第7話 RE:Mission-6 情報交換ヲオ互イセヨ
……二匹の
誰もが見ても、息を呑む程美しく……。
時を忘れて見ていたい程、まるで舞っているかのように
それは……花畑のような場所であった……。
「ような」……と、断定して言わないのは、ハッキリと分からないからだ。
まるで、その風景がテレビ番組で「見せられないよ!」……と、周囲の背景から住所等を知らせないため、”モザイク処理”が掛けられたように……ボンヤリと濃い
そしてそれは……その「二匹の蝶」達を取り囲むように飛んでいた、たくさんの”蝶”達もそうだった……。「二匹の蝶」程ではなかったが……どれの”蝶”も目を見張る程に美しいモノであった……。
……いや、待って欲しい……失礼、やはり言い直そう。
ただ……”蝶”で
”蝶であったモノ”……。
それは、人の大きさぐらいの大小様々な「モヤ」であった……。
時間が経つと共に「二匹の蝶」も含め、蝶達は「モヤ」へと……ジョジョに
しかし……「モヤ」へと変わって行ったからと言って、先程まで容易に想像できたであろう……”可憐で美しい光景”が失われた訳ではない……。
むしろ、”幻想的”……と言って程の光景に様変わりしていたのだ。
……表現できる言葉がないが……それは……妖精のようだった。
「二匹の蝶」であったモヤ達は、蝶であった時では絶対に表現できないような……”色”と”速度”で
……そんな、予想もつかない動きを次々としていく中……モヤ……いや、妖精達は……。
回る度、交差する度、すれ違ったりする度に、目まぐるしく……次々と、クリスマスの
……「二匹の蝶」達を取り囲んでいた「モヤ」も同様だ。
「二匹の蝶」程ではないが、「二匹の蝶」達の動きに敏感に感応し……踊り舞うかのように、小刻みに揺らめき様々な光を発していた……。
「二匹の蝶」と「その他のモヤ達」……その彼らが、この幻想的な光景を演出してくれていたのだ。
しかしながら、24時間……”太陽”は世界を照らし続ける事なく、その半分の12時間後には”月”にその役目をバトンタッチするかのように……。
その幻想的な光景も、
その
”青い光”を発しながら地面へと落ちてゆくモヤと……そのモヤの
地面へと墜落した二つのモヤは、”赤のモヤ”が”青のモヤ”に覆いかぶさるような形で墜落し……その後、”赤のモヤ”が
……すると、少しずつ時間が経つ度に、周囲のモヤ達が忙しなく点滅を始めた……。
1から5……5から12……12から27……不規則ながらも、その数は着実に増えて行く……!
寒気のするような”青”……
その光を、まるで……「二匹の蝶」達に向けているかのように……!
だが、忙しなく点滅していたのは……その他のモヤ達だけじゃあなかった……。
今まで赤く発光していたモヤが……他のモヤ達の比ではない程に、点滅していたのだ……!
それも、何故か「不吉な色」に混じって……快活さのある”
完璧には筆舌しがたい程の、
……一方で、馬乗りにされていた”青のモヤ”は……変わらぬまま……。
しかし……ほぼ闇のようなドス黒い”黒”に、周囲のモヤ達が変色しきった頃……目紛しく点滅していた”(元)赤いモヤ”は、再び”青いモヤ”に覆いかぶさると……再び真っ赤に発光し始める……!
10秒……30秒……60秒……時間が経つに連れて、着々と”青いモヤ”の輝きは……ジョジョに薄く
そして……再び”赤いモヤ”が起き上がったときには……”青いモヤ”は
まるで最初から存在が無かったの如く……綺麗サッパリとだ……。
また、それと同時に――今までドス黒く染まっていた”その他のモヤ達”が……一瞬にして、再び色とりどりの
”青いモヤ”の居た地面に、再び覆い被さっていた”赤いモヤ”とは対照的に……明るく、”幸福”という言葉が似合いそうな色合いばかりで……周囲一帯を照らしていたものだ。
しかし……突如、世界は一変する……!
……”その他のモヤ達”に囲まれ――その中央で地に伏していた”赤いモヤ”が、決起した……。
ゆっくりと
周囲のモヤ達のドス黒さとは、全く比べ物にならない”
”赤いモヤ”を中心に放たれた、”波紋状のナニカ”を浴びた”その他のモヤ達”は……それまでの色鮮やかさが嘘のように、一瞬にして全てが”灰色”へと変化していた……。
まるで、中央で既に”光”ではなく……”灼熱の炎”となり、その真上に炎によって出来た……”
そして……一瞬であった。
姿を現したかと思えば、1体……姿を表すことなく、2体を……通り過ぎたかと思えば、3体まとめて……。
100以上は確実に居た”その他のモヤ達”は……次々と、その輝きを”赤いモヤ”……いや、”眞紅の炎”に奪われていった……。
そしてそして……既に幻想的ではなく、”眞紅”と”漆黒”にグチャグチャに塗りつぶされた……ある種の"狂気"がひしひしと伝わりそうな
マダ……イタノカァァァァアァァァァァアァァァァァァッ!?
……”眞紅の炎”は飛び掛かる……ッ! ずっとこの
〜 ガバッ! ゴンッ! 〜
「ブハアァァッ!? ハァハァハァハァ……ゆ……夢……かぁ……」
……と、呑気に納得してしまう
〜 ……ゴロゴロゴロ……ッ! バタバタバタ……ッ! 〜
「痛ッッッッテェェェェェェェェッ!?」
……とまぁ、夢には関係ないが……。
彼女の眠っていたベッドの対岸で、額を押えながら床の上でのたうち回る
実況、雑すぎんだろうがッ!? テメェッ!
「イタリシテ……」じゃあねぇよッ!? 居るんだよッ!?
起き上がった
「なっ、何ッ!? なんなの!? なんなのココォォ!?」
「いッ、イテテ……お……落ち着けって……。
そう、慌てふためく前に、
――丸で状況が理解できないと、壊れたロボットのように首を
その一方で、余りの痛みに足をバタつかせていた彼は、何とか彼女を見据え、左手で頭突きされたらしい額を抑えつつ……右手で彼女を指差しながら、そう言っていた。
「えっ!? なっ……何で”ニンゲン”が……ぼ、ボクの前に……ッ!?」
――怒りの入り混じった彼の苦々しい表情に怯えたのか……後退するかのように身じろぐ彼女……。
「いや、話をスリ替えるなよ!?
その質問に答えても良いけど……その前に、オレに
「……い……いや……」
「ん?」
「……な、なんで……ボクが……ボクに
――
一方で彼は、彼女の一人称が「ボク」という事に……。
「……えぇ……マジかよ? その
”1分”に
「……あぁ……落ち着け。
後、
……分かるよな? あのクソ野盗共に襲われて、オレがあのクソ共を倒して……それでアンタ……いや、君が……気絶する前に、オレに対して”ありがとう”……って、言ってくれたじゃあないか? 覚えてるだろう……?」
――未だ痛む額への怒りを何とか
しかし、彼が話しながらゆっくりと”歩み寄る”のを見ていた彼女は……。
「イヤッ! 来ないでッ!」
――突然の叫びに、思わず歩みを止めてしまう彼。
「ボクは
――唐突な……”筋の見えない鋭い一言”に、彼の怒りは再燃してしまう……!
「……じゃあ、誰に対して言ってたんだよ……! 助けたオレは何だったんだよッ!?」
――燃える怒りが、彼を突き動かし……再び彼女に彼は
「ッ! イヤッ! だから来ないでッ!」
〜 ズイッ! 〜
「うおッ!?」
〜 ヒョイッ! バッ! 〜
――明確な拒絶の言葉と共に、右手を彼の顔面目掛けて突き出した彼女……!
しかし、唐突な事であったが……彼は何とかこの”突っ張り”をギリギリ回避する事が出来たのだが……。
その”突っ張り”が外れた事実を認識した瞬間、ベッドから飛び出した彼女の行動を見た彼は、
「ちょ、おいッ!? 何してんだよ!?」
「ッ! イヤッ! 来ないでッ! 来ないでッ!」
〜 ダダダダダダダダダダ……ッ! 〜
……結論を言おう、彼女は
”床”は勿論、”壁”や……”天井”でさえも……ッ!
……決して立派とは言えない木製の壁に掛けられた、年季の入った
その他床などに置かれた
……なんで彼は止めなかったって?
そりゃあ、彼の足をフル回転さようとも……
なんせ……彼女は、彼が
……出口となる扉に迫っても……その扉を壁として
だが、先程一瞬、”天井”……の部分で言い淀んでしまったのは、それが完璧に為し得なかったからだ……!
〜 バンッ! 〜
「やかましいよッ! オマエさん達ッ!
これ以上私の家を荒らすなら、今すぐにでも叩き出すワサッ!」
……と、弓を持った右手を掲げつつ、我が家の玄関で怒鳴り声を上げるベルガ。
……背中に
その帰った矢先に
〜 ……ピタッ、ヒュ〜ン……ドスンッ! 〜
「「ッ!? イタアァァァァァッ!?」」
……と、彼女の怒鳴り声に彼と同時にベルガに対し
もれなく、止めた脚によって重力に逆らえなくなり……彼の真上へダイビングしてしまったというワケだ……。
潰れたカエルの様にピクピク
「……何してんだい? オマエさん達?
そこで寝てる暇があったら、とっと部屋を片付けな!」
「いや!? そこは心配しろよッ!? クソババアッ!
ソレを、”
……とまぁ、ごもっともだが――同時に失礼な
「ほぉ〜? オマエさん、アタしゃん
――アシカの如く仰け反り、ベルガに噛みつく
「か……介護の合間に、”
「けど、荒らしたのは事実ワサよね?
それに、オマエさんが嬢ちゃんの暴走を止められなかったのも……?」
「ウッ」
――鼻に掛かる圧が増すと共に、彼は黙ってしまう……。
「けっ、けどな!
やるにはやるが、今さっき頭打ったばかりなのに、すぐに仕事って言われちゃあ――出来る仕事も出来ないんだよ! だから……!」
「……ハァ」
――唐突にベルガはタメ息を漏らす。
「だったら、痛みが引くまでは待つワサ……。
けど……痛みが引いたら、とっととそこの嬢ちゃんと一緒に片付けるワサ! 良いワサねッ!?」
――と
ベルガは、入り口近くのあった長方形のテーブルに採って来た”戦果”を放り投げると、ドカドカと玄関から出て行ったのであった……。
少しして、獣人の彼女が寝るベッドの壁の向かい側から、”パカンッ! パコンッ!”……と、小気味良いリズムで、
彼は「日課の薪割りか……」と鼻の頭を
……たった一週間ではあるが、彼女は怒鳴る度にコレに似た状況になるため、彼は”嫌な事があった際の
「……ハァ……おい、起きろよ?」
「……」
――とまぁ、ベルガの日課(?)に付き合った彼はタメ息を漏らしつつも、背中でグッタリとしていた「獣人の彼女」に声を掛けたのだが……反応がない?
……いや、微かだがチャンと寝息のような呼吸音はしていた。
しかし――僅かに向けられた彼の視界は、まるで
「……ハァ……よい……しょっとッ! ホラッ!」
「……ッ!?」
――と、彼は何とか”うつ伏せ”の状態から彼女を起こさないように浮かせ……”仰向け”になった。
そしてそこから、彼女の両膝裏と背中の
”
そうして、同時に立ち上がった彼は――彼女が寝ていたマットレスや掛け布団もない、木製の寝台の上に敷き詰められた
「……ほらな? 乱暴も、
――明らかな呆れは混じってながらも、チョッピリ自慢げに語る彼。
「……」
――一方、寝かされた
「……なぁ?
じゃあ聞くが、ヒドイことした奴ら……”野盗”だって基準は……君の中ではどうなってんだ?」
「……ス〜ピ〜……ス〜ピ〜……ス〜ピ〜」
……なんとまぁ、可愛らしく
しかし、彼は何を思ったのか……そっぽをむく彼女の左肩に手を掛け、一気に引くと……!?
「……ス〜ピ〜……ス〜ピ〜……ス〜ピ〜」
――そこには、変な横目におちょぼ口で「……ス〜ピ〜」と、繰り返す彼女が……ッ!?
「……変な顔してんなぁ……おい?」
「みっ、見ないでよ!」
――肩に掛けられた彼の手を払い
「……なぁ? 答えてくれよ? 二つも質問が詰まってんだぞ?
オレは、天井から落ちた君を
「……」
「……オレじゃなくて、誰に”ありがとう”って言ったんだ?
そして、”野盗じゃあない”……って、説明しても――まだその下手クソな”
――
「……覚えてない……」
「ん?」
「……覚えてない……のよ……。誰だったのか……」
――ポツリポツリと喋る彼女。
「……意識が
「……モウロウ?」
――まるで”初めて聞いた”……と言わんばかりな口調で、首を
「……じゃあ、記憶喪失でもしてるのか?」
「……キオクソウシツ?」
「……」
――呆れ顔で固まる彼の胸中を代弁しよう。
「……あっ、もしかして……コレって”
……現実では、
「……いや、ここはファンタジー世界だ……! 中世ヨーロッパ的な時代なら、あんまり”学”がなくても当然だから、仕方ないハズだろ……ッ!」
……と、再び自身が怒った性で、
そして、落ち着いて聞き出すためにも……彼はベッド近くに置かれていた、
「……すまない、ちょっと難しい言葉だったか?
一応、言っておくと……”朦朧”は、「ぼんやり」って感じの意味で、”記憶喪失”は「記憶を
「……そう……」
――そして、彼はほぼ確信した。
「……次からは、彼女の前では”難しい
「あぁ……じゃあ、話題を変えようか。さっきまでのオレの質問はもういいよ」
「……」
――
未だ
「まずは……自己紹介でもしようか?
ほら、いつまでも”君”や”オレ”……って、感じで続けるのも……何か……煩わしいしな?」
「……ワズワラシイ?」
「……「面倒くさくない?」……って事な?」
――一瞬、イラッとしてしまう彼だが、「落ち着け落ち着け……反省したばっかりだろ……!?」……と、何とか心を落ち着かせる。
「あぁ……じゃあ、まずは君からお願いできない……かな?」
「……」
「……アハハ〜? おかしいなぁ……?
こういう時は……「名前を聞く時は、聞く方から名乗るのが礼儀でしょ!?」……って感じに怒るモンなんだけどな〜?」
「……そう……」
――予想以上に
「そ…そっか……じゃあ、
「……」
「えぇっと……じゃあ……言わせてもらうな?」
「……」
「……名前、やっぱり……言ってくれる気には……?」
「……勝手に言ってれば……?」
「……ですよね〜? 言い出しっぺはオレだしなぁ〜ア〜ハッハッハッ!」
「……」
「……ハァ……。
じゃあ……言うけど……スゥゥ……オレの名前は、坊じ……」
〜 ズッキィィィン!!! 〜
「あ゛……ッ? か……ッ!?」
――再び、彼の後頭部辺りに走る……鋭い痛み……ッ!
余りの痛みに、彼女の頭に倒れ込む勢いによって、今度は彼が「頭突き」を
「……ッ!? どっ、どうしたのよッ!?」
――流石に、頭上の違和感とこの異常に気づいたのか……上半身を起こして少し
「や、
「えっ? な、何が来たって言うの……!?」
「いっ、イヤ……大丈夫だ。
ちゃ、チャンと言うからな……? オレは、ぼ……」
〜 ズズッキィィィン!!! 〜
――先程の痛みが、二度連続で叩き込まれたような激痛に……彼は言葉が詰まってしまう……!
「ボォ……ボォ……ッ」
「ほ、本当に大丈夫? すっ……すごい汗が流れてるよ……?」
「だ……大丈夫だから……! ホラッ! オレは、ぼ……」
〜 ズドッキィィィン!!! 〜
「……ッ!?」
……言葉も出せない程の”壊滅的な痛み”に、彼は両手で頭を抱えながら激しく頭を前後左右に揺さぶってしまう……!
「も……もういいよ……。
病気……か何かなら、それ以上はぼ……私のために言わなくても……!」
――その姿を見てられなかったのか……彼女は思わず、
「ハァ、ハァ、ハァ……ボォ……スゥ……ッ!」
「……えっ?」
「オレの名前は……
――彼は激痛に
何せ、”ぼ”と”す”……自身の「名字」と「名前」の
何度も抵抗を試みた彼が、白旗を振って降伏するのも無理はないだろう……。
「ハァ……クソウザッてぇけど……良いぜ? やってやるよッ! この世界じゃあ、”ボス”って名前で生きてやんよッ!」……それが、言葉を絞り出した彼の胸中なのであった……!
「ボスゥ……? それが……君の名前……?」
「……あぁ、そうだ……。
オレでさえ訳分かんねェ、この”病気か何か”に必死で
そっちだって……このオレの苦労に見合った名前を、言ってくれるよなぁ?」
――いまだ流れる汗を
「そっ、そうなんだ……」
――しかし、彼女は両手の指同士を合わせたまま……何故か目を
「……どうした? 名前が言えない事情があるのか?」
「えぇっと……その……」
「おいおいおいおいおいおいおい……。
オレだけに言わせるとか……そりゃあ、ないだろ……?」
「……」
「……じゃあ、なんだ?
君の名前は”獣人さん”……だとか、”猫耳ちゃん”……とでも呼べばいいのか?」
「やっ、やめてよッ! そんな変な名前ッ!」
「仕方ないだろ? そっちが名乗らないんだから……。
そうなると必然的に、オレが君の名前を考えなくちゃならなくなる」
「ウゥゥ……」
――彼の方へ向き直り、少し怒鳴るように否定していた彼女だったが……今現在は彼の真っ直ぐな視線に対して直角に体の向きを変えていた。そして……両
「……なんだよ?
変な名前で呼ばれても、まだオレに言いたくないってのか……?」
――ボスは少し呆れたかのように、組んでいた両腕の内、右腕の方で
その証拠に、僅かばかり……彼の表情を
恐らくだが、先程の彼が激痛に苦しむ姿を見た事も含め……少なからず”申し訳ない”的な事を思い始めたのだろう……。そして、何度目か彼の方を見た後……再び彼女は顔を膝へと埋めるとポツリ、ポツリと、呟きだしたのだ。
「……だって……覚えてないもん……」
「……はっ?」
「……
「……マジか……。
て言うか……それなら、最初から自分は”記憶喪失してた”……って、言ってくれれば……」
「……だって、無理だもん。
……キオクソウシツも……ボスみたいな……
――「……優しい人間? ……知らなかった?」……ボスは思わず言い
それもその筈、自身も「記憶喪失」な身の上で、更に助けた相手も「記憶喪失」だという……予想だにしない、
だが、ボス君よ。ここで忘れてはいけないのは……そんな”重い話”を、彼女が
ほら、彼女が膝に埋めていた顔を”チョッピリ”こちらに向けた事も、見逃してはならないぞ……!?
……暇な間、変な物でも
彼女が警戒心を解いてきたぐらいは、何となく分かってるからな……?
「今更だけど……あの時、「ありがとう」……って、今だったらそう思ってた気もするよ……。けど……どう言えばいいのさ……?
君みたいな……”優しい……ニンゲン?”には……初めて……会ったばかりだし……。
ぼ……いや……わ、私が話せていたのは……
「”私と同じ男や女”……? ……”種族”って事か?」
「あっ、多分……それ……」
――彼女の余りの学の無さに、再びタメ息が漏れ出そうになるが何とか押し止める……!
しかし、ボスは彼女から「信頼」を勝ち
彼としては、「余計なお世話」と言う”地雷”は踏み抜きたくないのである……! 今の発言でもそうだ。彼は、彼女が”獣人”と言う事以外……ほぼ
「あぁん……じゃあさ、何か話が暗くなって来ちゃったし……。
また、話題を変えようか!」
「……また……?」
――だからこそなのか、ボスは一旦別の方向から”情報収集”をする事にしたのだ……!
「ほら! お互い……本当の名前が分からないわけだし……。
それなら、
……何が面白いのだ?
うるせェッ! 黙れッ!
元の世界でも”獣人”どころか、不特定多数の”女子”や”女性”と話した事なんて無いオレだぞッ!? 手探りに必死なんだよッ!
「……面白い?」
「そう! 例えば……何処出身だとか! 好きな食べ物は何か……だとか!」
「……ゴメン」
「……えぇ?
それなら……趣味とか! ほら! 好きな人や
「……ゴメン」
「……ほら……なら、オレは異世界人なんだぞ〜! ……って!」
「……ゴメンね、ボス……どれも……覚えてないや……」
……見事な”
無論、私に向け濃厚な殺気的”何か”を発しながら……彼は押し黙ってしまう。
しかし、それと同時に……彼は、自身の”記憶喪失”と言う物が、どれだけ「ちっぽけな物」かと思い知らされる事になったのだ……!
なんせ、目の前の彼女は……名前も、出身も、趣味も、好きな食べ物も、好きな人や憧れていた人でさえも……
彼自身、もう「学がない」……と言う事に、
「……じゃあさ、付けても……良いかな……?
「……えっ!?」
――だからこそだろう、再び膝に顔を埋めてしまっていた彼女が、思わず顔を上げてしまう事を……彼は口走っていた。「……どうしても与えたい……!」彼の中に浮かぶ、”とある一つの信念”が彼を突き動かしていたのだ……!
「……
オレだけ、「ボス」……って、仮でも名前があるのは……?
だからこそなんだけど……」
「……」
「……イヤ……かなぁ……?」
――真っ直ぐに、ボスを見続ける彼女。
言い澱みながらも、確認を取る彼に対し……彼女は静かに、「うん……いいよ」と言うのであった……!
「……ッ! フゥ……あ、ありがとうな? じゃあ……!」
――彼女から了承を得た彼は、改めて彼女の容姿をマジマジと観察するのであった……!
クリッと丸く大きくも、”
一見ボサボサとした寝癖に見えつつも、実は整っているかのように
そして一番特徴的なのが、”額”と”アイライン”、そして”頰”に、「波」や「角」とも言えるような……地球の”先住民族”を
そしてそして、彼女を「獣人」とたらしめる……「猫な耳」に、「手の肉球」ッ!
……この間彼の様子に対し、文句は言わなかったが少し”モジモジ”と気恥ずかしそうにする彼女であったが……どうやら、彼のネーミングは決まったようである……!
「……
「……えっ?」
「……いや、それじゃあ
「……お、男っぽい? り、リボルバー?」
――彼の脳裏に浮かんでいたとある人物……それは彼が
その姿に、彼女のフェイスペイントらしき模様が、
「……うん、
「……オル…セット?」
「そう、
……あぁ、仲良しな人を呼ぶ際の短い呼び方で、その呼び名が”オルガ”な? どうだ?」
――因みにこの「オルガ」も、同じ大好きなゲームから取った登場人物の名前である。
違いがあるとすれば……この名前の人物は
まぁ……「オルセット」の響きに近く、呼びやすいから取っただけかもしれないが……。
……うるせェッ!
「……”オルセット”に……”オルガ”……」
「そう、どうだ? 気に入ったか?」
「……うん、しっくり来る気がする……。
それに……チョッピリ、カッコいいかも……!」
「へぇ〜
「……何ソレ? カッコイイ物には、カッコイイって言うものでしょ?」
「そ、そうなのか? まぁ、でも……二人とも立派な兵士…いや、戦士?
……とにかく、メチャクチャ強い人達だったから……
「メチャクチャ強い人……フフッ、そっかぁ……!
だからかな……気に入ったの!」
――「……彼女は
「……オレが良く誤解されたように、勝手に決めつけるのは……良くないよな……」……先程の”目にも止まらぬ走り”と”彼自身の経験則”から、彼はこのような胸中を抱いていたのである……。
「へぇ……じゃあ、何か強い魔物を倒した事とか、覚えていたりするのか?」
「えぇっと……それは……」
〜 バンッ! 〜
「お前さん達ッ! いつまでお喋りしている気なんだいッ!?」
――しかし、この和やかになり始めた談話を
「べっ、ベルガの婆さんッ!? 薪割りしてたんじゃあ……ッ!?」
「壁の隙間風からお前さん達の
それと……いつになったら、お前さんの痛みは消えるワサッ!?」
――ドカドカと彼らに迫りつつ、右手で彼を指差しながら抗議するベルガ。
「あ、甘ったるい? おいおい、誤解だぜ……今まで寝込んでいて正体不明だった彼女が、何者だったのか「事情聴取」してったのに、何処が”甘ったるい話”になったんてんだ?
それに、お互いが”記憶喪失”してるって言う……
「……ジジョウチョウシュウ……が何かは分からないワサけど……。
そうも言いたくなるワサッ! お前さん達がこのまま話を続けていたら……
――呆れるように
一方のオルセットは、彼らの話に付いて行けず――再び首を右往左往させていたが……彼らの話に入る勇気は持ち合わせてなかったようだ。
「……明日以降の生活? ……アレじゃあダメなのか?」
――と、彼が一瞬顔を向けた先には……。
入り口近くの長方形のテーブルに投げ捨てられた”彼女の戦果”であった。
「あぁ、そうだとも。獲って来れたワサ。
確かにアレなら、
「……今日の分?」
「けどね……? 今までアタしゃがコツコツ貯めてきた……
「……」
――ボスの
……黙れよッ!?
「何だい、その嫌そうな顔は?
まさか……こうなった責任も取らずに今後、アタしゃに
――この時、彼の脳裏には……
しかしながら、ボスはそんな事を
「めっ、
「ほぉ……? じゃあさっきの嫌そうな表情で、
「お、オルセットも一緒にッ!?
おいおい、オレだけならまだしも、彼女は病み上がり……!」
「今すぐ、彼女に使った「ミドルポーション」の代金……払ってもらってもイイワサよ?」
「うッ!?」
「昔、王都で買って……何かあった時のために残しておいた……
買いに行った手間賃含めて、
……耳を
――この一言に、ボスは黙らざるを得なかった……。
オルセットをベルガの家に運び込んだ初日、ベルガの家に備蓄していた”薬草”だけでは、オルセットの怪我が治る見込みがほとんどなかったのだ……。
「頼む助けてくれ! 礼ならなんでもする! だから頼むよ!」
……と、泣き叫びながら彼に頼み込まれたベルガが
……その恩もあり、彼はこの地味に
「ハァ……分かったよ。
そんな”ボッタクリ価格”を払える手持ちなんか、今持ってるワケないしな……」
――ちなみに、この時のボスは彼女に”異世界人”である事を話しておらず……もう少し信頼関係を結んでから”この世界の常識”を聞こうと考えていたため、”金貨10枚”の正確な値段を知らなかった。
ただ、
「……”ボッタクリ”なんて、失礼だワサねぇ……
「それでも、
手間賃が高すぎるんじゃあないか?」
「そりゃあ、王都なんて……。
ここから歩いて”10日以上”掛かるワサからねェ……」
――「10日以上? 確か……人が1日に歩ける距離が”30km”ぐらいだったハズだから……王都まで約300km……東京から
……と、彼はいつの間にか頭の中で計算をしていた。
因みに、彼はラノベ内のチート知識などが本当かどうか、いつも
……現代における、
「……そうか。
まぁ、それはともかく、オレは構わないけど……彼女……オルセットはマジで勘弁してくれないか?
ホラ……さっきも言ったけど……オルセットは病み上がりだし、記憶を失くしてて……」
「イイワサよ? ……金貨10枚、今すぐ払えるなら?」
「あのなぁ……何でそんなガメついか知らないが、さっき言った事を……」
「お黙りワサッ!
強欲も何も、この騒ぎを
「えっ!? ぼ……わ、私ッ!?」
――唐突に指されたオルセットに対し、ボスは忙しなく目を泳がせるしかなかった……!
彼女が直接、”オルセットが走っていた部分”を
もう、言おうが言わまいが……彼女が責任を取らされるのは”時間の問題”であったと、彼は痛感するのであった……!
「……OK、OK……降参だ。
……と言うワケだ、オルセット。今すぐこの部屋を片付けて、食糧調達に行くぞ?」
「……えッ!? ぼ……わ、私も片付けるの!?」
「……まさか、今さっき”走り回ってた事”も……
――ボスの睨みに、彼女の視線が部屋を見渡すように泳ぐ……。
「あぁ……まぁ……そうだよね……。
ぼ……わ、私が……やっちゃてたんだよね……?」
――ボスとベルガ、この発言に思わずタメ息を漏らす。
「……まぁ、嬢ちゃんも分かったみたいワサから……今すぐにでもやってもらおうワサかねェ……?」
「おい、ベルガの婆さん……一応、彼女には”オルセット”って名前が……!」
「でも、
オマケに……そんな尊重出来る程の事をやってくれたどころか、
――オルセットを横目で睨むベルガに対し、ぐうの音も出ないボス。
しかしながら、オルセットは彼の顔を見て”良くない状況”だとは理解したらしく……?
「あの……ベルガ……さん?」
「んっ?」
「その……ゴメンナサイ。部屋を……荒らしちゃって……」
――目を細め、渋い表情をしたまま黙りこくるベルガ。
「も、もう……体の痛みも……ほとんどないですし……。
ぼ……わ、私もボスと一緒にこの部屋を片付けるので……それ以上……ボスに言うのは……」
――そう言われたボスは、何故かじんわりと……
一方でベルガは、オルセットに言われた後……開けっ放しにしていた扉の外に一瞬視線を向け、彼女に視線を戻すと……?
「……フン、こうも長々と
今日の所は、サッサと
――そう言うと、彼女は入り口の扉へと歩いて行き……手を掛けた後、彼らに向けて体を振り向かせると……?
「いいかいッ!?
明日になったら、とっとと二人で食糧を探してくるワサよ!? イイワサねェッ!?」
〜 バタンッ! 〜
――と、勢い良く扉を締めながら去って行くのであった……。
一方の取り残された二人は、再び壁の向こうから”パカンッ! パコンッ!”……と、小気味良いリズムが聞こえてくるのを確認すると……?
何故か、二人して目を合わせ……声を抑えて、お互い
「なんか……怖かったねェ、ボスゥ……」
「あぁ、あんだけ怒られたのは……久しぶりな気がする……」
「……意外。
――これまた意外にも、ボスに向けて”ニッと”歯を出す……気持ちの良い笑顔を見せるオルセット。
「……ボク?」
「……あッ! わ……
――目をパチクリさせ、何故か急に言い直すオルセット。
「……なぁ、さっきから思ってたんだが……。
何で”ボク”って、一人称を使いたがらないんだ……?」
「……イチニンショウ……?」
――再び、首を
「あぁ、悪い……えぇと……ホラ、”オレ”とか……”私”とか……それと、”ボク”!
そう言った”自分の事”を話す時に言うのが”一人称”って、言うんだよ? 分かったか?」
「……へぇ〜そうなんだ……知らなかった……」
――そう言った境に、何故か二人は黙り込んでしまう……。
「……なぁ、そんな”ボク”……って、一人称を言うのが……その……
あるいは……誰かに「言っちゃダメ」なんて……言われたりしたとか……」
――流石、女の扱い方検定”
しどろもどろながらもここは手堅く、恐る恐る質問して行く……ッ!
……黙れよッ! クソがッ!
「イヤ……だからかなぁ……」
――と、再び両太股を抱き抱え、その両膝の上に顔を埋めてしまいながら言うオルセット……。
「……何が
「……よく覚えてないけど……ぼ……私が、この”イチニンショウ”を言う度に……周りにいた人が、
「……」
「ねぇ……ボスゥ?
ボスも……この”イチニンショウ”……嫌いだったりする?」
――大好物である! ……なんて、彼は言う筈もなく……?
黙れってのッ!
……まぁ、”ボクっ子”は可愛いし、好きなのは認めるケド……ッ!
「……気にしねェよ。
むしろ、オレが居たところじゃあ……「オレ」なんて
「……ホント?」
――目の部分まで顔を上げつつ、そう聞く彼女。
因みにだが、江戸時代では老若男女問わず「俺」と言っても、別に問題なかったらしい。
「あぁ、ホントさ。
というか……そんな目をした気の小さい奴なんて、ほっとけ。
一人称の言い方なんて、
「……ホントに?」
――鼻の部分まで顔を上げつつ、そう聞く彼女。
「あぁ。
むしろオレは、オルセットが”ボク”って……
――首の後ろに右手を当てつつ、少しはにかみながら言うボス。
それに対し、彼女は……?
「……ッ!?」
――一瞬、 キョトンとした後……急に顔が赤面し、慌てて顔を両膝に埋めてしまうのであった……ッ!?
「ど、どうしたッ!? オレ……何か……変な事言っちまってたかッ!?」
「……ン〜ン……違う……」
「……えっ?」
「けど……ありがとう……ボスゥ……!」
――聞き取るのがやっとという声で、ボソボソとお礼を言うオルセット。
「……?」
――「……そんなお礼を言う事か? 一人称の事ぐらいで……?」
それぐらいに、彼は思っていた……彼女の胸中は知らずに……。
……お前もかよ……?
「ところで……ボスゥ?」
――いつの間にか、顔を上げていたオルセットがボスに問いかける。
「……んっ? どうした?」
「さっき言ってた……”イセカイジン”……って、何?」
「……あっ」
――焦りと緊張の余り、ボス自身の最大であろう”
<異傭なるTips> ベルガ
野盗達が言っていた「トルガ村」に住む、老婆。
作中での容姿は、未だ明確な描写はされていなかったが、ここで明記しておくと……。
髪の色は”
だが、歳の性か根元辺りは”白髪”に、毛先に迫る程に”元の髪色”になって行く……と言った
一言で顔のイメージで伝えるのなら、「
しかし、心に何かを抱えているのか……本来はその優しそうな顔つきは常に眉間にシワを寄せ、「イジワル婆さん」という言葉が似合いそうな――近寄りがたい雰囲気を
「獣人は違法(意訳)」と知りながらも、村での受け入れを全て断られた”オルセット”と共に、彼女を連れてきた”ボス”の二人を受け入れ、治療までも
”薪割り”や”狩猟”などを、毎日率先して行うためか――見た目の割には年相応の”猫背”などにはなっておらず、どこか”普通の老婆”とは言えない……「年老いた美しさ」も、近寄りがたい雰囲気の中に秘めている……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます