第38話 バトルソウルズ

「ほんで、どこ行くんだ?」


 俺はダンジョン帰りの冒険者などが、往来する街を見ながら言う。


「そこは男の子がエスコートする所と言いたいけど、君はそっちの知識には富んでなさそうだからいいや」


 おう、俺は遊びはしない主義なんだ、断じて遊ぶ相手がいないとかではないですよ?


「行きたい目星があったから、俺を誘ったんじゃないのかよ……」


 しばらくの間歩いていると、明らかに雰囲気が重い場所に出た。そこは俺が苦手として、あえていかなかった場所である。所謂風俗街的な所だ。


 1人でいる分ならまだマシだが、現在は2人あり、しかも女の子であるもんで、親とテレビをみていたら、大人のシーンがあって気まずくなる様な、テンプレの様な感想だが、それが1番この状況を説明出来ている。


「じゃ、そこに行こうよ!」


 分身丸が指差す方向には先程の店があった筈だが、何だ!早く卒業しろってか!?余計なお世話だ!


 半分怒りと、もう半分は困惑の感情を浮かべながら、分身丸が指差す方を見ると、案の定あの店だった。


「お前の気遣いは嬉しいが、ちょっと……な」


「ち、違うから!その隣だよ!!」


 分身丸は慌てながら、横という所を誇張する。


「え?」


 例の店の隣を見ると、ピカピカと激しい光を放ち、見ていると目が変になりそうなザ・カジノ的な建物があった。


「まじで言ってんの?」


「あの人達も入っているから、大丈夫だよ」


 その店に入っている人にサングラスをつけた護衛が複数いるのはどう言う事なんですかね?


 明らかにヤバイ店だ、帰ってくる時には臓器が少なくなっているのではないか。そんな危機感を覚えたが、俺の微かな抵抗も虚しく、分身丸に首根っこを掴まれ、渋々ヤバそうな店の中へと入る事になってしまった。


 中に入ると、思っていた治安の悪さは無く、各々が何かを賭けて真剣にカードゲームを行なっていた。


 使用するのは、金の装飾も施されていない、普通のトランプであり、完全な実力勝負だった。


 賭けている物の中には、金や金品なども勿論あったのだが、1番俺の注意を引いたのが、自分の女性を賭けて勝負している人がいた事だ。


 別に奴隷とかではなく、むしろその真逆。女性の風体はとても子綺麗でありながら、力強さがあった。


 単純に勝負でどっちが上かを決め、強い男の方を女性が取る。そんな話だろう。


「それで何すんだ?」


「あれやってみたいな」


 分身丸が見つめる所には、日本で流行しているカードゲームのバトルソウルズで勝負をしている人がいた。


 説明しよう!バトルソウルズとは……って、今更説明なんか要らないか。


 てか、何でこんな物が異世界に?と、思ったが、俺の先に来た転生者が広めていったのだろうが、転生した奴って記憶が……。


「ま、今はそんな事どうでもいいじゃねーか!」


 そう火炎龍の如く、意気込んでいた俺の肩をポンと叩く手があった。振り返ると、先程まで女性を賭けて勝負をしていた男がそこにいた。背後にはちょこんと女性が付き添っており、あの勝負に勝った事が分かる。


「何か用ですか?」


 そう尋ねると、男の瞳が俺の瞳と重なり、男が叫んだ。


「ワシとアンタの女を賭けて勝負だ!」


「えっと、他の人ォッ!」


 俺が話している途中だったのだが、容赦なく勝負に持ち込もうとする。


 ったく、どこのトレーナーだよ、問答無用で勝負に引き込もうとする男を振り解こうと、男のお目当てである分身丸の方を見て言う。


「おい、お前からも……って、何で乗り気なの!?」


 勝負が行われるテーブルに向かう俺の後ろを、テクテクと楽しそうに付いてきている。


「僕の貞操を賭けて頑張ってね!」


 何だコイツ乗りが異様に軽いのだが、自分の言っている意味が分かっていないのか!?


 そして一息つくと、俺は重要な事に気がついた。


 いや待てよ、俺はこのゲームのカードを何千枚とコレクションしている。物置を探ればカードが複数枚飛び出してくるし、服を叩くとレアカードが落ちてくるレベルだ。


 所謂、体はカードで出来ている状態な訳である。


 対する男は、従来のトランプだと強いのかもしれないが、勝負するのはこっちのテリトリーであるゲームだ、既に俺の懐中で弄ばれている事に気が付いていないようだ。普通に考えてみて、この状況で負けるビジョンを思い付く方が難儀だ。


 ここで俺が勝負に勝って、客の人気を掻っ攫おう。そして肩書きは"閃光の暗殺者ハートブレイカー"心臓麻痺の様に、実力者が一瞬で事切れる姿を見て、付けられた名前だ(予定)


 自分が崇められる未来を浮かべ、ニヤニヤが止まらなくなり、俺達の勝負に興味を持ってついてきた人達が怪訝な目を向けてくる。


 何という愚かさよな、自分の力を過信しすぎたか、俺がここに来るのを初めてだからと言って、初心者という訳ではない。


『お前の敗因、それは自分への異様な自信だ。それと、俺が初心者だといつから錯覚していた?』と、勝利した時の決めゼリフを頭の中で構築していると、勝負の席に到着した。


 俺の顔には余裕が溢れていたようで、男も少し警戒している。


 もっと牽制しておいた方がいいのだと思うが、俺の力が有れば、そんな物は必要ない。


「では、始めようか」


 完全ランダムのデッキが渡され、内訳を見ていると、生前俺が欲しくても手に入らなかった"逆鱗の双眸 デスアイズ"が組み込んであり、一気にテンションがバク上がりする。


 これを運命と呼ばずして、何と呼ぼうか。


「ゲームスタート!」 


 その掛け声と共に、勝負が始まった。




「何でェェェェェェェェサァ!!」


 あっそうそう、負けました。


 しかし、その敗北は圧倒的理不尽によっても招かれた事だった。


 俺の知っているバトルソウルズは最高レア度が☆5なのだが、俺の負かせたカードのレア度は☆10だったのだ。


 そして、自分よりレア度の低い敵を皆殺しにするという、トンデモ技で勝負が決まってしまったのだが、それに対して疑問を呈する者は存在せず、称賛の声ばかりだけだったのがおかしい。


「では、そこの子は私が頂くよ」


 そう男が言うので、俺の背後にいた分身丸に視線を移してみるが、至って余裕な感じであり、俺に向かった微笑む。


 男が立ち上がり、分身丸の細い腕を掴もうとした瞬間だった。


 分身丸がここに俺を連れて来た時と同じく、首根っこ

 をもって出口に走り出したのだ。


「つ、掴まえろ!」


 男にとって分身丸は賭けで手に入れた筈の物であり、それが逃走を図ったので、当然だが背後からバタバタと足音が聞こえる。


「うわ、凄くまずい事しちゃったよ」


 俺は自分の足で、先行する背中を追いかけながら言うが。


「追いかけっこ、楽しいね」


 俺との感性が圧倒的にズレており、ついていけない、流石真横軍幹部だ。


「お前こんな状況を楽しめる程の狂人だったのか」


 派手に照らされた道を、かつてフィーエルと共にして駆ける。 


「凄く楽しいよ!」


 ふと真横に来た時に見えた彼女の横顔は、何も不純な物が混じっていなく、心の底から楽しそうだった。

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