第21話 姉ちゃんとショーちゃん
「・・・正太郎ちゃんはまだエントリーしてないんでしょ?」
「そ、それはそうですけど・・・」
「なら決まりね。わたしと出ましょう!」
「・・・ちょ、ちょっと証子!1年生の顔が引き攣ってるわよ!!」
いきなり僕の後方から大声がしたから、思わず僕は声の方向を向いてしまったし、それは論寄君と証子先輩も同じだ。
その声の主は・・・証拠先輩と同じ緑リボンをしているという事は3年生だ。えーと、たしかあの人は3年E組の
「・・・あらー、誰かと思えば
証子先輩はそう言ってるけど、目はさっきまでのニコニコ顔からニヤニヤ顔に代わってる!逆に見田目先輩は明らかに『カチン!』という表情に変わった。
「どうしたもこうしたも無いわよ!あんたさあ、1年生を脅迫して無理矢理ペアを作って出場しようとする魂胆が見え見えよ!」
「あらー、そんな事は無いわよー。事前に
おい、ちょっと待て・・・僕は論寄君からそんな話は一切聞いてないぞ!証子先輩が勝手に言ってるだけだぞ。
僕はチラッと論寄君を見たけど、肝心な論寄君は『ハッ!』という表情に変わっている!
おいおいー、まさかとは思うけど・・・
「あー、スマンスマン、俺、並野に聞くのをスッカリ忘れてた」
論寄君はそう言って右手を頭の後ろに回して笑ってる!なんという無責任な奴なんだあ!?
「はあ!?槓太!今朝、わたしが『並野君、いいって言ってたの?」って聞いたら『ウン』と言ってたでしょ!」
「へっ?姉貴、そんな事を俺に聞いた?」
「あんたさあ、まさかとは思うけど『お目覚めテレビ』の占いを見てたから、わたしの話を右から左にスルーして生返事をしてたってオチは無いでしょ?」
「あー、そうかもー」
「『あー、そうかもー』じゃあないわよ!どうしてくれるのよ!!わたしは信じてたのよ!!!」
証子先輩は額に青筋を立てて論寄君に文句を言ってるから、よりによって食堂で姉弟喧嘩(?)が始まって、周りにいた他の生徒たちがクスクス笑っているほどだ。頼むからこんな場所で口論しないでくれ!と僕は言いたいですー。論寄君も無責任だけど、証子先輩は逆に無頓着ですよ。
見田目先輩はそんな二人を見て「はーー」とばかりにため息をついたかと思ったら、肩を窄めて両手を横に広げている。呆れてるとしか思えないぞー。ま、僕も同じですけどねー。
「・・・という訳だから並野君、証子の話は言いがかりに過ぎない!よって無効よ」
「あー、だよねー。助かりましたあ」
「その代わり、わたしと一緒に出ましょう!」
「へっ?」
僕は見田目先輩の顔を思わず見たけど、その顔はニコニコ顔だ。というより最初から僕とペアを組みたくて、ライバル(?)とも言うべき証子先輩を蹴落とすつもりだったんですかあ!?
「ちょ、ちょっと武代!ドサクサに紛れて正太郎ちゃんを誘うなんて卑怯よ!」
証子先輩は見田目先輩の魂胆に気付いて、論寄君を放っておいて立ち上がったかと思ったら見田目先輩に食って掛かってる!さっきまでの論寄君の姉弟喧嘩の勢いをそのまま持ち込んでるから、ハッキリ言って最初から喧嘩モード全開としか思えないぞ!
「あらー、事実を捻じ曲げて1年生を誘う証子に言われたくないわよー」
「うるさい!あれは槓太のせいよ!わたしは被害者です!」
「しかも何?その『正太郎ちゃん』って、背中が痒くなりそうな事を言ってて恥ずかしくない?」
「う、うるさい!正太郎ちゃんは正太郎ちゃんよ!!あんたに言われたくなーい!!!」
「ははーん、どーせセコイ事を考えてたんでしょ?泥棒猫のやりそうな事よねー」
「はあ!?どうせあんたはカレシにフラれたばかりなんでしょ?」
「ひ、人聞きの悪い事を言わないで頂戴!」
おいおい、今度は証子先輩の一言で見田目先輩の表情も喧嘩モードに変わったぞ!先輩たちは食堂を何だと思ってるんですかあ!?
「あらー、噂は事実のようねえ」
「ち、違うわよ!浮気性の
「どうだかねー」
「ホ、ホントよ!だいたいさあ、証子は今でも
「はあ!?冗談じゃあないわよ!
「あらあらー、今でも『やけた君』ですかあ?やっぱり証子の方が付きまとってる証拠よねえ」
「言葉のアヤよ!だいたい武代は正太郎ちゃんと全然面識が無いんでしょ?わたしの方は正太郎ちゃんとのコネクションを持ってるわ!ここはわたしに優先権があります!!」
「はあ!?弟さんのクラスメイトというだけでしょ?そんなのこじつけに過ぎない!むしろ並野君に対する迷惑行為なんだから、あんたの方が引っ込みなさい!」
「冗談じゃあないわよ!あんたの方こそ引っ込め!」
「その言葉、
うわっ!この二人、互いの顔に唾が届きそうなくらいに顔を近づけて口論してる!僕は正直逃げたいですー。論寄君も完全に顔が引き攣ってるぞ。周りは逆に笑ってるけど、誰かこの口論を止めて下さーい。
その時だ!
「・・・ちょっとあなたたち、食堂で口論するのは校則違反です!」
そう言って二人の間に強引に体を入れた人物がいた!見田目先輩や証子先輩と同じく緑リボンをしているという事は、3年生の女子生徒だ。でも、その人物はパッと見ただけでは男かと見間違うくらいのショートヘアーで実際に背も高いのだが、見方によってはイケメンが女装しているようにも思えるほどだ。
その女子生徒が割って入ったから、見田目先輩と証子先輩は渋々だけど口論を引っ込めた形になった。でも、その3年生は毅然とした態度を崩してない。
「・・・3年生が1年生を無理矢理引っ張っていくのはパワハラ以外の何物でもない!これは生徒会長として見過ごす訳には行きません!!」
「「すみません・・・」」
「とーにーかーく、君たちの気持ちが分からない事もないけど、これ以上騒ぎ立てるようなら、ボクは生徒会長として強権を発動するしかなくなるぞ!」
その3年生はそう言って二人を宥めてるけど、見田目先輩も証子先輩も互いの顔を見合わせて「はーー」とため息をついているほどだ。まだ言いたい事は一杯あるけどこの人が出てきたから大人しくならざるを得ないというのがアリアリと分かるほどだ。
「・・・はいはーい、という訳だから、これでこの話はおしまい!」
そう言うと、その3年生は見田目先輩と証子先輩の肩をポンと叩いた。二人とも『仕方ないわね』と言わんばかりの表情でサバサバしてるけど、それを見た3年生も初めてニコッとした。けど、それは一瞬だけで僕に顔を向けた時には再び毅然とした態度に戻っていた。
「・・・だいたいさあ、ショーちゃんもハッキリ返事をしないのがいけないんだよ」
「「「ショーちゃん!?」」」
その3年生の思わぬ発言に論寄姉弟と見田目先輩が同時にハモったぞ!僕も一瞬焦ったけど、その3年生は『どこ吹く風』と言わんばかりに平然としてるから勘弁して欲しいですー。
「はいはい、すみませんでしたあ」
「ったくー。お姉ちゃんがいなかったから、ショーちゃん、今頃はどうなってたんでしょうねえ」
「「「お姉ちゃん!?」」」
うわっ!頼むからこの場で『お姉ちゃん』は勘弁して下さーい。こっちも超恥ずかしいんだからさあ。
「姉ちゃん!学校で『お姉ちゃん』は勘弁してくれ!」
「「「姉ちゃん!?」」」
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