第29話 RE:Contact-14 ¨怪シキ傭兵団¨ヲ撃退セヨ - 1


「……何だァ……? この野営地やえいちは……?」



 ――無数の樹木の枝や低木を切り開き、道の邪魔となる背の高い草を幾重も踏み潰しては……ようやく辿り着いた場所。そこは、”スップリ森”に近いこの原生林の中に出来ていた、小さな広場であった。その中に、この声の持ち主が生涯を通して全く見た事もないような……”奇妙な天幕”が数個、並べられたいたのだ。


 【見た事もねェ天幕があるな……しかも、それ以外にも全くオレが知らないような物も、幾つか……。何処か貴族のボンボン坊々が、道楽でもしてるのか……?】――そう心の中で疑念を持つが……しかしながら、それだけでは何も前に進まない。声の持ち主は、そう結論付けると、後方に酷く汚い怒鳴り声・・・・・・・・を飛ばす。



「オイッ! テメェらッ! 早くコッチ来い!」


「「「「「「「アイアイサ〜ッ!」」」」」」」


 〜 ドドドドドドドドドドドドドドドド……ッ! 〜



 ――複数の足音が、怒声を上げた男らしき者の元へ一直線に集まる。そして……奇妙な天幕付近でかれていた”焚き火のあかり”によって、その姿はボンヤリと浮かび上がる……!



「アニキィ! 探しやしたぜ〜? 途中でオレらの松明がダメになっちまうんモンだから……暗くて暗くて……」


「……」


 ――機嫌の悪そうな表情と共に、呆れ果てたような視線もその声の持ち主に送る、”アニキ”と呼ばれた男。


「あっ、トコロでアニキィ? 何でオレ達を呼んだんッスかぁ〜?」


「このッ、バカ野郎供がッ! 道理で付いてこないと思ってた理由がそれだとッ!? ふざけんなッ!?」


「ヒィィッ!? すいやせんッ! ……ところで、何を見つけたやしたんと……?」


「あの”長耳のガキ共”が隠れてそうな天幕を見つけたんだよッ!? このッ、バカ野郎供がッ!」



 ――今まで人生の中で、”知恵”や”賢さ”を一才合切いっさいがっさい投げ捨ててきたような……そんな返事しかしない部下らしき男達を前に、アニキと呼ばれた男の怒声が響き渡る。



「「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」」


「そこで声を合わせなくて良いんだよッ!? クソ供がッ! 後、俺様の事は”ラグジャー様”と呼べって言っているだろうがッ!?」


「「「「「「「……いえ、アニキはアニキですからッ!」」」」」」」


 ――”ラグジャー”と言う、アニキと呼ばれていた男に”人望じんぼう”はあるのか……複数の野郎供の”熱き視線”が、彼に一点集中する……!


「だから何で、返事以外で合わせているんだ!? クソ供がッ! 俺様が、いつ!? 返事以外の事で声を合わせろと言ったッ!? というか……もう時間ねェんだぞッ!? テメェらッ!? 今日中に、あの”長耳のガキ共”をブッ殺さないと……!?」


「……全く、こんな夜更よふけに……ギャーギャーギャーギャーやかましいですよ……? 発情期なら、他所よそでヤッて下さいよ……?」



 ――ラグジャーは一瞬、ビクッと身震いする。……いや、自分の部下に”馬鹿しかいない事”に恐怖したんじゃあない……! いくら馬鹿な部下達とは言え……彼は部下バカ達の声は、全て覚えている自信・・・・・・・・・があった……!


 だが……今し方に聞こえた声は、その部下バカ達の声の、ドレにも当て嵌まらな・・・・・・・・・・かった・・・のだ……!



 〜 ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…ザッ……! 〜


「……初めまして、こんばんは……。こんな真夜中に、そんな大人数で私達のベース……いえ、野営地に何の用ですか……?」



 ――声のした方向に、ラグジャー達御一行ごいっこうは一斉に振り向く。そこには一人の男が、一つの天幕のカゲから優雅な足取りで現れては……両手を後ろに組みながら、御一行様に向けて微笑ほほえんでいたのであった……!


 【でっ、デカイ……!? なっ、何だこの男……ッ!? どっから現れたんだ……ッ!?】――声にはしなかったが、ラグジャーの内心は動揺しまくっていた……!


 ここに来る以前に契約した領主……その兄弟・・には及ばないが、それでも確実に自分の身長を越す巨体182cmに……! その物腰柔ものごしやわららかな口調なのに、何故か得体の知れない”威圧感”が含まれていた事に……ッ!?



「なっ……何だテメェは……!?」


「質問を質問を返さないで下さい。恐縮ながら……貴方達は、別に”お貴族様”とかのお偉い身分と言う訳でもないでしょう? そんなみずぼらしく、手入れのなっていない……粗野な”革鎧”やら”武器”やらを、たずさえている所をお見受けするに……?」


「グッ……!?」



 【きっ、貴族っぽい格好をした……テメェが偉そ〜に言ってんじゃあねェよッ!?】――だが、その言葉を心の中で言っている時点で、ある意味……”権力に屈している”と言っても過言じゃあないだろう……。


 だが、そう悔しげに思いつつも……つい、長年の自身の人生経験を元に……舐め回すように目を動かしていた……! いかにも上等そうな上着スポーツジャケット、丈夫そうなズボンスキニージーンズ、全く見た事がないが……それでも見事な仕立ての皮靴コンバットブーツ……!


 その他にも、天幕などを含め……全く見慣れない物がゴロゴロと、”宝の山”如く転がっていた……! これを不慮の事故・・・・・などで、目の前の”生意気な貴族のボンボン”がいなくなった際に、自分達の手に出来れば……! 一体、金貨何百枚分の価値・・・・・・・・・になるのか……!? ……そう、試算していたのであった……!



「……何、ジロジロ見ているんですか? そんな事をした後で、私にお世辞やオダてを言ったとしても……何もあげる物はありませんよ?」


 ――ラグジャーに対し……ニコやかながらも、あからさまな嫌悪けんお感の込もった口調で話す、”貴族のボンボン”らしき男。


「うっ、ウルセェッ!? オレらを乞食こじきか何かと勘違いするんじゃあねェッ!?」


「ほぉ……? では、失礼な乞食でなければ……一体何だというのですか?」


 ――今まで和かに閉じていた目が見開かれ、鋭い眼差しで繁々シゲシゲと……ラグジャー達を見つめる、”貴族のボンボン”らしき男。


「ハッ! 知らねェのかッ!? オレらは最近……王国と帝国との紛争で、名を挙げてきている、今や売れっ子の傭兵団ッ! ”鉄決テッケツ傭兵団”様だッ!」


「「「「「「「そうだッ! 受けた依頼は、必ず守るでお馴染みのッ!」」」」」」」


「そして、そのえある傭兵団の団長様が、この俺様、ラグジャー様よッ!」


「「「「「「「そうさッ! それこそ”アニキ”さッ! 誰もが知ってるッ! オレらのアニキッ!」」」」」」」


「だから何で、勝手に答えてんだッ!? このッ、バカ野郎供がッ!?」


「「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」」



 ――【……何だ、この新手のコント集団・・・・・・・・は……? これが傭兵? ……マジかよ……?】――一方で、一斉にこの”寸劇すんげき(?)”を一方的に見せつけられていた”貴族のボンボン”らしき男はと言うと……それはそれは、養豚場の豚を見るような……徹底的にさげすんだ目で、寸劇を行った彼らをめ付けているのであった……。


 ある意味、さいわいなのは……数秒程度のその彼の行為を、鉄決傭兵団バカ供の皆さんは見ずに済んだと言うトコロか……。



「……恐縮ながら、全く知りませんねェ……? まぁ、ただ……そちらの団長さんの名前は、こちらが叩き起こされる程の、酷く汚い声・・・・・が嫌でも聞こえていたので……知っていましたが……」


 ――首がカユくなったのか、さりげなく頸動脈がある付近を右・・・・・・・・・・手で擦り・・・・つつ……そう語る”貴族のボンボン”らしき男。


「きっ、汚い……? 汚いだと……ッ!?」


「えぇ、誠に恐縮ながら……下品ですよ? 本当は言いたくなかったのですけどね? 叩き起こされるような怒声で……機嫌が悪くなってしまった物なので……」



 ――全く悪びれる様子もなく……慇懃無礼いんぎんぶれいにそう申し上げる”貴族のボンボン”らしき男。それに対し、ラグジャーは己のコンプレックスだったのか……彼に言われた事に、ガックシと項垂うなだれては……プルプルと身震いをしていた……!



「おいテメェッ! アニキの弱みを指摘するんじゃねェよッ!?」


「「「「「「そうだ! そうだッ!」」」」」」


「アニキはなぁ!? この雄々おおししい声で、何度も心折れそうになった……オレらの心をふるい立たせてくれたんだッ!」


「「「「「「そうだ! そうだッ!」」」」」」


「それで、何度も負けそうな逆境を超えてきた……! 数えきれない武勇伝ぶゆうでんを……! オレ達、テッケツ傭兵団が築き上げられてきたのも……! アニキが居てこそだッ!」


「「「「「「そうだ! そうだッ! それこそ、オレらのアニキだッ!」」」」」」


「オメェら……! このッ、バカ野郎供が……ッ!」



 ――【……”愛すべきバカ達”って、奴なんだろうけど……。ホント、こんな奴らが、”武勇伝”を何個も築き上げてんのかぁ……? ……まさか、七五調なオリ◯ンタルリズム芸ラ◯オなネタを何個も考えてるだけじゃあ……?】――涙と鼻水でグチャグチャになりつつも……どこか嬉しそうな口調で、自身の後ろで控えては、一斉に声を上げる部下バカ達に向けて、声を掛けるラグジャー。


 その光景を、”貴族のボンボン”らしき男は……再び、呆れ養豚場の豚を見るが如き視線で眺めているのであった……。



「そうだ! そうだ! それに、この声で十年近く……彼女が出来なくても・・・・・・・・・、アニキはオレ達のために……!」


「「「「「「アッ、バカッ!? それ以上を言うな……ッ!?」」」」」」


 〜 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ! 〜


 ――背後に守護霊ス◯ンド顕現けんげんさせそうな……凄味スゴみある気迫きはくを、唐突にプンプンと撒き散らし始めるラグジャー。


「……おいッ、テメェら……ッ!」


「「「「「「「ヒィィッ!? なっ、何ですか……!? アニキィッ!?」」」」」」」


 ――ラグジャーの声に、アーティスティックシンクロナイズドスイミングの選手もビックリしそうな一体感で……飛び上がるようイ◯ミの如きポーズに、一斉に一歩下がる部下バカ達……。


「……この仕事……終わったら覚悟しとけよ……? クソ供が……ッ!?」


「「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」」



 ――そのラグジャーのドスの効いた一言に……”貴族のボンボン”らしき男は、一瞬ながらも彼の”傭兵としての貫禄かんろく”を、垣間かいま見るような気がしたのであった……。


 まぁ、相変わらず……部下バカ達に向けては、呆れ養豚場の豚を見るが如き視線で眺めてはいたが……。



「……それで? いい加減、貴方方あなたがたの要件は一体何なんですか? コッチは眠い上に……その眠る前にでも、やらなきゃいけない大・・・・・・・・・・事な事・・・があるのですが……?」


 ――笑顔をつとめようとするが……瞬間的に何度か眉間にシワを寄せたり、口元がいびつかつ怒りでピク付いてしまう……”貴族のボンボン”らしき男。


「おぉっと、そうだ! なぁ、えぇ〜っと……」


「……”ジョン”とでもお呼び下さい……」


「そっ? そうか……? じゃあジョンさんよ? ここに、”長耳のガキ供”が来たのを見てないか・・・・・・・・・?」



 ――”貴族のボンボン”……もとい、割と気さくに名前を教えてくれた……”ジョン”という男の態度に少々戸惑いつつも、素早く顔の汚物を腕で拭い取った後に、ラグジャーは尋ねる。



「……”長耳のガキ供”……ナルホド? それは、”エルフ”と言う種族の人達の事を言うのですか……?」


 ――物腰柔らかな口調だが、目が一切笑っていない・・・・・・・・・・ジョン。


「エルフ? 長耳は長耳だ。高慢こうまんなクソ供である、人間じゃあないアイツ・・・・・・・・・・の事を聞いて……何になるってんだ? ジョンさんよ?」


「……いえ、お気になさらず……。私のちょっとした趣味みたいなモノです……好奇心が強いゆえのね……?」



 ――再び首が痒くなったのか、さりげなく頸動脈けいどうみゃくがある付近を右手で擦りつつ……そう語るジョン。……だが、相変わらず……ラグジャー率いる”鉄決傭兵団”に向ける視線は、こおりついたかのように冷たかった……!


 だが、ラグジャーはそんな視線に一切気付かず……太々ふてぶてしい口調で、彼に尋ねる。



「フ〜ン。で? 見たのか? 見てねェのか?」


「う〜ん、そうですねェ……? その人達の”見た目”や”特徴”……それに、貴方方が”何でその人達を探している”のか……? それらを聞けないと、私が知っている事を話しても……って感じですねェ……?」


 ――腕を組んでは、ワザとらしそうにウンウンうなりつつ……悩む素振りを見せながら、そう語るジョン。それを見ては、あからさまに機嫌が悪くなるラグジャー。


「チッ、何でだ?」


「人違いをしたくないのと……私にとって、”全く利がない事”ですからねェ……? 教えたとしても……?」


 ――再び両手を後ろに組んでは……呆れたような横目で、ラグジャーを見るジョン。


「……チッ、じゃあ何だ? 金か? いくら欲しいんだ?」



 ――そう悪態付きつつも、腰の背中側に着いていた……”ウェストポーチ”のような革鞄に手を伸ばす。しかし、ジョンは彼に向けて右手を伸ばし……”待った”とでも言うように、手のひらを見せる。



「いえ、お金は結構です」


「……アッ?」


「その代わり、さっきも言った……探している人達の”見た目”や”特徴”……それに、貴方方が”何でその人達を探している”のか……? そう言った”情報”を話してくれるなら……お教えしましょう」


「……ハッ? 何でそんな……」


「先程言いましたよ? 私は好奇心が強い・・・・・・……と。私にとって、”情報”とは……時に”お金”より素晴らしい価値になる物だと、考えていますのでね……?」



 ――ラグジャーに向けて伸ばしていた手を、人差し指だけを残して握り……”チッチッ甘い甘い”とでも言わんばかりに、人差し指を左右に車のワイパーの如く振らせるジョン。一方のラグジャーは……それを聞いて、難しい顔を少ししていたが……?



「チッ、まぁ良いか……やっぱ、ジョンさんみたいな”お貴族様”が考えている事は、分かりませんねェ……?」


 ――【……オレが貴族? ほぉ……?】――黙り込んでいたが、内心では……ほくそ笑むかのような事をつぶやくジョン。


「オレらが追っていた”奴隷”は、長耳の二人組・・・・・・です。一人は、女のガキです。特徴としては、ビックリするぐらいの”白い肌”に……やや黄色っぽい赤オレンジ色の髪が何本か混ざった……”金髪”ですかねェ?

 後は……何考えてるか分からねェ、”ボヤッとした緑っぽい眼”ですかねェ……?」


「……ボヤッとした緑っぽい眼……?」


「エェ、依頼主から詳しくは聞いてないんッスが……何でも目が見えない・・・・・・ようで……。全く……それを聞いたから、楽な仕事だと思ったのに……ッ!」



 ――【……だからか? 最初に会った際……”オレの目”を、ハッキリ見ているよう・・・・・・・・・・な感じがしなかった・・・・・・・・・のは……?】――一才、表情を崩さなかった物の……胸の内ではそう思案していたジョン。



「それじゃあ……もう”一人のエルフ”と言うのは?」


「……何で、長耳を長耳って言わな・・・・・・・・・・いんッスかねェ……?」


 ――何かしらの違和感を感じ取ったのか……少々いぶかしげな表情をするラグジャー。


「……ここだけの話、私は”隠し子”でね? 最近まで世間知らず・・・・・だったんだ。だから……成人に近い今、かたよった知識のままではいけないと……こうして見聞けんぶんのため、旅をしているんだよ……」



 ――【……クソッタレ。別に意味が通ってんなら、怪しむんじゃあねェよ……クソがッ!】――内心、イラつきつつも……表情に出さないように心掛けポーカーフェイスしつつ、彼の違和感をぬぐう理由を語るジョン。



「……フ〜ン、左様で?」


「……まぁ、隠し子とは言えど……公爵が父である・・・・・・・、私の機嫌を損ねたくないのであれば……大人しく質問に答えたまえ、ラグジャー君?」


「……エッ!? こ、侯爵こうしゃくッ!?」


「あぁ、そうだ……あの宰相さいしょうでもある公爵だ……お前達は、そんな父を持つ私に逆らうと言うのか……?」


「こっ、コレは失礼しましたッ! 公爵様ッ!」


 ――そう言っては、慌てて王に仕える臣下しんかの如く……片足の膝を地面に付けて、カシヅヒザマヅくラグジャー。だが、何を思ったのか……ふと、背後を見ると……?


「……ッ!? バッ、バカ野郎ッ!? 何してんだよ、テメェら!? サッサとカシヅけッ! 首をチョン切られたいのかッ!?」


「「「「「「……ハッ!? ハッ、ハハァァァァァァッ! 申し訳ありません、コウシャク様ッ!」」」」」」



 ――【……ワ〜オ、ココだけ封建国家ほうけんこっか万歳バンザ〜イ! ……まぁ、バカばっかで助かったよ……。これなら、もう少し有利に情報を聞き出せそうだ……! ただ……オレ以外だったら、”様”じゃあなくて”閣下かっか”と言わなきゃ、アウトだったぞ〜?】――と、胸の内で”ほくそ笑み”が止まらないジョン。


 ……まぁもう、◯者の諸君は……この”ジョン”と言う男の正体は、知ってて当然だろうが……。



「ウム、ヨキニハカラエ〜」


「「「「「「「……エッ?」」」」」」」


「……じゃあなくて、そんなかしこまらなくて大丈夫ですよ? 最低限、身分の違いを分かって頂けるのであれば……これぐらいは、見逃してあげますから……」


「おぉぉぉッ!? 寛大かんだいな処置を、クソありがとうございますッ!」


「「「「「「クソありがとうございますッ! コウシャク様ッ!」」」」」」



 ――【……ヤベ、調子乗りすぎてバレるトコだった……何で、そんなトコで妙に勘が良いんだよ……ッ!?】――有利に舌戦ぜっせんを運んでたと言うのに……まさかの”意味違い”許す”と勘違い”で、凡ミスをヤラかすトコロだったとは……ププッ。


 ウッセェッ! 黙れっての……ッ!



「……それで? 先程聞いた質問の答えは? あぁ……因みにもう、カシヅかなくても良いぞ? 君達……?」



 ――少しでも失敗を取り戻そうとするのか……寛大な処置立っても大丈夫(笑)をうながす、大貴族の・・・・ジョン公爵閣下。それを聞き入れたのか、恐れ多いような態度や表情をしつつも……ジョジョにジョジョに、鉄決傭兵団アホ供の皆さんは立ち上がってゆく……!


 ……お前、絶対からかってやがるだろ……!? ナァッ!?



「そ、そうでしたね……もう一人は、男のガキです。特徴としては、枯れ木のような”黒い肌”に……血とクソみたいな色の髪が、グチャグチャに何本か混ざった……”汚ねェ赤髪”ですかねェ? 後は……オレの部下を……オレの部下達を……! あの、クソ野郎は……! 四十人以上もブッ殺しやがったんだッ!」



 ――ラグジャーの部下バカ達も、何人かが嗚咽おえつを漏らす中……ラグジャーは、恨みの込もった怒鳴り声でそのエルフの事をののしり上げる……ッ!


 【……四十人以上も!? じゃあ……あのボロ服にあった血痕けっこんのほとんどは、”返り血”って事か? 地味にスゲェなぁ……あの黒肌のエルフボーイ……ッ!】――またもポーカーフェイスを貫いていたが、内心驚きを隠せないジョン。



「それは何とも……御労おいたわしい事で……」



 ――右片手を胸に当てながら、目をつむって痛ましそうな表情でそう呟くジョン。……だが、その胸の内では……思いっきり”両手の中指を突き立てて◯uck you!いる”のが、何とも滑稽こっけいではあるが……。


 おい、別に取り上げなくてもイイ事だろうがッ!?



「そうなんですよッ!? 聞いてくださいよ、公爵様ッ!? あの黒肌の長耳のガキッ!? 頭おかしいんですよッ!?」


「……ほお? 何処がおかしいと言うのだ?」


「『丸腰だから捕まえるのも楽であろう』……そう、依頼主いらいヌシから聞いていたのに……ッ! あのガキッ! あの黒肌の、長耳のクソガキは……そうじゃあねェッ! そんなんじゃあ、全くねェ……! ”バケモノ”だったんですよッ!」


 ――余程、悔しい事でもあったのか……その両手の爪が、拳に食い込みそうな程に握り締めるラグジャー。


「……ほう? では何故、バケモノだったのだ?」


 ――好奇心が刺激されたのか、そう興味深そうに聞くジョン。


「奴らの首に付いた”奴隷の首輪”を、探知できる魔道具・・・・・・・・を依頼主から借りてやしたんで……見つけるのは、案外簡単でした。まぁ、それでも……大雑把な方向しか分からない”粗悪品なみたいな物”だったので、苦労しやしたけどね……?」


「……それの何処が、”黒肌のエルフ”がバケモノだと言う理由に繋がるのだ?」


 ――チョッピリイラついたように、そう尋ねるジョン。


「しっ、失礼しました! 公爵様ッ! 何分、その時も後も……変わらないぐらいに苦労しやしたモンで……つい、愚痴が……」


「フン、まぁ良い……続きを申せ」


「ヘッ、ヘイッ! えぇっと……それから、苦労しつつもその長耳のガキ供を……オレ達、傭兵団は見つけたんですよ。その時は、五十人近くの大戦力・・・・・・・・・で見つけていたんですよ? 余裕の仕事だと思ってましたでさァ……!」


 ――【五十人……つまり、ここの残り八人・・・・はその”生き残り”って事か?】――そう胸の内で呟くジョン。


「ほぉ、五十人……! 小隊十〜五十人規模級の戦力とは……! 貴方達、鉄血傭兵団は中々の戦力をお持ちだったようですねェ……? では、確実な仕事をするために……援軍の一つや二つ・・・・・・・・は、あったのではないでしょうか? ……ホラ、”仕事仲間”と言えるような……他の傭兵団・・・・・の皆さんとか……?」


「……そんなの居たら、こんな人数にはなってませんよ……公爵様。オレ達、鉄血傭兵団は……もう、この八人以外……誰も居ない・・・・・んでサァ……」


 ――ラグジャーの後ろに控える部下バカ達の、むせび泣く声が一層深まる……!


「……本当なのか? その依頼主は、全くの保険を掛けていなかったと言うのか……!?」


 ――非常に驚く(……という、迫真はくしんの演技をする)ジョン。


「エェ、そうでサァッ! あの領主ッ! 報酬は良いクセに、意外とケチ臭かったんでさァッ! オレ達に援軍があれば……こんな、こんな……ッ!?」


「「「「「「アッ、アニキィィィィィィッ! な、泣かないで下せェ〜ッ!」」」」」」


「このッ、バカ野朗供がッ!? 公爵様の前で、テメェらの汚ねェ涙を見せるゥゥ……見せるんじゃあねェよッ!?」


「「「「「「「……スッ、すいやせんッ! アッ、アニキィィィィィィッ!」」」」」」」



 ――【……つまりだ。コイツらを”始末しまつ”しても……今んトコは援軍とかの追手・・・・・・・が来る可能性は、”低い”って事か……。

 まぁ、オルセットがもうあの二人に、ポーションを飲ませ終わったって聞いてるし……もう嘘がバレてもかまわねェけど……せっかく、お貴族クソ野郎様になれたんだ……。

 コイツらに依頼した、その”領主”ってクソ野郎の事・・・・・・は……絶対に、吐かせないとな】――とまぁ、随分”冷酷な事”を考えているボ……じゃあなかった、ジョン。



「……貴方達が、亡くなった戦友に対する思いは痛い程、伝わりました……。ですが、そろそろ話に戻って頂けませんか? 貴方達の話を聞いてきて……”心当たり”はあるのですが……どうも、確信がなくて……」


「ほっ、本当ですかいッ!?」


「エェ。知っている事を全て話・・・・・・・・・・してくれたら・・・・・・……その心当たりを、お教えして差し上げますよ?」



 ――【……もっとも……そん時にテメェらが生きて帰れる保証・・・・・・・・は、何処にもねェけどな……?】――和かな表情とは裏腹に、ある意味”漆黒しっこくの意志”とも表現出来るような……そんな”腹黒い事”を企んでいたジョン。



「へっ、ヘェ! え〜っと、そうだ! あのガキ供を見つけたところでした…よね? 公爵様?」


「……まぁ、そうだな」


「ヘェ! ……けど、コレを聞いても……面白くないですし……只々、痛ましいだけですよ……?」


「……構いません。貴方方の話を聞いている内に……私も貴方達の気持ちに、少しでも寄り添いたいと思うようになったのです……! ですから、心苦しいかもしれませんが……お願いします……!」



 ――【……ホントは、寄り添うどころか……コイツらの顔面に、ゲロ吐きたいけどな・・・・・・・・・……? まぁ、思ったより時間が稼げそうだから……オルセットにあの二人への、”応急処置”を指示しちまった以上……!

 もう少し慈悲深い・・・・貴族クソ野郎様を演じてやりますか……全く、やれやれだぜ……】――まぁ、何かと苦労人な事を思っていたジョン。


 そして……その慈悲深さに、傭兵団の皆さんは再び一斉に”感謝の意”を示した後……ラグジャーが語り出す……!



「……あのクソガキ供に追い着いた時……依頼主の言う通り、二人は丸腰でやした。それに……奴隷の首輪には、主人への反抗が出来ないよう……”魔力阻害そがいイン”を刻んでいるとも聞いてやした。

 魔法が得意だと聞く長耳だろうと……それがある限り、その長耳は魔法を使えない農民も・・・・・・・・・・同然・・……! 魔法への対抗手段がないオレ達”鉄決傭兵団”でも……特に反抗される事なく、容易に捕まえる事・・・・・が出来ると踏んでいやした……!」



 ――【……”魔力阻害の印”を刻んでいる・・・・・……? 何だ? この世界の”奴隷の首輪”ってのは……”〇〇を使う事を許可しない……的な、カスタマイズ機能・・・・・・・・でもあるってのかぁ……? ……まぁ、ジックリな考察は後だ……】――己の経験則オタク知識から、そのような推測を立てるジョン。



「ほぉ、エルフは魔法が得意なのか……! と言う事は……弓矢などのように、遠距離から一方的に攻撃される心配はないと踏んで……一気に捕縛しようと、傭兵団全員で襲い掛かったのだな?」


「ヘェ、そうでさぁ……。ただ……」


「待った。だが、不用心過ぎないか?」


「ヘェ?」


「相手は魔法が得意だと言う、エルフなのだろう……? なら、人間が扱える魔法はおろか、人間が知らないような魔法・・・・・・・・・を使用出来るかもしれない……! それこそ、その”奴隷の首輪”だとか言う……魔法の道具一つで、何故にそんなにも安心し切れるのだ? 会った時に、既に解除されている・・・・・・・と思わなかったのか?」


 ――己の経験則オタク知識が、そうささやくまま……ジョンはラグジャーに、そう問い掛ける。


「なっ、なんと……!? 公爵様は”予知の魔法”を使えると……!?」


「使えませんよ? ただ、”可能性”を考えただけです……」


「そっ、そうですか……えぇ、そうです。何故か、二人の長耳は……見つかったオレらに反撃してきた・・・・・・んですッ!」


「……でも、丸腰・・に”四十人以上”もられたなんて、チョッピリどころか……現実味が無さ過ぎる気が、するんじゃあないかと思いますけど……?」


「こ、公爵様……お…オレだって……チョイとは、そう思ってたんです……! ですが……オレはその場に居たんです、その他の野郎供も傍に居たんです、でも……! 誰も勝てなかったんです……! そんな……そんな、現実が……!」


「落ちこんどる場合かァァァァッ!?」


「「「「「「「「……エッ!?」」」」」」」」


 〜 パシッ! 〜



 ――【……ヤッ、ヤベェェェェッ!? なっ、何で”シュト○ハ◯ム少佐”っぽい……話の流れ・・・・を言ってきやがるんだよッ!? つい、ノッちまったじゃあねェかッ!?】――もう、何と言うか……貴方には何も言えませんね……とても哀れ過ぎて……何も言えませんよ……。


 やめてッ!? その後ォ! 『もしかしてオ◯オラですかァァァッ!?』……って、感じに責めないでくれよッ!? 挽回ばんかいはするからさァッ!?



「どっ、どうしました……公爵様……? 何で、口なんかを手で押さえて……?」


「……ウォホンッ! 申し訳ありません……。いつか、私も臣下が出来た際に……こうやって激励が出来たらと思っ・・・・・・・・・・ていた・・・物で……つい…その……貴方達の様子と……重なって…しまって……」



 ――しどろもどろかつ、口に右拳を当てつつ、かなり目が泳ぎつつも……弁解言いワケ〜?をするジョン。


 ……もう、許して……ッ!



「……おっ、オォォォォォ……ッ!? あっ、ありがとうございますゥゥゥゥッ! 公爵様ァァァッ!」


「「「「「「クソありがとうございますッ! コウシャク様ッ!」」」」」」



 ――【……バカばっかで助かったァァァァッ!? ただ、まぁ……とりあえず、結果オーライか? ……時間は稼げているワケだしィ……?】――目の前で、一斉にカシヅく傭兵団バカ供の皆さんに……思わず冷や汗を流しつつ、そう思うジョン。



「まぁ、話を逸らしてしまって申し訳ありません……宜しければ続きを……」


「……わっ、分かりました……えぇっと……」


「二人のエルフが反撃してきた所です」


「そっ、そうでしたね! えぇっと……そう、引っ捕まえようと……一斉に、数人掛かりで取り囲んだんです……! 女のガキを守るように、男のガキが動いていやしたから……楽勝だと思ったんです……ッ!」


「……成程? 何とかして、女のエルフを人質にでも取れば……容易に捕縛できるとでも思ってたのですね……?」


「……そうです。でも……でも、違ったんです! アイツは……あのクソガキは……!? 丸腰にも関わらず、ワケの分からねェ”身のこなし”をしたかと思えば……オレらの武器を奪いやがった・・・・・・・・・んです!」


「……そして、丸腰だったのが一変……貴方達の今の数八人になってしまう程に、その黒い男のエルフは……武器を使った戦いが強かったと……?」


「……えぇ、しかも……それだけじゃあないんですよ、公爵様! あのクソガキは……剣だけしか使えなかったワケじゃ・・・・・・・・・・あない・・・んです……! ナイフ、短剣、手斧、戦斧せんぷ、槍に棍棒、弓矢かと思えば石投げ投石まで……!

 オレらのそこそこ良かったハズ・・・・・・・・・・の武器・・・を、まるで”ナマクラ”を扱ったかのように……使い潰しては、奪い、使い潰しては、奪いと……! 長耳とは思えねェ、”力”と”技”で……! あのクソガキは、オレの仲間を殺しまくったんですよッ!?」


「「「「「「「そうだッ! あのクソガキッ! アイツは悪魔だッ!」」」」」」」



 ――【……黙れ、クソ野朗供……ッ! ……って、このラグジャーとか言う、傭兵のオッサンの取り巻きに言ってやりたいが……今はガマンだ……ッ!】――締め付けられるような胸の内を秘めつつも……表情に出さずに、再び語り出すジョン。



「……つまり? ”弓”と”魔法”だけが取り柄と思っていたエルフに……貴方達は、得意の”剣”とかの武器で……負けた・・・と言うのですね? その”黒肌の男のエルフ”に……?」


「でもヤられてばかりじゃありませんでしたよッ!? 公爵様ッ!? オレらだってやり返してやりましたよッ!? 一人二人ならまだしも……一気に六人以上でヤリに掛かれば、一撃や二撃を喰らわせる事は出来たんですよッ! 

 しかしですよッ!? そうなると、すぐに女のガキが……男のクソガキの腕を引っ張って逃げやがる・・・・・んですよッ!?」



 ――【……ナルホドな。黒肌のエルフボーイは、”エルフ流武術の師範代しはんだい”……って感じに、武器の扱いが上手い・・・・・・・・・のか……。

 後、ワケの分からねェ”身のこなし”ってのは……たぶん”CQC”みたいな、近接格闘術・・・・・なんだろうなぁ……イイねェ? 仲間に出来るなら……是非、ご教授願いたい物だ……!】――とことん悔しげかつ、今にも号泣しそうな感じで、訴えるように話すラグジャーを前に……ジョンは表情を変える事なく、胸の内でほくそ笑んでいた……!



「それはそれは……。でも、傷を負っているなら……到底遠くへは逃げられないでしょう? 簡単に追い詰めて、捕縛するのも容易なハズじゃあ……?」


「それが違ったんですよ、公爵様ッ!? あのクソガキ供の逃げた先を追ってみれば……何が居たと思いますッ!?」


「……その口振りだと、逃げた先に居たのは、そのエルフ二人じゃあなかったと言う事ですね……?」


「えぇ、そうですよッ! あのクソガキ供が逃げた先に居たのは……”ウルエナの群れ”だの、”ゴブリンの巣穴”だの、”マグズリーの狩場”だの……! そう言った、魔物ばかりに遭遇した・・・・・・・・・・んですよッ!? それで、あのガキ供の姿はどこにもいなんでさぁッ!?

 まるで、妖精のイタズラ神隠しにでもあったかのように……ッ!?」


「……それはただの、”不注意”という奴ではないのか?」


「とんでもないッ!? あの黒肌のクソガキが、怪我する度にですよッ!? あのクソガキ程ではないにしろ……それで、どれだけ仲間を失ったかッ!?」


「「「「「「「そうだッ! あのヒキョ〜者の、クソガキ供めッ! 恥を知れッ!」」」」」」」



 ――【……五十人掛かりで襲い掛・・・・・・・・・・かっている・・・・・……テメェら、クソ供に言われたかねェよ……ッ!? オレどころかたぶん、あのエルフの二人も……!】――要するに、”大人気ない”言いたいのだろうが……表情を崩さずにそう思うジョン。



「……それはそれは、お悔やみ申し上げます……。だが、貴方達は諦めず……ここまで追跡を続けて来たと……?」



 ――【自分で言ったのも何だが……報酬のためとは言えど、とんだ”ロリ◯ン集団”だよなぁ……? お巡りさんが居ないのが、やまれるぜ……!】――表情に出さずも、内心では呆れ果てていたジョン。



「……そうです、そうですよ! 簡単な仕事と思っていたのに……もう、文句も言えない程遠く……もう、引き下がれない程に、仲間を失ってきました……! オレ達は……あのクソガキ供に、復讐ふくしゅうを果たすと……ッ! 森の中で探し彷徨さまよい歩く中……仲間達の無念を前に、誓い合ったんですッ!」


「「「「「「「そうさッ! 依頼以外に、誓いも絶対果たすッ! それがオレ達、鉄決傭兵団さッ!」」」」」」」



 ――【……なんか、ここまでコイツらこのバカ供の事を聞いてると……始末するのが惜しくなってくるよなぁ……。まぁ、結局……目的が違い過ぎて……分かり合えないんだろ・・・・・・・・・・うけど・・・……】――表情に出さずも、ほんのチョッピリ……むなしい思いが、胸によぎるジョン。



「……余程……いい仲間に、巡り会えたんですね……」


「……えぇ、そうです。そうなんですよ……! だけど、あのクソガキ供は悪魔なんですよッ!」


「……と言うと?」


「何人もの仲間が必死になって……やっと、与えられた一撃が……! 何人もが犠牲になって……ようやく、与えられた一撃が……ッ! 次にその姿を見た際には、キレイサッパリッ! 傷が! 黒肌のクソガキに”あったハズの傷”が……無くなってたんですよ・・・・・・・・・・ッ!?」


「「「「「「「チクショウッ! オレらの苦労を返せッ! あのクソガキ供! 悪魔供ッ!」」」」」」」



 ――【……まさか、”回復魔法”持ちかッ!? あのエルフガールッ!? ……イイねェ、策士な魔法使い……ッ! 仲間メディックにでもなってくれれば、これで面倒な”応急手当て”ともオサラバ……ッ!

 いや待て……? それ以前に……アイツら、エルフとは言えど……子供・・……なんだよな……?】――表情には出さなかったが、一瞬舞い上がるような歓喜かんきに溢れるジョン。だが次の瞬間には、一気に頭が冷えたかのように……何故か、”落ち込んだ気分”となっていた。



「……申し訳ありませんね。私には……本当、お悔やみの言葉を申し上げる事しか……出来ません……」


 ――またも首が痒くなったのか、さりげなく頸動脈がある付近を右手で擦りつつも……痛ましそうな表情で、そう語るジョン。


「も、もったいないお言葉でさぁ……公爵様ァ……こんな、薄汚うすぎたねェような……オレら、傭兵団に……」


「「「「「「アニキィッ!? そんな事、言わないで欲しいでさぁッ!?」」」」」」


「何言ってんだッ!? このッ、バカ野郎供がッ! 公爵様の前だぞッ!?」


「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」


「バカッ! 謝んなら、公爵様の方だろッ!?」


「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! コウシャクサマッ!?」」」」」」


「……大丈夫です、気にしなくていいですよ?」


「おぉぉぉッ!? 寛大な処置を、クソありがとうございますッ!」


「「「「「「クソありがとうございますッ! コウシャク様ッ!」」」」」」



 ――【……ハァ、ほんのチョッピリ心苦しいが……まぁこの後の、エルフ達二人への事実確認のためだ……ようやく、コイツらの”雇い主”の事を聞き出す事が出来そうだなぁ……?】――表情には出さなかったが、長くなっていた”傭兵団への聞き込み実質、誘導尋問”が終わりそうなきざしが見え、心の中で若干の安堵あんどを見せるジョン。



「……では最後に二つ、確認したい事があるので……それを教えて頂いたら、コチラも貴方達が探していると言う人達の、”心辺り”を……お教えして差し上げましょう……!」


 ――そう、ニコやかに語るジョン。


「おぉ、やっとですかッ!? では……何を!?」


「まず、一つ目。ここまで、心苦しいながらも……貴方達は、”鉄決傭兵団の悲劇”を語ってきてくれましたが……その”エルフ達”のり口によって、貴方達はここまで数が減ってしまった。

 そして、その増援の見込みもなく……それを呼ぶ手段もない・・・・・・・と……? そう言う事ですね?」


「……えぇ、そうでさぁ。援軍を呼ぶ手段どころか……あの黒肌のクソガキが、借りていた”奴隷の首輪”を探知する魔道具を、ブッ壊しやがった・・・・・・・・もんで……! 途中からの探索が、ホント辛かったですよ……!」


「「「「「「ホント、辛かった! クナンの連続ッ!」」」」」」



 ――【……聴き忘れてたから、ちょっとあせってたけど……万が一、あの二人を逃す事にな・・・・・・・・・・った・・としても……まず、すぐには見つからないみたいだな。それに、援軍の心配もナシ……ヨシヨシ……ッ!】――表情には出さなかったが……心の中で安堵しつつも、ほくそ笑むジョン。



「では、最後です……貴方達に依頼を出したのは、何処の誰ですか・・・・・・・?」



 ――ちょ、ジョン君ッ!? 声が! 声がッ!? 声がその……ニコやかな表情とは、真逆を突きってしまっているような……ジョジョに最後には、悪徳貴族のような冷酷そうな声に……なってますよ〜!? 我慢してきたのは分かりますけど〜ッ!? バレちまいますよ〜ッ!?



「……へっ?」


「いえ、少し聞き疲れてしまったので……私の声や口調は気にしないでください……。それで? 貴方達に依頼を出したのは、何処の誰ですか・・・・・・・?」


「いえッ……それは……」


「あぁ、聞きたい理由ですか? 簡単な話ですよ。お忍びながらも……貴方達とエンのあった方に、ご挨拶をしておこう・・・・・・・・・と思いましてね……?」



 ――いやだから!? 弁解言いワケ〜?しても……”圧迫面接”みたく、違和感が拭い切れてませんよ!?


 ……いや、コイツらを始末するために、”最後のピース”が必要なんだよ……!



「いやッ……だから……」


「……何ですか? ヤマしい事でもあるんですか? まさか、隠し子とは言え……公爵を父に持つ私に今更、逆らうと言うのですか・・・・・・・・・・……?」


「いや、ですから……申し訳ないんですが……!」


「デキるワケがねェだろォッ!?」


 〜 ググググ……ググッ! 〜


「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」



 ――ラグジャー及び、ジョンを含め……その場に居た全員がその叫び声に、一斉に振り向く……ッ! その一斉に視線が集まった場所には……ジョンに向け、文字通り矢をつがえ、弓を引いていた……血管が今にもプッツンしブチギレそうな男の姿があったのだ……ッ!



「「「「「「あ、アベールッ!?」」」」」」


「うるせェェェェェッ! オレは、アベールじゃあねェッ! オレは、アベールだァッ! ボケ供ォォォォォッ!」



 ――叫びつつも、ジョンに向ける弓を引くのをやめないアホ……もとい、アルベールという男。更にその気迫は、馴染なじみがある筈の鉄決傭兵団の全員を……一歩、思わず下がらせる程もあったのだ……!



「……何のつもりですか、貴方? 今……貴方がしている事を、理解しているのですか?」


「うるせェェェェェッ! 黙れェェェッ! クソ貴族がァァァァァッ! それ以上、そのクサッたクソマミレな口を、開けるんじゃあねェェェェェッ!」


「ばっ、バカ野郎ッ! ヤメやがれ、アベールッ! 公爵様の言う通り……お前、何をしてるのか……ッ!?」


「うるせェェェェェッ! 黙れェェェェェッ! このッ、ボケ団長がァァァッ! ここまで来てそこのクソ貴族に……ヘコヘコするって、言うのかァァァァァッ!?」



 ――恐らく、貴族によって”酷い目にあった過去”でもあるのか……。その目から、今にも血涙けつるいを流すかの如く……血走った目と共に、その弓矢の狙いの先に居るジョンに向け……弓の弦を、更に強く引き絞るアルベール。



「「「「「「おっ、おいッ! アベール、止めろォォォォォッ!?」」」」」」


「うるせェェェェェッ! 黙れェェェェェッ! テメェら、ボケ供もだよォォォォォッ! オレらが何で傭兵になったと思ってんだ!? エェッ!? クソ貴族に人生を狂わされた奴・・・・・・・・・は、いねェってのかァァァァァッ!?」


「「「「「「「ッ!?」」」」」」」


「……フン、いつもオレをバカにしやがって……ッ! そんなオレに、そう言われて……そうすぐに言い返せねェなら……ッ! オレの行動を止めるんじゃあねェェェェェヨォォォォォッ!」


「「「「「「「バカッ!? 止めろ、アベールッ!」」」」」」」


 〜 バヒュゥゥゥゥンッ! 〜


 ――鉄決傭兵団の全員が、アルベールを取り押さえるよりも早く……放たれてしまった矢は、ジョンの”頭”目掛け……真っ直ぐ飛んで行く……ッ!






 〜 バシィィッ! 〜


「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」


「……全く、まだ”サイン”も考えていないのに……こんな荒っぽいオファーをされても、困りますねェ……?」



 ――【……あ、アッブねェェェェェェェェェェッ!? 何度か、ハンデ弱体化していないオルセット・・・・・・・・・・相手・・に、あってて良かったわァ……!?

 まぁ、危ない橋だったが……コレで”最後のピース”はゲットした……ッ!】――そう思うのは、首を僅かに動かして”凶弾と化した矢”をかわしつつ……その”首の左側面”を通り過ぎようとした矢を、右手でムンズと掴み取った・・・・・・・・・……ジョン。いや、もとい……ボスッ!



『……ボスゥ、さっきも言ったケド……もうとっくに二人の”オウキュウショチ”はオワッタし、ソッチに出てイイかなァ〜? もう、さっきから……イヤな声とニオイがプンプンして、ボク……もうガマンならないんだけど……ッ!?』


 ――左手で首の左側面の頸動脈をさすっていたボスの脳内では……もう、今にも怒りが爆発しそう・・・・・・・・な、オルセットの声が流れていた……!


『……我慢しろ、オルセット。さっきから”打ち合わせ”している通り……お前が思いっきり訓練の成果を出せる暴れられるよう、目印をしておく・・・・・・・って言ったろ?』


『ケッキョク、”メジルシ”って……何なの?』


『……”銃声”がしたらテントから出て来い。そうしたら話すから』


『モォ〜ハヤクしてネェ〜、ボスゥ? さっきからムズカシイ話ばかりで、ネチャいそうだよ〜』


 ――オルセットの欠伸あくびの声も聞こえてきて、思わず口角が緩みそうになるボス。


『あとちょっとだ。辛抱しんぼうしろ、オルセット』


『リョ〜カ〜イ。オルセット、アウト〜』


『あぁ。ボス、アウト』



 ――さて、このかんに◯者の諸君の間じゃあ、”数分”が経ったように思えるだろうが……実は”数十秒”にも満たない時間しか、経っていなかったのである……ッ!


 よって、このボスとオルセットの”念話”が行なわれている間……鉄決傭兵団バカ供の皆さんは、”鏡餅”か”亀の親子”の如く……未だ、ボスに向けて凶行を行ったアルベールの上に、積み重なった状態・・・・・・・・だった……!


 そして、素手で矢を掴み取り、首を擦りつつ”まし顔”をしていたボスに対し……誰もが、驚愕の表情をせずにはいられなかった……ッ!



「……こ、公爵様? お、おっ、お怪我は……?」


 ――ある意味、絶望的な表情マヌケ面で……ボスへと恐る恐る声を掛けるラグジャー。因みに彼は、アルベールの直ぐ上下から二番目に積み重なっていた。


「……んっ? あぁ……心配してくれたのね? 別イイよ、もう……」


「「「「「「「「……ヘッ!?」」」」」」」」


 〜 ザッ、ザッザッザッザッ! ドゲシャァァァッ! 〜


「「「「「「「「ドワァァァァァッ!?」」」」」」」」


 〜 ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン……ドサァッ! 〜



 ――おっと、ここまで鬱憤うっぷんが溜まりきっていたのは……どうやら、オルセットだけじゃあないようであった……! 正体を現したボスの言葉に理解が及ばず、未だ積み重なったまま呆けていた鉄決傭兵団バカ供の皆さんに向けて……軽い助走からの、”サッカーボールキック”を叩き込んだのであるッ!


 するとどうだ? まるで”ストライク一気に倒されたボーリングのピン”の如く……ボスの反対側方向に、四方八方へと転がっていったのだ……!



「……イッ、テテテテテ……ハッ!? もっ、申し訳ありませんッ! 公爵様ッ! アベールのバカには、キツく言い聞かせますので……どうか! どうかご容赦をッ!」



 ――平伏し、全力で謝罪した後のラグジャーの目には……野営地ベースキャンプの”焚き火”を背にするボスの姿が見えていた……! そして……ボスのによって、ほとんどさえぎられてしまっていた灯りの中……僅かに浮かび上がる”ボスの口元”が、ラグジャーに向けていびつゆがんで行く……!



「フンッ、コレで良く十年も……彼女にフラれつつ、生き残ってきたモンだな?」


「……へッ?」


「まだ、気付かなねェのか……? どんだけアホなんだよ、この傭兵団は……?」


 ――ラグジャーにはハッキリ見えなかったが……左手で両目を覆いつつ、”やれやれだぜ”と言わんばかりに、首を左右に振るボス。


「こ、公爵様……? これは、どう言う……?」


「あのなぁッ!? オレは公爵どころか、貴族ですらねェんだよ!? クソッタレ供がッ!?」


「「「「「「「「……えっ、エェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!?」」」」」」」」



 ――【もう……イヤッ! この傭兵団ッ!? 同情していたオレが、馬鹿だと思っちゃうぐらいに……ホント、コイツらどうやって戦争を生き延びてきたんだよッ!? アホ過ぎるだろッ!?】――ボスの中で、目の前のバカ供鉄決傭兵団に対する、ストップ安印象への暴落が止まらない……ッ!



「じゃ、じゃあ……公爵……いや、テメェは一体ッ!?」


「……別にオレが誰かだなんて、ド〜でもいいだろ? それに……それを、テメェらに教える義理すらもねェんだよ……ッ!」 



 ――ようやく”傭兵の目付き”とも言える、怒りの眼差まなざしを向けてきたラグジャー。だが、それを軽く上回りそうな、鋭い睨みを返しつつ……ジョジョにドスの利いた声を響かせるボス。その一声に、傭兵団の部下バカ達は思わずたじろぐ……!


 ……さぁ、ここからが……ボス達の本番ショウタイムである……!






 <異傭なるTips> ポーション

 飲んだり、負傷した患部かんぶにかける事で、瞬時に患部の治療が行われる……異世界ウォーダリア産の治療薬。ボス達が、エルフの少年少女に使用しようとしていたのは……「ハイポーション」と言う物らしい。(因みに、傷や生命力を回復するポーションは、主に「緑色」の色をした液体になる)


 これは「ベルガの家の地下室」にあった、”ベルガ”自らが調合して作成していたらしいの遺品の一つであり……この世界の市場だと”通常のポーション”よりもグレードが高く高い効果のある、上等な物らしい。


 そんな高級品を”数十本”程、ボス達は所有していたようなのだが……どうやら、テント生活を送る上で、使わざるを得ない状況に陥る場面が、何度かあった模様……。そのために、”残り少ない”とオルセットが言っていたのであろう……。


 自ら調合を行なった事もある”ベルガ”の話によれば……『色が薄い程「粗悪品」、濃厚な色になっている程「良質品」』という法則があるらしい……。(恐らく、調合に使用した”薬草の成分”の抽出が、上手くいってるかいないか違いなのだろう……)


 現状、その調合方法は不明ではあるが……その治療効果は、ある意味”万能”の一言に尽きる。使用すると、即座に激痛を感じなくなる程の”鎮痛ちんつう効果”を発揮。そして、負傷した・・・・患部の時間がまるで巻・・・・・・・・・・き戻るか・・・・の如く……傷がまたたく間に治療されていくのである。


 盗賊団との戦闘の際、肋骨が折れた感覚・・・・・・・・があったボスが飲んだ後は、平然と動けていた事・・・・・・・・・から、「骨折」にも効果がある模様。(だが、手や脚の骨折に効果があるかは、ボス達自身も体験する前に、ほぼ”応急処置”後の自然治癒に任せていたため、効果は不明)


 ただし……左手にポーションをか・・・・・・・・・・ける・・だけで、全身の傷が回復する訳じゃあない。更に言えば、切り落とされた”右脚”や”右腕”の患部に、”ポーション”を振り掛けた後……切断された部分を押し・・・・・・・・・・付けて・・・”接着”出来るかどうかも、不明である。


 ……と言うよりも、一般にでも出回っているようなポーションに、そんな過度の期待をしてはいけない……。主人公が、”化け物B.◯.W.”な訳ではないのだ……。

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