし、試合終了後にはコップヌードルにチェック印がある事を再確認するルールにもなっている。要するに、セロハンテープなどで補強したコップヌードルの容器を使わせない為の確認だ。


 2つめが肝心なのだが・・・卓球台ではなく事務机を4つ並べて、その中間に英和辞典とか国語辞典、古語辞典などを並べてネット代わりにして試合をやるのだ!

 知ってる人は知ってるけど、卓球台の大きさは、アバウトだけど縦が2.7メートル、横が1.5メートル、高さは76センチだ。でも、学校の一人用の事務机を4つ並べると、縦が2.8メートル、横が1.4メートルとなり、高さは70センチ少々だから、卓球台とほぼ同じになる!

 ネット代わりの辞書は物によって高さや厚みが違うし、だいたい、机によって置く辞書が違うから、ある意味、どの机のブロックに入るかという抽選が結果を左右しかねない。さらに言えば、辞書に当たるとネットより跳ね返りが大きいし、当たり具合によっては予想外の場所に跳ねて行くから、ネット以上に難しい上、体が机に当たると衝撃で辞書は簡単に倒れる。ラリー中に辞書が倒れてもラリーが終わるまでは倒れたままだから、逆に辞書を倒して勝負するという裏技まであるほどだ!本来、卓球はラケットを持ってない方の手が卓球台につくと相手の得点なのだが、これが無いどころか、辞書に体が触れない限り、故意に手や足を使ってテーブルを叩いたり蹴ったりして辞書を倒すのが認められている!

 ついでに言えば、事務机の高さが微妙に違う!だから、自分のコート内で段差が出来てしまう事もあるほどだが、事前に高さが同じ位の物を4つ並べる事になっているとはいえ、段差でトンデモナイ方向にピンポン玉が飛んでいくことがあっても合法なのだ!この辺りは全てクジ運で左右されてしまうから甘んじて受け入れるしかない。これが3つめのルール。


 参加人数と時間の都合で、試合そのものがラリーポイント制の1ゲーム11点制でコートチェンジは無し、サーブ者はサーブ毎に交代の上、特別ルールにより予選は11点先取した方が無条件で勝ち。決勝トーナメント以降は10対10の時のみ2点差がつくまで勝負が続く。これは仕方ないとして、サーブが超甘々だ。ただ単に『自分たちの右側のテーブルでワンバウンドしてから辞書を超えて相手の対角線の机にワンバウンドすればOK』だから、これ以外はサーブのやり直しとなる。卓球のルールにある16cm以上の高さに上げるとかラケットを隠してはならないとか、そういう細かいルールは一切無視!『試合の進行の妨げになるような、非紳士的行為は慎むこと』以外は書かれてないのだ。これが4つ目。


 まさに、卓球に似て非なるものとしか言いようが無いほどに、ルールなのだ。


 事の始まりは、15年前の当時の生徒会長が体重100キロを超える超巨漢の上に、放課後の生徒会室にポットを持ち込んでコップヌードルを間食するのが日課のようになっていたのだ。その時の副会長以下、他の生徒会メンバーがその空容器を使って放課後の生徒会室でで遊んでいたのが始まりだ。それを、当時の生徒会長自ら『混合ダブルス卓球選手権』として発案し、生徒会室でのルールをそのまま適用したのだ。


 生徒会室での遊びが起源だから、当然ではあるが男女とも制服着用だ。これが最後のルールなのだが・・・特別賞として『ベストカップル賞』『準ベストカップル賞』というのがあり、生徒会とクラス委員(クラス委員が選手として参加する時は代理者)の投票で決まるのだが、そのて、しかも優勝・準優勝と同じ賞品が与えられるから・・・特に男子が熱狂して、女子もキャーキャーと歓声を上げる理由になっているのだ。


 因みに、『混合ダブルス卓球選手権』は別名『コップヌードル卓球大会』とも呼ばれている。いや、こっちの名前の方が有名だ。


 その『コップヌードル卓球大会』に証子先輩は僕とのペアで出場しようと誘ってきたのだ!

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